2年後
:.*゜:.
拓哉は埼玉スタジアムのVIP席の最前列を、仲間達と陣取って中央にあるリングを見つめていた
隣では弘美の膝の上で拓哉の息子陽翔が飛び跳ねている
「こらっハル!大人しくしなさい」
弘美が笑いながらたしなめる、3歳になった陽翔は目を離すとすぐに一人でどこへでも行ってしまう
「私の義理の息子は勝つと思うかね?」
拓哉の前を売店に言っていた父、櫻崎一郎が拓哉の母と一緒にやってきた
「まぁまぁ難しい試合ですねでも・・・これに勝ったらユズは史上最年少のライト級の日本チャンピオンですよ 」
「相手も強そうだな! 」
興奮して拓哉が言う
「ええ!もちろん!対戦相手のフォークの小林選手も良い選手ですよ!彼も大変な人気だこの試合は伝説になりますよ!」
頭上の巨大スクリーンを見上げると、柚彦の顔がアップで映し出されていた
彼は軽いフットワークで動き、リラックスしながら筋肉を温めている
音楽が大音量で鳴り響き、全身の毛穴からにじみ出る汗の粒が、ライトに反射してキラキラしている
柚彦は観客を喜ばせるために拳を高く突き上げた
途端に会場がわっと湧いた
その時セコンドにいる鈴子の顔が画面に一杯にすっぱ抜かれた、会場のあちこちでパラパラ拍手が起こっていた
なぜか鈴子はユズに対してその献身さが有名で、一度などスポーツ栄養士特集でドキュメント放送もされたことがあり、ファンの間ではスポーツ選手の奥さんの鏡と大変人気があった
一郎が画面に映った鈴子を見て顔をしかめる
「ずいぶん腹がデカいな・・・アレは大丈夫なのか? 」
弘美がクスクス笑いながら一郎に説明する
「おなかの中の赤ちゃんが双子だからしかたがありませんわ、あれでも臨月までまだ2か月もありますのよ」
「自分の旦那の人生で一番大事な試合に、アイツがそもそも観客席でじっとしてる訳ありませんよ 」
「ずいぶんと強くなったもんだなぁ~私の娘は・・・ 」
一郎があきれたように言ったそれを弘美が笑う
「もともとの性分だったのかもしれませんね、もしかしたら私達が彼女を勝手にか弱いと決めつけていたのかも 」
一郎が微笑む
「やれやれ・・・子育てとはいつまでたっても難しいものだね」
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