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「それでは、ご祝杯でも上げられますか?」
言いながら、家の中へいそいそと入って行く華さんに、
「……実は、昨夜は飲み過ぎてな。もうアルコールは……」
蓮水さんが困ったようにも口に出した。
「まぁ、不甲斐ない! またですか?」
振り向いた華さんの口から、以前と同じような言葉が飛んでくる。
「……ああ、不甲斐ないが……。ただ酔った状態で、彼女と夜を共にする気もなかったんだ……。……大事にしてやりたくてな」
昨夜、抱くだけにとどめた彼の想いが改めて伝わって、顔が熱くなるのを感じていると、
そんな私の顔色を知ってか知らずか、「わかっていますよ」と、華さんが笑みをこぼした。
「陽介様は、そういう方ですから。三ッ塚さんも、だからお好きになられたのでしょう?」
急に私に話が振られて、「え、あっ…はい」と、どもりながら答えた。
「それでは、お酒ではなく、私の淹れたお茶でご祝杯と行きましょうか」
華さんがパタパタとせわしない様子でダイニングへ引っ込むと、
「……好きだよ」
彼から、耳の付け根にそっと唇が寄せられた。
「……きゃっ」
キスされた耳がみるみる赤くなるのがわかって、
「ここ、玄関ですから……」
と、照れ隠しのふりで唇を少しだけ尖らせると、
今度は、その唇にキスが降りた──。
「何をしておいでなんです? お茶が入りましたよ!」
華さんの呼ぶ声が聞こえて、リビングへ向かう彼のスーツの裾をちょこっと摘まむと、
「……うん?」と、気づいた彼が振り返って、
「そんなところを摘ままずに、手を握るといい」
大きくて温かな手を差し出して、包むように私の手を握った。
長い間、触れたくても触れることの叶わなかった彼は、今は私の目の前にいて、思いを通じ合えたことを心から幸せに感じた──。