「ガクくんって好きな人とかいんの?」
相方の何気ない一言についドキッとした。
答えられずに少しの間あわあわしていると、くすっと笑うような声が聴こえた。
「あははっ!ガクくんわかりやすすぎw」
男子高校生らしい笑い方だ。
「そういうとやさんこそ童貞なんじゃないんスか?」
ちょっとだけからかうように言い返してやった。「ガクくんよりはマシ」だなんて言われたけど。
単刀直入に言えば、このオレ”伏見ガク”は、剣持刀也に恋をしている。
男子高校生に劣情を抱いているかと聞かれたら否定は出来ないが、ロリコンよりかはマシだろうと思っている。
前まではオフコラボなども何も思わずできていたのに、意識してしまうと急に何もできなくなる。
刀也さんの全部が愛おしい。笑い方、話し方、食べ方…。他のライバー達が知らないオレだけの”剣持刀也”。どうやらオレは、いわゆる「独占欲」とかいうやつが強いのかもしれない。
「でもいいなぁ」
刀也さんが話を続ける。
「ガクくんの好きな人って恵まれてるよね。ガクくん、料理も上手いし面倒見もいいし、なにより優しいし一途。正直羨ましい!」
どこか悲しそうな笑顔を浮かべてオレにそう言った。
お前だよ。
自覚しろ自分の可愛さを。
声に出そうだった言葉を飲み込み、適当な返答をして目を背けた。
内心ドッッキドキだ。刀也さんのことを好きすぎる自分がもはや怖いくらいに。
もし、刀也さんと繋がれたら…。そんなことばかり妄想してしまっている自分がいる。
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「ガクくんって好きな人とかいんの?」
どこかで自分の名前が返ってくることを期待していた。まあそんなことはなかったが。
童貞特有の挙動不審っぷりを見せられて、思わず吹き出してしまう。涙が目に浮かんだのは笑ったせいだ、たぶん。
相方に恋をしている。
正直、自分でも信じられない。どれだけ仲が良くたって所詮は仕事仲間。もし僕がバーチャルの世界に入っていなかったら、出会えなかった他人。そう思いたい。そう思った方が楽だから。
ガクくんのことを考えると時々胸が締め付けられるように痛くなるときがある。切ないような、悲しいような。
これが恋ってやつなのかと最初はその程度で済ませていたが、相手を意識する度ドキドキと鼓動が速くなっていく。
ガっくんが大好きだ。
僕より大きいその身体に包まれたい。ガクくんの温もりを感じたい。ぎゅって思いっきり抱き締めてほしい。
…ガっくんを誰にも渡したくない。
あは、メンヘラみたい。きも…
もしガクくんに彼女ができたら…いや、考えたくはないけど。仮に、ね。
絶対幸せだろうなぁ。ガクくんの魅力は数えきれないほどある。というかほとんどの女性はガクくんの顔面を見ただけでイチコロだろう。
思ったことを口に出してみる。言葉を発する度に苦しくなるような感覚を覚える。それでもガクくんに心配させたくなくて、貼り付けの笑顔を作る。ガクくんはそっぽ向いちゃった。気を悪くしてしまったかもしれない。
この思いをちゃんと伝えれたら、どれだけ楽だろうか。
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今、想いを伝えてしまおうか。
もし伝えたら今後どうなる?
刀也さんは間違いなく引くだろう。
その時の表情を考えるだけでゾクっとする。
それに、次会うときめちゃくちゃ気まずいじゃないか!!何を血迷ったんだオレ…
それでも、考えるより先に口は動いてしまった。
「とやさん」
沈黙が続く中で急にガクくんが口を開くもんだから、ちょっとびっくりしてしまった。
「オレ、とやさんが、好きだ。」
なんとか言えた、とでも言わんばかりの顔をする。急に何を言い出すかと思えば…
「…すみません、気持ち悪いっスよね…」
叱られた子犬のように明らかに残念がる。心なしか、特徴的なくせっ毛もしおしおと下がっている気がした。
「ガクくんが気持ち悪いなら僕も同類ですが?」
勇気を振り絞って言ったにしては、普段みたいに煽るような口調になってしまった。
それでも相方だからか、しっかりとその意味は伝わっていたようだ。
ぱあっと顔が明るくなったかと思えば、ガクくんの整った顔が近づいてきた。それと同時に、唇に柔らかい感触が伝わる。
口を離すと、ガクくんはにこっと笑って
「愛してるよ刀也さん」
なんて典型的な台詞を言う。
けれど、どれだけ典型的であろうと、これほどまでに嬉しいことはない。
僕たちは、しばらくの間ぎゅっと抱きしめあっていた。
コメント
3件
両片想い好きすぎる♡
我が人生に悔い無し! さらば∠( ˙-˙ )/
†┏┛墓┗┓† 〔最高〕 遺書:咎人のてぇてぇは狂器です。