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邸宅を出られたのは、お昼をだいぶ過ぎた頃だった。

準備に手間取ったのもあるが、邪魔されたのだ。約二名によって……。

 

まず手間取ったのは、お父様の寝室に再び訪れた時のこと。

本当に具合が悪いのか疑わしいほど、会話したのが原因だった。

話題がお母様のことだったから仕方がないと言えば、仕方がないんだけど……。

 

「すまなかったね。本来ならキトリーではなく、私から言うべきことだったのに」

「いいえ。お父様の気持ちは分かっています。分かっているつもりです。私の反応が怖かったんですよね。お母様が平民であることを知った時の私の反応が」

 

図星だったのか、黙ってしまった。

 

「その、キトリーさんからお母様の話を聞きました。お父様と出会う前の話を。ですからその後の話を今度、聞かせてもらえませんか?」

 

シュンとするお父様の姿を見て、思わずフォローしたのがいけなかったらしい。

いや、私はちゃんと『今度』と言ったよ。言ったけど、お父様には聞こえなかったみたい。

 

「あぁ、構わないよ。どこから話そうか」

「えっ、お父様?」

「何が聞きたい? イレーヌと出会った頃の話でもしようか」

「お父様、あの……」

「それとも初デートをした時の話はどうだ?」

 

どうしよう。聞きたいけど、それは今じゃないんだよ、お父様。

 

戸惑う私の反応などお構い無しに、お母様の話をし出した。

 

「やはり出会った頃の話をした方が、マリアンヌも想像し易いだろう」

「はぁ」

「そうだなぁ、あれは――……」

 

顎に手を当て、紫色の瞳が閉じられる。

 

こ、これは不味い。語り始めようとしている仕草……!

 

私はお父様の視線がないのをいいことに、ニナとテス卿に助けを求めた。

 

「確か、珍しく馬車に乗らず、出かけた日のことだったな。ちょっと疲れたから――……」

「旦那様」

「カフェに入ったんだ。そこでイレーヌに――……」

「旦那様。そろそろお時間なので……」

 

ニナが私の横にそっとやって来た。強引に割り込む形になったが、それでも穏やかに語りかける。

 

「時間?」

「はい。お父様の手紙をキトリーさんに届けに行くんです」

 

惚けるお父様に、私は念を押すようにして言う。さらにニナも加勢してくれた。

 

「治安隊が来る前に、邸宅を離れた方がよろしいかと思います」

「別に治安隊がいても問題はないだろう。私の用事で行くんだ。それよりも、しばらくマリアンヌに会っていなかったのだから、親子の時間くらいもう少しあってもいいのではないか」

 

確かに、お父様とこうしてお話しするのは久しぶりだ。一カ月以上も会えなかったから、お父様の言い分も分かる。

 

こんな状況じゃなかったら、私も同じ気持ちになっていたと思う。

でも考えて、お父様。今、その話をする場合なのかどうかを。

 

私がどうお父様に説明しようか考えていると、ニナが前に出た。

 

「問題はあります。カルヴェ伯爵家で起きた出来事、しかも旦那様が被害に遇われたというのに、娘であるお嬢様が平然と外出したら、治安隊でなくとも怪しいと感じます」

「それを回避するために、私の用事ということにしたのではないか」

「旦那様が仰っているのは、邸宅にいる使用人たちへの方便です。事情を知らない者たちからしたら、十分怪しい行動に見えます。旦那様はお嬢様に嫌疑がかけられてもよろしいのですか?」

 

凄い剣幕で捲し立てて言うニナの姿に、私は唖然とした。

 

けれど、こういうニナの姿を見たのは初めてじゃない。エリアスが護衛をしていた頃は、よく見ていたからだ。

私の行動に制限をかけるため、ニナが見かねて注意という名の叱咤をしてくれたのだ。

 

最近はケヴィンに似たようなことをしていたわね。

 

けれどそれは相手が同等の存在だったからだ。

まさかお父様にまで言うとは思わなかったけど。

 

怒った顔のニナと、苦虫を噛み潰したような顔をするお父様を交互に見る。

 

「……そうは言っていない」

「ご理解いただきありがとうございます。時間も差し迫っていますので、参りましょう。お嬢様」

「えっ、あ、うん」

 

唖然としている間に、決着はついたらしい。差し出されたニナの手を取って、私は立ち上がった。

 

「それでは行って参ります」

「……あぁ、気をつけるんだよ」

「はい。お父様も、お体を大事になさってください」

 

いつもならここで、お別れの抱擁をするんだけど、お父様の体に負担がかかってはいけない。

だから、私はそっと顔を近づけて、頬にキスをした。

すると、寂しそうな顔が、少しだけ和らぐのが見えた。

 

 

***

 

 

「お嬢様!」

 

玄関先にいると、後ろから呼び止められた。勿論、こんなことをするのは、邸宅内にただ一人。

 

「どうしたの? ポール」

 

私は何事? とでも言う風に問いかけた。

 

「どちらへ行かれるのですか?」

 

ポールもまた、姿勢を正して平静を装う。

予想していた質問に、私も用意していた答えを口にした。

 

「お父様に頼まれて手紙を届けに行くところよ」

「……このような時に、ですか?」

「えぇ。私もお父様に言ったのよ。でも、しばらくは会えそうにないから、と」

「確かにすぐ治るようなものではありませんが、わざわざお嬢様が持って行く必要があるのですか?」

 

普通はない。けれど執事なら、言わなくても理由は分かるはずだ。

 

「ポール。私が行かなければならないほど、お父様と親しくなさっている方なのよ。直接お詫びを言いに行くのは当たり前ではなくて?」

「そうですね。しかしよろしいのですか?」

「何が?」

 

まだ何かあるの? 納得できる理由は話したでしょう。

 

「エリアスのことです。心配ではないのですか? これから治安隊の尋問にかけられるんですよ」

「っ!」

「お嬢様」

 

後ろからそっとニナが声をかけてくれた。落ち着いてと言うように。

 

「勿論、心配よ。でも、お父様の頼み事だもの。娘の私以外、誰ができるというの?」

「エリアスのことも、お嬢様にしかできないことでは?」

「そうね。ポールの言う通りよ」

 

望みの言葉を口にすると、満足そうな表情をした。それがなんとも、憎らしい顔だと思った。

 

恐らく、お父様に毒を盛っているのはポールだ。もしくはその協力者だろう。

その罪をエリアスに擦り付けているのだと思うと、悔しくて堪らなかった。

 

「でも、エリアスはお父様の容態を黙っていた罰にもなるからいいの。エリアスにもそう伝えてもらっても構わないわ」

「本当によろしいのですか?」

「しつこいわね。何度も足止めをしていることを、お父様に言いつけるわよ」

 

最終兵器を持ち出して、ポールを黙らせた。

私を見下し、蔑ろにするポールでも、この邸宅の主であるお父様には勝てない。

 

「……分かりました。お気をつけて行ってらっしゃいませ」

 

私は返事もしないで、玄関の扉を潜った。

ポールがなぜ、そこまでして私を行かせたくないのか。そんな疑問を抱きながら。

マリーゴールドで繋がる恋~乙女ゲームのヒロインに転生したので、早めに助けていただいてもいいですか?~

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