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リアムがアルメリアに優しく微笑む。
「そうです、君の努力が実を結びつつあるのですから、今のこの流れにのって追い詰めてしまった方がよいでしょう。ただ、あの令嬢の目指すところがなんなのかわからないのが、少し気になりますが」
すると、ムスカリが答える。
「罠に嵌めて本人に言わせればいい。あの令嬢は今のところ、本気で全て自分の思った通りになると思っている。私は今までもその真意を探るために、あの令嬢が期待した『間抜けな王子様』とやらを演じてきた。それは他の者も同じなのでは?」
その場にいるアルメリア以外の全員が無言で頷く。
リアムは苦笑しながら言った。
「そうでもしなければ、あの令嬢は決めつけてかかってくるので、話にならないですからね」
「ならば話は簡単かもしれないな」
そう言うとムスカリは、アルメリアに向き直り微笑んだ。
「ところでひとつ訊きたいことがある。我が愛しの婚約者殿は、なぜ支度金を受け取らないのかな?」
突然そんな話題をふられ、アルメリアは戸惑いながら答える。
「いえ、あの、今のところ必要なものがないからですわ」
「本当に? 君は王族へ嫁ぐのだぞ? そんなはずはないはずだが……。まぁ、いい。そういうことなら、支度金が必要ないとあとで会計士に報告書を出しておいてほしい。のちにそれも証拠となるだろうしな」
「わかりましたわ、そういうことなら」
すると、ムスカリは不満そうにした。
「本来ならもっと甘やかしたいのだが、君はなかなか甘えてくれないからそれが私の唯一の不満だな」
そう言うと悲しそうに微笑んだ。
作戦を立てると言っても、まだイーデンが動いている最中であり、ルーファスから連絡もきていなかったので、それらが揃ってから改めてアウルスもいるときに話し合うことにした。
翌日、アルメリアの誕生会に合わせて婚約発表をする都合上、ムスカリと打ち合わせをせねばならず、アルメリアの執務室へムスカリが訪ねてくることがあった。
「こうして二人きりで会うのは、どれぐらいぶりかな? 私はもっと君と過ごしたいが、君はどうやら私を避けているようだね」
アルメリアは図星をつかれて慌てて取り繕う。
「そんなことはありませんわ、最近殿下も忙しくされていたようでしたから」
「ふむ、まぁ、そういうことにしておこう。ところで、君の誕生会は国政に関わる貴族のみを招待し内々に行われる予定だったのだが、ひとつ問題が生じてしまってね」
たかが誕生会で問題が生じるなど考えられないことだったので、アルメリアは訝しんだ。
「どのようなことですの?」
「それが約一名、自分も参加する必要があると言い張る令嬢がいてね。困ったものだ」
「ダチュラですの?」
ムスカリは頷くと苦笑した。
「なんでも、君が発表の場をもうけるならば自分も社交界入りしたことを知らしめる必要があるからだそうだ。君はこれに関してなにかわかるか?」
アルメリアはダチュラの主張する内容が、あまりにも酷すぎて唖然とした。
それと同時に、やはりダチュラはゲーム内でのイベントを再現したいのだと確信した。
「殿下、私の知る物語の中でクインシー男爵が自分の娘を紹介するお披露目会のようなものがありますの。ダチュラがやりたいことはそれの再現なんですわ」
「やはりそうか、だがなぜ君の誕生会という場でそれを成そうとするのか」
そう言うと大きくため息をついた。
アルメリアは苦笑するとその問いに答える。
「自分の優位性を私や、その他の貴族達にも見せつけるためですわね」
「そうだな。それに、その条件を私がのめばそれだけでも、自分の方が君よりも優遇されていると知らしめることができるのだからな」
「面倒ですけれど、仕方がないですわね」
思わずアルメリアがそう答えると、ムスカリは微笑む。
「君はものわかりが早くて助かる。本来ならば断るところだが今後のことも考えて、あの令嬢も出席させる。だが、せっかくの君の誕生会なのにそれをあんな令嬢を貶めるためとはいえ、台無しにしなければならないのは気分のよいものではないな」
「お気遣いありがとうございます。でも、私なら大丈夫ですわ」
「そうか、わかった。それで、それらを踏まえての君の誕生会のことなのだが」
ムスカリはそう言うとアルメリアの手を取り優しく両手で包み込んで言った。
「わかってはいると思うが、当日私がなにを言おうと、どんな態度を君にしようが私が一番大切に思うのは君のことだと忘れないでほしい。いいね?」
「はい、承知しております」
アルメリアが答えると、ムスカリはアルメリアの頬に触れ額にキスをした。
「本来ならば君は私のものだと知らしめてやりたかったのだが、本当に残念だ」
ムスカリはそう言って悲しそうに微笑んだ。
次の日、領地の見回りを終えて屋敷に戻り書類に目を通していると、誕生会用のドレスを作るためのドレスデザイナーがアルメリアを訪ねてきた。
アルメリアはデザイナーを手配した覚えがなく困惑した。
「大々的なものではありませんし、屋敷にあるドレスのリメイクで十分ですわ。それに、頼んでもいないのに勝手に話を聞きつけて屋敷に押し掛けるなんて、どこのデザイナーですの?」
ペルシックは一瞬困惑した顔をすると答える。
「お嬢様、ムスカリ王太子殿下から仰せつかったとのことで、断ることは不可能でございます」
「あらそう、そういうことなら仕方のないことですわね。わかりましたわ」
アルメリアは読みかけの書類を置くと、デザイナーが待っている客間へ向かった。
部屋に入るとそこにはピンク色の燕尾服をアレンジしたような不思議な服装をした紳士が立っていた。
しかもその紳士は部屋の中だと言うのに、ピンク色の大きな羽のついたシルクハットをかぶっている。呆気に取られながら、アルメリアはなんとか質問した。
「貴男が殿下がお願いしたデザイナーの方ですの?」
その紳士はこちらを見ると満面の笑みを見せた。
「はい、お嬢様。私はファニーと申します」
そう言うか早いか、アルメリアのそばへやってくると上から下まで眺めながらぐるぐるとアルメリアの周りを回った。
「わーお! うん、いいね! ところでなんだってお嬢はそんな地味な格好なの?!」