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シェルフェリア領。大陸中央部にある四方を山に囲まれた高原国家、アラリア王国の北端に位置する。

大陸でも有数の大国二つ――アイトルド騎士王国とカルシード帝国――と国境を接しているため、その領土、経済規模に比べて、政治的な重要度はかなり高い。

ただし、それはシェルフェリア領主が政治的な力を持っている、というわけではない。

むしろ領主は自国と二大国とに挟まれ、常にどちらもの顔色を伺いながら領地を運営していかなくてはならなかった。

神経を磨り減らす毎日だったが、それは幼い彼の娘には、何の関係もないことであった。

娘の名はエリスティーナ=シェルフェリア。

四歳年上の姉を持ち、厳しくも優しい母と、厳格に領地を運営する父。

エリスには、何の不満もなかった。

大好きな家族に囲まれて過ごす、豊かで穏やかな日々。

時々退屈に感じることや、不満に思うことはあっても、それは本気で悲しむことでは決してなかった。

小さな閉じた、けれど完璧な世界の中で、少女エリスティーナ=シェルフェリアは健やかに育っていった。


だが――少女は知らなかった。

姉は、日々に退屈を感じ、剣術を習うなど、少しずつ『お姫様』から外れ始めていたことを。

父はその威厳の下に卑屈さを求められ、心を、身体を摩耗させながら少女の理想とする世界を懸命に守っていたことを。

そして母は――身体をゆっくり、確実に病魔に蝕まれていたことを。


幸せだった少女の理想の世界は、ある日を持って終焉を迎える。

母が死んだ日を持って、終焉を迎える。

そして後は、転がり落ちていく。

父も、姉も、その視界にエリスを収めようとはしなかった。

ただ自分の事にだけ興味があるかのように、家族のつながりは薄れていった。


そうして、少女は絶望し――

――ある日眠りから目覚めることをやめた。

アリシアキャラバン漫遊記

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