『あれ、トーマスくん?』
東京に遊びに来たついでに、今話題のコラボカフェにでも行こうと足を進めていた途中
目の前に見知った顔を見つけて思わず声をかけてしまった。
「ん?あぁ、紅茶!こんなところで奇遇だね」
目が合うと、ふにゃりと目尻が下がる。
そんな姿に毎回どきりとしてしまう。
『もしかして、トーマスくんもカフェ行くん?』
「そうそう!も、ってことは紅茶も行くんだね、良かったら一緒にどう?」
さらりと一緒に行く流れを作るトーマスくん 。
俺は自分から何かを誘うのが苦手なので、正直ほっとしつつ頷く。
《いらっしゃいませ〜》
「紅茶は何食べたい?」
入口で注文するメニューを記入することは予習済だったので、食べたいものは既に決まっていた。
『これと、これ。……あと、パンケーキ』
隣に本人がいるのでかなりの勇気を要したが、どうしても食べたかったパンケーキを頼む。
「ッ!!了解、パンケーキね」
あからさまに嬉しそうな声が聞こえたが、トーマスくんをスルーして席をさがすことにした。
『ここ、ええんとちゃう?陰キャさんたちも座ってたとこや』
窓際の隅を指さすと、いいねと快い返事をくれた。
席に座れば、店員さんがランチョンマットとコースターを持ってきてくれる。
俺は三品、トーマスくんは二品頼んだので、コースターは合計五枚。
『……あ』
その中に、トーマスくんの絵柄をみつけ、思わず声が出てしまった。
「欲しかったやつ?」
『ん』
まさか自引きできるとは思っていなかった。
丁寧にファイルに挟んでカバンにしまっていたら
「……あーーーマジでなんなの………でしょ…」
手で顔を覆いボソボソ呟くトーマスくん。
訝しげにそちらを見れば、視線に気づいたのかなんでもないと手を振り姿勢を正す。
少し待つと、料理とドリンクが運ばれてくる。
パンケーキは後出しにチェックを付けたので後ほどのお楽しみ。
『うぉ、うまそー』
「しかもめちゃくちゃかわいいね」
一つ一つにかわいいだの美味いだの言いながら食べる時間は、思った以上に楽しい時間だった。
「そろそろパンケーキもお願いしよっか」
時間制ということもあり、店員さんにパンケーキを頼めば、少したって可愛らしいパンケーキがやってきた。
『まって、写真撮ってもええ?』
記念にとパンケーキを撮る。
バレないようにトーマスくんも一緒に。
……まぁ多分バレとるんやろな。にっこにこやし。
パンケーキも食べ終え、シャイニングスターの流れる店内でひとしきりゆっくりした後店を出る。
「美味しかったね」
『せやね、来たかいあったわ』
地元でもコラボカフェはやっていたけれど、トーマスくんとの空間は特別幸せだったし、料理もより美味しく感じた。
楽しい時間はあっという間で。
少しずつ日が傾き始めていた。
普段だったらトーマスくんから切り出す言葉が、カバンの中のコースターに後押しされて俺の口から溢れ出す。
『……なぁ、このあと、ちょっとでもええから……一緒にいたい』
トーマスくんが目を見開く。耐えきれず視線をそらせば、ゴクリと唾をのみこむ音がした。
一分か、はたまた10秒か。
途方もなく長く感じた静寂は、いとも簡単に彼の一言で終わりを迎える。
「もうだめ!!!可愛いがすぎる!!!」
急に大声を出すトーマスくんに反射で肩を震わせれば、慌てて謝罪が返ってくる。
「だってさ、今日一日いつにも増して可愛いじゃん。コースターの時といい、今といい……反則だよぉ」
いつも余裕な彼の、珍しく焦った表情と声に思わず吹き出してしまった。
「ちょっと!俺本気で…」
『わかっとるよ。……ふふっ、自分でもこないな感覚初めてや。なんやはずいけど、トーマスくんの新しい一面が見れたみたいで嬉しい 』
素直にそういえば、顔を真っ赤にしてあーだのうーだの奇声をあげるトーマスくんに俺はまた笑ってしまう。
「いつもそれだけ素直でいてくれたらいいのに……」
『でも、そこが俺のええ所でもあるんやろ?』
今日は全てが攻守交替で、ついつい調子に乗ってしまった。
彼の目がぎらりと獲物を狩る目になっていたことを、この時の俺は知る由もなく。
「そうだね。それじゃ、もっと二人でいいことしよっか」
きっと後日コースターを見ると、楽しかった思い出よりも恥ずかしい 思い出が先に浮かんでしまうんやろうな。
それでも、それを眺めるたびに幸せな気持ちになれるんやから、やっぱりすきなひとってすごい。
俺の大切なたからもの。
俺の元に来てくれて、ありがとう。
まぁ、トーマスくんには言わへんけど!
コメント
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すきだぁ、