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この街の隅には小さな映画館があった。上映される作品は古いものばかりで最近話題の作品や人気の作品はほとんど上映されない。
そのせいか客足は少なく、来場するお客さんが二桁に届けば[今日は多いね]とオーナーが笑うほどだ。それでも、この映画館が大好きな人間がいた。
その一人がイッテツだ。
映画が終わり、エンドロールの音楽が静かに流れる中、イッテツはいつものように席を立つ。暗くなった館内にはまだわずかなスクリーンの光だけしか残っていなかった。そして、帰ろうとポケットに手を入れたときに気づいた。
チケットがない。
「あれ……どこだ?」
小さく呟きながらイッテツは足元を見回した。実はこの映画館のチケットはオーナーの手作りだった。上映される作品ごとにチケットのデザインが変えられている。イッテツはそれをコレクションのように集めていたので、失くしたと思うと少し焦る。
しゃがみ込んで席の下を覗き込む。スクリーンの光だけでは視界が悪く、どこに落ちたのかわからない。手探りで床を探していると背後から声をかけられた。
「あのー、大丈夫ですか?」
振り返るとそこには背の高い男が立っていた。オレンジ色の髪に毛先がミントグリーンに染まっている。体格がよく、スクリーンの光を背にしているせいか少し威圧感すらあった。
「あ、えっと……」
少し怖くて小さな声になってしまう。
「チケットを落としてしまって」
「そうですか、俺も探しますよ」
そう言うと彼はためらいもなくその場にしゃがみ、席の下を覗き込んだ。そうして二人で床を探していると…
「お、あった」
その瞬間、館内の照明がぱっと点いた。
彼の手の中にはイッテツが落としたであろうチケットが握られていた。
「ありましたよ。ここのチケットオリジナリティあっていいですよね。俺も大事に取ってます」
差し出されたチケットを受け取り、イッテツはまだ少し怯えながら感謝を伝える。
「あ、ありがとうございます…」
「あの。いつもこの時間来てますよね?」
「…はい」
言われてみれば彼の顔には見覚えがある。悪く言うつもりはないが、この映画館に来る若いお客さんは少ない。そのためこの時間帯に来る人は自然と目に入る。なので彼を何度か見かけていた。
「映画好きなんですか?」
人見知りのはずだったのにイッテツは自然と自分からそう質問していた。
「そうなんですよ。俺、映画とか舞台とか好きで。ここには毎週来てます」
「俺もです。最近の映画も面白いんですけど昔のもいいんですよねぇ…」
「うわ、めっちゃ分かります」
いつの間にか二人は打ち解けあっていた。
「よかったら次は隣で見ません?」
「見たいです!」
それから二人は毎週のように隣り合った席を取って映画を鑑賞するようになった。 上映が終わればそのまま席で感想を語り合う。これは客足が少ないからこそできることだ。
「ねぇ、あそこ良かったよね!」
「わかる。あそこ俺ちょー大好き」
スクリーンの光を眺めながら映画のワンシーンを思い出す。
「俺、映画見るのも好きだけどさ。お前とこうやって感想言い合えるこの時間も結構好きだわ」
「!」
リトの言葉にイッテツは驚いてから小さく笑った。
「うん、僕もだよ」
そして、いつも映画館前で二人は別れた。 連絡先は知らない。 お互い何をしているのかも聞かない。 ただ決まった時間に決まった席で会う。それだけでよかった。
そんな日々がずっと続くと思っていた。
そんなある日、映画館のオーナーが申し訳なさそうに告げた。
建物が古くなりすぎたのでしばらく工事をするという。上映は一ヶ月ほど休みになる。
「暫く見れないのは残念だなぁ」
イッテツが悲しそうに呟くとリトは少し考えてからこう提案した。
「………よし、またここの上映が始まったら絶対見に来ような!」
「うん、もちろん!」
きっとまた映画館で会えるんだと思った。けれど、 二人は別の場所で再会してしまった。
まるで映画のように。
爆発音が街に響いた。
「こっちは終わった!」
街のあちこちでたくさんの被害が出ており、ヒーローはその対処に追われていた。
「あっちでも被害出とるっぽい!急がなあかん!!」
無線機越しにたくさんの声が飛び交う。先の爆発の被害で街に炎が上がり、現場が混乱している。
「俺行ってくる!」
リトは床を力強く蹴り上げて爆発が起きた現場に向かった。 そこで二人は再会する。
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「……なんでここに」
リトは足を止める。視線の先には見慣れた黒髪の人間が立っていた。
「君こそ…どうして」
少しの沈黙が流れたあとにリトはイッテツに声をかけた。嫌な予想が的中しないことを心の中で願いながら。
「ここは今ヴィランが爆破して危険なんだ。お前は逃げろ」
そんなリトにイッテツは静かに笑う。
「……大丈夫だよ。その犯人は僕だから」
「ねぇ、もしかしてその格好ってさ」
「お前こそ…」
お互いの反応で嫌な予想は的中してしまったことを理解してしまった。
「お前…ヴィランだったのかよ」
「君、ヒーローだったんだね」
宇佐美リトはヒーローで 佐伯イッテツはヴィラン。 それだけのことだった。
「なんで……お前」
「すごくやりずらくなっちゃったね」
リトは歯を食いしばった。今目の前で起きた事実を認めたくなくて。そして、こんな状況下で冷静に笑うイッテツにムカついて。
「くそ……」
「ねぇ、明日からまた映画が見れるね」
「そうだな」
「たしか明日は……」
イッテツはそう言って空を見上げて役になりきる役者のように言った。
「ああロミオ、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの」
あまりに皮肉すぎるそのセリフに、リトは何かを返すことはしなかった。
「……… ほんッと、性格悪ぃな」
「はは、僕はヴィランだからね」
「潔く戦おうよ。君は優しいけど、僕はたくさん悪いことをしたやつだからね。遠慮はだめだよ」
「お前だって優しいくせに」
「さぁ、どうだろう。なにせ今はヴィランだから」
「俺だってヒーローだからな」
リトは眉をひそめながらイッテツを見つめた。そんなリトをイッテツは目を細めて見つめ返す。
「…恨みっこはなしだ」
出会えてよかったと、そう思っていたはずなのに。 今はなぜ出会ってしまったのかなんて。そんなことばかり考えてしまう。
二人は戦った。
まるで映画のワンシーンのように、激しく、悲しく。 そして確実にクライマックスに近づいていく。
ーーー翌日
一ヶ月ぶりに映画館の扉が開く。
[いらっしゃいませ]
[はい。いつもの席のチケットですね。どうぞ]
[あ、今日は一人なんですね]
[いえ、すみません。失礼なことを。いつも二人で来られていたものですから]
[ずっと来てくれていますよね。客足も随分減ってしまったのに、いつも来てくださって本当に感謝していますよ]
[いえいえ、もう古くなっていましたが修理したのでこれからも上映します。今後ともよろしくお願いしますね]
そして上映時間がやってきてスクリーンが光る。
“ロミオとジュリエット”
暗い館内の中、空いた隣の席を彼は見なかった。
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終わり
コメント
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これ最後戦って正義に負けたのか、正義に勝ったのかすごく気になる😭ストーリー構成天才か...🫶🏻︎