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5. この思いを、君に
これまでの、ここ数か月の回想を閉じて、現実の涼ちゃんと向き合う。
0時を過ぎてしまって、誕生日は終わってしまったけれど。
よくわからない誕生日フィルターで魔法がかかってるなら、もう少しだけ延長させてほしい、と思う。
さっきは思い切り強がってみたけど、そうだよ、俺は待ってたんだよ。
あれだけ、俺のこと好きだって想ってくれている涼ちゃんから、誕生日になんのリアクションもないなんて、ショックすぎる。
(自分でも、こんなにショックを受けると思ってなかった)
スマホを何度も確認した。
地方ロケのスケジュールを何度も恨んだ。
次に会えるのはいつだろう、なんて何度も確認した。
さすがに地方ロケでスケジュールかつかつじゃ、無理か。と思っていたのに、やっぱり涼ちゃんは涼ちゃんだった。
きちんと、俺のことを、好きでいてくれる。
直接伝えたい、一言だけも。
そう思って、ここまで真夜中に来てくれたことが、恋心抜きでも嬉しい。
でも、好きでいてくれていると知っていて、俺も好きだかと自覚してるから、嬉しさは尚更。
「涼ちゃん、ありがと」
伏せていた視線を上げて涼ちゃんを見上げると、よかったぁ、と子どものようでありながら、美しい、きれいな顔で、涼ちゃんは笑った。
秋桜の花言葉は、乙女の真心、謙虚。
どれだけ長く俺を想ってきたのかはわからないけれど、成就を望まない片想いをしていたあなたは、まるで乙女だ。
謙虚で、でも、薄赤い秋桜みたいな情熱を抱えて。
「…この花束は、涼ちゃん自身みたいだね」
ぽつりと言えば、涼ちゃんはきょとんとした表情になる。
意味わかんないよね?
…うん、俺も正直、意味が分かんない。
ただ、今から伝えようとしていることが、ものすごく勇気がいることで、何か話していないと落ち着かなくて。
俺らしくない違和感、というのは、涼ちゃんの想いだけが、俺に届いているということ。
気付いてしまって、速攻で涼ちゃんの虜になってしまった、俺の恋は?
好かれているから好きになった、と言われても何でもいい。好きになったものは好きなんだ、という、俺のこの想いは?
涼ちゃんは成就させるつもりはなくても、俺は、成就させたい。
好かれているのが分かっているのに、涼ちゃんのその一方的な溢れる想いはまるで実を結ばなそうなほど愛情が深すぎて、怖気づいてしまう。
俺が、ただ好きだって言っても、きっと手離しに同じ想いだ!と簡単に心を重ねてくれるわけがない。
俺が想う何倍も
きっと、あなたは俺を好きでいてくれた。
その想いの分厚さに比べたら俺の想いは薄っぺらくて、見合えるほどの言葉を、俺は伝えられる自信がない。
先に無理矢理奪って、時間をかけて、俺はこんなに涼ちゃんが好きなんだって思い知らせていってもいい。
逃げ場を失くしていって、八方塞がりにして、俺の手に落ちてくるように根回ししたっていい。
多分、俺としてはそっちの方が性に合ってるんだけど、涼ちゃんの前では、そんな気持ちすらも怯んでしまう。
そういうことじゃないんだよね。
俺のそういう部分もひっくるめて、好きでいてくれる涼ちゃんが、納得できるような言葉を、俺は持ち合わせていない。
だから、愚直に、じっくりと時間を重ねて、伝え続けていくしかないんだよね。
じっと涼ちゃんを見上げる俺を、涼ちゃんはぱちぱちと瞬きをして見つめ返してくれる。
「来年の誕生日は、傍にいてよ」
24時間、朝から晩まで、ずっと。
ふにゃっと音でもしそうなくらいに柔らかーく涼ちゃんが笑う。
「うん!いいよ!」
だってさ。
意を決して言ったって、これだもん。
もどかしい気持ちはない訳では無いけど。
涼ちゃんが涼ちゃんで居てくれて、なんだか安心する。
うん、それでいい。
伝わらなくたっていい。…今はね。
涼ちゃんは口にしないと決めた、俺への想い。
俺は自分の気持ちを隠さず、この先、口にしていくと決めた。
きっと、涼ちゃんは気付かれない、成就を望まないことで、俺の想いに気付くまで時間がかかるだろうし、それを知ったとて、受け入れるまでも時間がかかるだろうけど。
キスまでしてくれて、確かに好きでいてくれるのに、手に入れるまでの道のりが遠そうだなあ、と。
あ、最終的に手に入れるのはもう確定だけどね?
来年の元貴のお誕生日は色々したいな!と無邪気にはしゃいでいる涼ちゃんを見て苦笑する。
わかってくれるまで、信じてくれるまで、受け入れてくれるまで、何度でも。
そういうの、文字にして、音にして、声にして、言葉に出して伝えるのは、俺の最大限の強みだ。
ずっと伝えていくからさ
この想いを、君に。
だから、受け取る時は、覚悟してよね。
おわり