「ナムギュ!!」
風呂場からセミの声が聞こえてきた。
何があったのだろうか。
「あたしの部屋から下着とってきてくれない?」
「は?!」
サノスとミンスは出掛けており、今はセミとナムギュの二人しかいない。
何でこんなときにかぎって……
「自分で行けよ!」
「無理だから言ってるの。別に照れなくていいから」
「照れてねえよ!めんどくせえだけだよ」
「お願い、」
「仕方ねえな……」
ナムギュはセミの部屋に行き、下着が入っている引き出しを探す。
見つけるとそこには布が少なめ下着ばかりで顔が真っ赤になった。
いつもこんなの着てたのかよ……
その中の一つを手に取り、セミのもとへと持っていく。
「おい、セミヌナ」
「ありがと。」
タオル姿のセミを見て、興奮してしまった。
セミが下着を受け取ったとき、タオルがしたに落ちてしまった。
「……?!」
セミは顔を真っ赤にしてタオルを取り、体を隠した。
ナムギュは一瞬何が起こったか理解できず、目線を外せなかった。
「見ないで……」
セミの弱々しい声にナムギュは更に興奮してしまった。
いつもは憎たらしいのに今はかわいくてたまらない。
我に返ってそこを出るとセミに怒られると思ったのに何も言われなかった。
セミがドライヤーも終わり出てくると、のぼせてるのかさっきのことか分からないが顔が真っ赤になっていた。
「今日ミンスとサノスいつ帰ってくるの」
「知らねぇ」
「……さっきのこと……忘れて」
セミがぼそっと言う。
顔が赤いまま目をそらしているのが、いつもの堂々とした態度とは違って新鮮だった。
ナムギュは口の端を噛む。
「忘れろって言われてもな……」
「は?」
「そりゃ、あんなの見たら……簡単に忘れられるわけねぇだろ」
セミは一瞬言葉を詰まらせたあと、睨むようにナムギュを見た。
「何それ。言ったら知らないよ?」
「言わねぇよ、言うわけねぇだろ!」
ナムギュはぶっきらぼうに言いながら、無意識に首元をかく。
妙な空気が漂い、居心地が悪い。
セミはじっとナムギュを見つめたあと、ふっと目を伏せた。
「……なら、いい」
そのまま冷蔵庫を開けて水を取り出し、一口飲む。
喉を鳴らして飲む仕草がやけに色っぽく見えて、ナムギュは思わず目をそらした。
「兄貴とミンス早く帰ってこねぇかな」
「なんで?」
「なんとなく……」
ナムギュがごまかすように言うと、セミはくすっと笑った。
「もしかして……あんた、あたしと二人きりなの緊張してる?」
「はぁ?!するわけねぇだろ!!」
「ふーん……ならいいけど」
セミはまた水を飲み、ナムギュをからかうような視線を向ける。
ナムギュは何かを言い返したかったが、さっきの出来事が脳裏に焼き付いていて、まともに反論できなかった。
くそ……今夜、寝れねぇかもしんねぇ……
そう思いながら、ナムギュはソファに乱暴に腰を下ろし、ため息をついた。
セミはナムギュの様子を見て、満足げに笑った。
「ねぇ、ナムギュ」
「……なんだよ」
「ほんとに忘れられないの?私の裸……」
「っ……!?」
ナムギュは反応に困り、目を泳がせる。
からかうような声なのに、セミの目は意外と真剣だった。
「べ、別に……そんなこと……」
「ふーん……そっか」
セミは小さく笑いながら、ナムギュの隣に腰を下ろした。
「おい、なんで隣座るんだよ」
「え?別にいいじゃん、あんたが変なこと考えてなきゃ」
「考えてねぇし!!」
「ならいい」
セミはクッションを抱きしめ、ナムギュの顔を覗き込む。
「ねぇ、ナムギュってさ」
「……なんだよ」
「サノスにバレたらどうする?」
「は?」
「さっきのこと。あんたがあたしの裸見たって言ったら……サノス、怒ると思う?」
ナムギュは一瞬、背筋が凍るのを感じた。
「……言うなよ」
「ふふっ、冗談だって」
セミはクスクスと笑いながら、ソファに深く沈み込んだ。
「でもさ、あんたってほんと単純。ちょっと煽っただけでこんなに顔赤くなるんだもん」
「……うるせぇ」
ナムギュは腕を組んでそっぽを向くが、耳まで赤くなっているのは隠しきれなかった。
「まぁ、忘れろって言っても無理かもしれないけど……別にいいよ」
「は?」
「どうせあたしも忘れられないし」
セミは何気なくそう言って、水のペットボトルをテーブルに置く。
ナムギュは思わず彼女を見つめた。
「……」
「なに?」
「……いや」
ナムギュはそれ以上何も言えず、ただセミの横顔をじっと見つめていた。
ナムギュは自分でも驚くほど心臓がうるさく鳴っているのを感じた。
なんだよ……この空気
セミは水を飲んだあと、ふっとため息をつく。
「ねえ、ナムギュ」
「……なんだよ」
「さっきのこと、もしサノスが知ったらどうなると思う?」
「だから、それを言うなって……!」
ナムギュは苛立ち混じりに答えるが、内心、焦りでいっぱいだった。
サノスがセミを気に入っているのは、ナムギュが一番よく知っている。
普段は軽いノリでも、いざ本気になったら何をするかわからない男だ。
「お前……まさか、言う気か?」
ナムギュが警戒すると、セミはクスクスと笑った。
「言わないよ。……でも、焦るあんたを見るのはちょっと楽しい」
「クソが……!」
ナムギュは頭をかきながら、ソファの背もたれに深くもたれる。
「ったく……お前、兄貴のことどう思ってんだよ?」
「え?」
セミは少し驚いたようにナムギュを見る。
「サノス? まあ……面白いやつじゃない?」
「それだけかよ?」
「それだけ」
セミはあっさりと答えるが、その目はどこか曖昧だった。
「ふーん……」
ナムギュはなんとなく納得がいかない気持ちで、ソファの肘掛けに肘をついた。
「お前さ、兄貴のこと適当にあしらってるけど、あいつマジになったらやばいぞ?」
「知ってるよ。でも、あたしが本気で相手にしてないのサノスもわかってるでしょ」
セミはさらりと言って、水のペットボトルをくるくると回す。
「……お前、兄貴よりタチ悪いわ」
「え、なんで?」
「人を振り回すくせに自覚がねぇ」
ナムギュは呆れたように言うが、セミは気にした様子もなく微笑んだ。
「そっか。でもさ、あたし……ナムギュのことも結構振り回してるよね」
「……っ!」
ナムギュは思わずセミを睨んだが、彼女は無邪気に笑っているだけだった。
「おい、マジでいい加減にしろよ……」
「ふふっ、ごめんごめん」
セミは軽く謝りながら、ソファから立ち上がる。
「そろそろ寝よっかな。……あんたも今日はゆっくり寝れるといいね」
そう言って部屋に戻ろうとするセミを見送りながら、ナムギュは深いため息をついた。
くそ……絶対寝れねぇ……
頭の中には、さっきの出来事が何度もリピートされてしまいそうだった。
ナムギュはソファに深く沈み込み、天井を見上げた。
……マジで、なんなんだよ
セミの顔、濡れた髪、赤くなった頬、そして────
「っ……!」
思い出しそうになって、慌てて頭を振る。
こんなこと考えてたら、兄貴にぶっ殺される。
……いや、サノス関係なく、やべぇだろ
セミはただのムカつく女で、からかわれるのも慣れてる。
いつもなら適当に言い返して終わるはずなのに今日に限ってはなぜかダメージがでかすぎた。
もう寝よう……
そう思って、無理やり目を閉じる。
だが、頭の中はセミのことでいっぱいだった。
しばらくして、部屋の扉が開く音がした。
ナムギュはうっすら目を開ける。
「……んだよ、まだ寝てねぇのか?」
セミが立っていた。
キャミソールに黒のショートパンツで、どこか落ち着かない表情をしている。
「……眠れないの?」
「は?」
「さっきのこと……気にしてる?」
ナムギュは一瞬言葉を失った。
「気にしてねぇっつったら嘘になるけど……お前が言ったんだろ、忘れろって」
「うん。でも……ナムギュが眠れないなら、あたしのせいかなって思って」
「…………」
なんでそんなことを気にするんだ。セミがこんな風に気を遣うなんて、普段ならありえない。
「別に、お前が気にすることじゃねぇよ」
「そっか」
セミは短く返し、少しの間黙った。
「……じゃあさ」
「ん?」
「ナムギュ」
「……なんだよ」
「……今日は、一緒に寝よっか」
「────は?!」
ナムギュの思考が一瞬で停止した。
「……は?」
ナムギュは耳を疑った。
セミは、まるで当たり前のようにナムギュの隣に座り、枕を抱える。
「何驚いてんの? 眠れないなら、一緒に寝たら落ち着くかなって思っただけ」
「……お、おい、冗談だろ?」
「冗談じゃないけど?」
ナムギュは喉がカラカラになった。
「いやいや、お前……兄貴にバレたらマジで殺されるぞ?」
「別に、何もしないなら問題ないでしょ?」
セミはそう言って、ふわりと微笑む。
「……何もしないなら、な」
ナムギュは心臓がバクバクするのを必死で抑えながら、自分に言い聞かせた。
落ち着け、落ち着け……クソ、なんでこんなことになってんだ……
「なぁ、ほんとに寝る気か?」
「うん。ナムギュが変なことしなければね」
「っ……!! するわけねぇだろ!!」
セミはくすっと笑って、ベッドに横になる。
「じゃあ、おやすみ」
「……お、おう……」
ナムギュはごくりと喉を鳴らしながら、隣で眠るセミの横顔をちらりと見る。
無防備すぎる。
普段は憎たらしいほど堂々としているくせに、こういうときだけやけに素直で、あまりにも近くて────
マジで寝れねぇ……!!
ナムギュは必死で天井を見つめ、深呼吸する。
セミの寝息が静かに聞こえ始めた。
……ほんとに寝たのかよ……
少し悔しい気持ちと、妙な安心感。
ナムギュはそっと目を閉じた。
────だが、眠れる気はしなかった。
しばらくして、ナムギュはそっと目を開けた。
セミの寝息は静かで、完全に眠りについているようだった。
……マジで寝やがった
こんな状況で寝られる神経がすごい。
ナムギュは小さくため息をついて、隣のセミをちらりと盗み見る。
夜の薄明かりの中、セミの横顔はやけに穏やかだった。
普段はあんなに生意気なのに、こうして見るとただの綺麗な女。
……ったく、これで何も思うなって方が無理だろ。
ナムギュはぎゅっと拳を握りしめる。
「……お前、兄貴じゃなくて俺のことからかってるんじゃねぇのか」
そう小さく呟いた瞬間────
「……ん」
セミが寝ぼけたように身じろぎし、ナムギュの方へと寄ってきた。
「は……?」
ナムギュは一瞬で固まる。
おいおいおい、ちょっと待て
セミの額がナムギュの肩にちょこんと乗る。
寝ぼけているのか、それとも無意識なのか、ナムギュのシャツを軽く握る手までついてきた。
「…………」
な、なんなんだよこいつ……!!
心臓が爆発しそうだった。
ナムギュはごくりと唾を飲み込み、必死で自分に言い聞かせる。
落ち着け、何もしねぇって決めただろ……!
けれど、隣で無防備に寄り添ってくるセミの体温が、ナムギュの理性をじわじわと溶かしていく。
────そのとき。
「……ナムギュ?」
「っ!!」
セミの声に、ナムギュの心臓が跳ね上がった。
「……起きてる?」
セミは眠そうな目でナムギュを見上げる。
「お、お前こそ、なんで起きてんだよ……」
「……なんか、落ち着くから……」
ぽつりと、そんなことを言うセミに、ナムギュは息を呑んだ。
「……ナムギュ」
「……な、なんだよ」
「……あんたのこと、好きになったらどうする?」
「……っ!!?」
ナムギュの思考が一瞬で吹っ飛んだ。
「……は?」
ナムギュは自分の耳を疑った。
「おい、お前……今、なんて?」
「ん……?」
セミは眠そうに目を細めながら、ナムギュのシャツを軽く握ったまま首を傾げる。
「だから、もしあたしがナムギュのこと好きになったら……どうする?」
「……っ!」
ナムギュは息が詰まりそうになった。
冗談だろ? こいつ、いつもみたいに俺をからかってるだけか? それとも────
「……寝ぼけてんのか?」
「……かもね」
セミはふわりと笑う。
「……だったら、忘れて」
そう言って目を閉じた。
ナムギュは思わず拳を握りしめる。
ふざけんな……!
今の言葉がどれほどナムギュをかき乱したか、こいつはわかっているのか?
忘れろなんて言われて、忘れられるわけがない。
「……」
ナムギュは深く息を吸い、目を逸らした。
「勝手に言っといて、勝手に忘れろとか……ほんとにタチ悪ぃな」
小さく呟いたが、セミからの返事はない。
ナムギュはもう一度横目でセミを見る。
────完全に寝ている。
……こいつ、マジで……
ナムギュは天井を睨みつけながら、心臓が落ち着くのを待った。
だが、セミの温もりがすぐ隣にあって、さっきの言葉が頭の中をぐるぐると回っている。
好きになったら、どうする……?
ナムギュは目を閉じ、唇を噛んだ。
その答えを考えるには、今の自分は冷静すぎるほど冷静じゃなかった。
夜は静かだった。
ナムギュは目を閉じていたが、全く眠れなかった。
セミの寝息がすぐ隣から聞こえる。
……ふざけんなよ
心の中で何度もそう呟く。
「もしあたしがナムギュのこと好きになったら……どうする?」
あの言葉が頭の中で何度もリピートされる。
本気なのか? それともただの冗談か?
────わかるわけがない。
「……クソ女が……」
ナムギュは低く呟く。
でも、その声に怒りはなかった。
ただ、焦りと戸惑いと────ほんの少しの期待が混ざっていた。
翌朝────
ナムギュは最悪の目覚めを迎えた。
「……っ、何してんだよ!!」
目を開けると、セミがナムギュの腕にしがみついていた。
しかも、思いっきり密着してる。
「……ん……?」
セミがゆっくり目を開ける。
そして、状況を理解した瞬間────
「……え?」
「……お前、何やってんのか自覚あんのか?」
ナムギュが顔を赤くしながら睨むと、セミは数秒固まった後────
「……!!?」
一気に顔を真っ赤にして飛び退いた。
「ちょっ……な、なんでこんなことに……!!」
「それはこっちのセリフだ!!」
セミは自分の顔を手で覆いながら、ナムギュを睨む。
「……忘れて」
「……は?」
「さっきのことも、昨日のことも……全部、忘れて」
ナムギュは唖然とする。
またそれかよ……
でも、セミの顔は昨日よりもずっと赤くて、今度こそ本当に恥ずかしがっているのがわかった。
「……お前が忘れろって言ったって、忘れられるわけねぇだろ」
ナムギュはため息をついて立ち上がる。
「……俺は覚えてるからな」
そう言い残して、部屋を出て行った。
セミは呆然とナムギュの背中を見送るしかなかった。
忘れてよ……
ナムギュが部屋を出て行ったあと、セミは布団を頭からかぶってうずくまった。
なにやってんの、あたし……!!
昨夜のことを思い出すたびに、顔が熱くなる。
「もしあたしがナムギュのこと好きになったら……どうする?」
自分で言ったくせに、何考えてたのかわからない。
寝ぼけてた……? いや、違う……
胸の奥がざわざわする。
ナムギュの「忘れられるわけねぇだろ」という言葉が、ずっと頭の中で響いていた。
「……くそ」
セミはゴロゴロと転がりながら、なんとか冷静になろうとする。
ナムギュはキッチンで水を飲みながら、心を落ち着かせようとしていた。
なんなんだよ、あいつ……
胸がまだドキドキしている。
あんなセミ、初めて見た。
「……俺は覚えてるからな」
つい言ってしまった言葉を思い出し、ナムギュは頭を抱えた。
やべぇ……あいつ、どう思ったかな……
自分の言葉がセミにどう響いたのか、気になって仕方なかった。
「……はぁ、マジで寝不足だ」
ため息をついたそのとき────
「おはよ、ナムギュ」
セミがリビングに入ってきた。
ナムギュは一瞬ぎくりとしたが、セミは昨日のことなんてなかったように普通の顔をしている。
「……お、おう」
ナムギュも平静を装うが、どこかぎこちない。
「今日、サノスたちいつ帰ってくるんだっけ?」
「知らねぇよ」
「そっか」
セミは冷蔵庫を開けて飲み物を取り出す。
ナムギュは、何か言うべきか迷った。
昨日のことに触れるべきか、それともこのまま流すべきか────
だが、結局何も言えなかった。
セミは何事もなかったかのように飲み物を飲んでいる。
……お前がそういう態度なら、俺も知らねぇぞ
ナムギュは心の中でそう決めた。
だが、昨夜のセミの赤い顔が、まだ頭から離れなかった。
気まずい沈黙が続く。
セミはいつも通りに振る舞っているように見えたが、ナムギュにはわかった。
────無理してる。
おいおい、マジでこのまま流すつもりか?
ナムギュはチラッとセミを盗み見る。
セミは缶ジュースを飲みながら、スマホをいじっている。
何か話さないと────
そう思って口を開こうとしたそのとき、セミが先に口を開いた。
「ねぇ、昨日のこと────」
ナムギュはビクッと反応する。
「……ん?」
「……ほんとに忘れてくれた?」
セミはスマホを見つめたまま、ぽつりと言った。
ナムギュは舌打ちしそうになる。
「……お前、マジでそれ言ってんのか?」
「……だって」
「忘れねぇって言っただろ」
「……でも」
「でもじゃねぇよ」
ナムギュはイライラしながら、セミのほうへと一歩近づく。
セミが顔を上げ、ナムギュと目が合った。
「……お前、昨日のあれ、なんだったんだよ」
ナムギュは腕を組んで睨む。
「寝ぼけてたのか? それとも、本気で────」
「……っ!」
セミはナムギュの言葉を遮るように立ち上がる。
「違う!! もういい!!」
「は?」
「わかったから! もう、忘れて!」
セミは顔を赤くしながらリビングを飛び出した。
ナムギュは呆然とし、ため息をつく。
……ったく、なんなんだよ
でも、セミの顔が赤かったのを見て、ナムギュの胸がまたざわついた。
本気なのか……? それとも、違うのか……?
答えが出ないまま、ナムギュは頭をかかえた。
セミが部屋に飛び込んでいく音が響いた。
ナムギュはキッチンに立ったまま、イライラしたように髪をかき乱す。
……マジで、なんなんだよ
セミの態度が意味不明すぎる。
昨夜のあの言葉────「もしあたしがナムギュのこと好きになったら……どうする?」
あれは何だったんだ? ただの冗談か、それとも本気で────
……考えすぎか
ナムギュは冷蔵庫から水を取り出し、一気に飲み干した。
いや、でも……
セミのあの反応。
顔を真っ赤にして、飛び出していったあの様子。
本当にただの冗談なら、あんなふうに慌てるか?
……
考えても答えは出ない。
だが、ひとつだけ確かなことがある。
……俺、めちゃくちゃ気にしてんじゃねぇか
胸がざわついて仕方がない。
今まで散々セミのことを「クソ女」とか「めんどくせぇ」とか言ってきたのに────
……クソッ、マジでめんどくせぇ
だけど、それ以上に気になって仕方なかった。
セミは自分の部屋のベッドに倒れ込んでいた。
やばい、やばい、やばい……!!
心臓がバクバクしている。
自分で言い出したくせに、恥ずかしくてまともにナムギュの顔が見れなかった。
「バカ……あたしのバカ……!!」
枕に顔を埋めてジタバタする。
ナムギュのことなんて、何とも思ってない────はずなのに。
なのに、どうしてあんなことを口走ってしまったんだろう。
そして────
……どうして、ナムギュはあんな顔してたの?
「忘れられるわけねぇだろ」
あの低い声が、やけに頭の中に残っている。
本気で怒っていたような、でも────
……期待しちゃ、ダメだよね
セミはそっと目を閉じる。
けれど、ナムギュの顔が頭から離れなかった。
昼を過ぎても、二人の間には気まずい空気が流れていた。
セミは部屋からほとんど出てこず、ナムギュもわざわざ話しかけに行くことはしなかった。
……マジで、どうすりゃいいんだよ
ナムギュはソファに座りながら、何度目かわからないため息をつく。
考えすぎるのは嫌いだ。
セミのことだって、適当にあしらってればよかったはずなのに────
……めんどくせぇくせに、妙に気になる
ちょうどそのとき────
「ただいま〜!Señorita」
玄関からサノスの陽気な声が聞こえてきた。
「ミンス、疲れた?」
「……ちょっとだけ」
ミンスの声もする。
ナムギュは内心ホッとした。
これで少しはこの気まずさも誤魔化せる。
「お、ナムス! ちゃんと留守番してたか?」
サノスがリビングに入ってくるなり、ナムギュの肩をポンポン叩いた。
「ナムギュです……」
「何かありました……?」
ミンスがキョロキョロと部屋を見回しながら言う。
「え?」
「なんか……空気重いです……」
ナムギュは一瞬焦ったが、すぐに誤魔化すように笑う。
「気のせいだろ」
「ほんとですか?」
ミンスは少し疑わしそうにナムギュを見たが、それ以上は何も言わなかった。
そのとき、セミが部屋から出てきた。
「……おかえり」
「おっ、セミ! どうした? なんか元気ないじゃん」
サノスがセミの顔を覗き込む。
「別に、普通」
セミは素っ気なく答え、ミンスの隣に座った。
ナムギュはちらっとセミを見るが、彼女は絶対にナムギュと目を合わせようとしなかった。
……マジかよ
わざとらしすぎる。
サノスとミンスが帰ってきて、空気は少し賑やかになったはずなのに────
ナムギュの胸のモヤモヤは、全く晴れなかった。
サノスとミンスが帰ってきたことで、部屋の雰囲気は少し明るくなった。
サノスはいつもの調子で「腹減った!」と騒ぎ、ミンスはそれに付き合って何か作ろうとしている。
セミも会話に入ろうとしていたが、ナムギュとは目を合わせようとしなかった。
……あからさますぎんだろ
ナムギュは内心イラつきながらも、何も言わずにスマホをいじるふりをする。
だが、心ここにあらず。
結局、セミのことが気になって仕方なかった。
夕飯の時間になり、ミンスが簡単なパスタを作ってくれた。
「うまいじゃん、ミンス!」
サノスが大げさにリアクションする。
「ほんと? よかった……」
ミンスは照れながら微笑んだ。
セミも黙々と食べていたが、やはりナムギュとは視線を合わせない。
ナムギュはついに我慢できなくなり、口を開いた。
「おい」
セミが一瞬ビクッとする。
「……何?」
「お前、なんか俺のこと避けてねぇか?」
「は?」
セミはわざとらしく首を傾げる。
「別に避けてないけど?」
「いや、絶対避けてんだろ」
「ナムス、どうした? 何かあったか?」
サノスが興味深そうに会話に入ってきた。
「ナムスじゃねぇし、別に何もないです」
ナムギュはサノスを軽く睨むが、サノスはニヤニヤしている。
「ふーん? まあいいけど」
「てかセミヌナ、なんか今日変だよね」
ミンスが不思議そうに言うと、セミは慌ててフォークを置いた。
「変じゃない!」
「いや、めっちゃ焦ってるし」
「……っ!」
セミはふいっと顔を背けた。
ナムギュはそんなセミの態度に、ますますモヤモヤが募る。
……マジでめんどくせぇ
でも、こんな態度を取られるのもムカつく。
だったら……
ナムギュはゆっくり立ち上がった。
「おい、ちょっとこい」
「は?」
セミが警戒するようにナムギュを見る。
「いいから、こい」
ナムギュはセミの手首を軽く掴み、部屋の外へと連れ出した。
「ちょ、何?!」
サノスとミンスが驚いたように二人を見送る中────
ナムギュはセミをリビングの隅まで連れて行き、壁際で立ち止まった。
そして、低い声で言った。
「……ちゃんと話せよ」
セミはナムギュの顔を見上げ、少しだけ唇を噛んだ。
「……話すことなんてないけど?」
そっぽを向いて強がる態度に、ナムギュの苛立ちは増していく。
「嘘つけ。絶対避けてんじゃねぇか」
「避けてない」
「じゃあ、目見ろよ」
「……っ」
セミは視線を合わせられず、ナムギュの胸元あたりを見つめたままだった。
ナムギュはため息をつき、セミの顎を軽く持ち上げた。
「おい」
その瞬間、セミが驚いたようにナムギュの手を振り払う。
「なにすんの」
「お前が逃げるからだろ」
「別に逃げてないけど」
「じゃあ昨日のこと、なんで気にしてんだよ」
「……気にしてない」
セミは一瞬言葉に詰まったが、すぐに強気な口調で返した。
ナムギュはじっとセミを見つめる。
「……なら、もう一回言えよ」
「は?」
「昨日みたいに、『もしあたしがナムギュのこと好きになったら』って」
「────っ!!」
セミは一気に顔を真っ赤にした。
「そ、それは……!」
「言えねぇんだろ?」
ナムギュが少し意地悪そうに笑う。
「やっぱ気にしてんじゃねぇか」
「……うるさい」
セミは視線を逸らし、頬を膨らませた。
ナムギュはその顔を見て、ふっと笑ってしまう。
「なんだよ、それ。かわいすぎんだろ」
「は?! バカじゃないの?!」
「お前がな」
ナムギュは頭をポリポリとかきながら、少しだけ真剣な表情になった。
「……本当に冗談だったのか?」
「え?」
「昨日のあれ」
セミは少し目を見開いたが、すぐに言葉を詰まらせた。
「……」
「冗談なら、もう気にしねぇ」
ナムギュは目を逸らしながら言う。
「……でも、もし本気なら────」
「もうやめて」
セミが少し大きい声を出した。
ナムギュは驚いてセミを見つめる。
セミの目には、少しだけ涙が浮かんでいた。
「……あたしだって、わかんないんだよ」
震える声でそう言うと、セミはナムギュの横をすり抜けて走り去っていった。
ナムギュは呆然としたまま、その背中を見送る。
「……わかんねぇのは、こっちもだっつーの」
ぼそっと呟くと、ナムギュは苛立たしげに髪をかき乱した。
セミが走り去ったあと、ナムギュはその場でしばらく立ち尽くしていた。
……わかんねぇ、か
結局、あいつが何を考えてるのか、ナムギュにはわからなかった。
冗談なのか、本気なのか。
強がってるのか、それとも本当に混乱してるのか。
「……めんどくせぇ」
そう呟いてはみたが、気持ちはまったく落ち着かない。
セミの涙が脳裏に焼き付いて離れなかった。
セミは自室に戻ると、ドアを閉めてベッドに倒れ込んだ。
……バカ
顔が熱い。
心臓の鼓動がうるさい。
自分でも、何に対してこんなに動揺しているのかわからなかった。
なんであたし、泣きそうになったんだろ……
ナムギュが意地悪を言うから?
それとも、冗談じゃないって気づかれそうだったから?
違う……
本当は、自分でも答えを出せないことが、一番怖かった。
リビングでは、サノスとミンスが妙な空気を察していた。
「なあ……あいつら、なんかあったよな?」
「うん……」
ミンスは頷きながらも、どこか落ち着かない表情をしていた。
「セミヌナ、大丈夫かな……」
「ナムスのほうもヤバそうだったけどな」
「ナムスじゃなくてナムギュね……」
ミンスが小声で訂正したが、サノスは気にせず続けた。
「ま、放っとくのが正解だろ」
「……そうかな」
ミンスは少し考え込むような顔をしたが、結局それ以上は何も言わなかった。
それぞれがモヤモヤしたまま、夜は静かに更けていった。
夜が更けても、セミはなかなか眠れなかった。
ベッドの上で横になりながら、ぼんやりと天井を見つめる。
……ナムギュ、今どんな顔してるんだろ
意識したくないのに、頭の中にはナムギュの顔ばかりが浮かぶ。
真剣な目。
意地悪そうな笑み。
そして────「本当に冗談だったのか?」という低い声。
「……バカ」
セミは枕を抱きしめ、ギュッと目を閉じた。
まるで心を見透かされているようで、恥ずかしくて仕方ない。
こんな気持ちになるのは、ナムギュのせいだ。
そう思えば思うほど、胸の奥が締めつけられるように苦しくなる。
一方、ナムギュもまた、眠れずにいた。
ベッドに横になりながら、スマホをいじるふりをしていたが、まったく内容が頭に入ってこない。
……クソ、なんでこんなに気になるんだよ
セミの涙ぐんだ顔を思い出すたび、胸の奥がざわつく。
「……めんどくせぇ」
結局、何も考えたくなくて、ナムギュは乱暴にスマホを置いた。
だが、ふと視線を向けたドアの向こうに、セミの部屋があることを思い出し、余計に落ち着かなくなる。
今頃、何してんだろ……
考えないようにすればするほど、気になって仕方がない。
ナムギュは舌打ちをし、ベッドから起き上がった。
……もう、直接聞くしかねぇ
そう思った瞬間には、すでに部屋を出ていた。
「……ん?」
ぼんやりしていたセミは、ドアの向こうから微かに足音が聞こえた気がして顔を上げた。
しばらくすると────
「……おい、セミ」
ドアの向こうから、ナムギュの声がした。
セミは一瞬、心臓が跳ね上がるのを感じた。
なんで……?
夜中に、わざわざ部屋まで来るなんて。
「開けろよ」
ナムギュの低い声が、静まり返った部屋に響く。
セミはドアを見つめたまま、どうするべきか迷った。
このまま寝たふりをするべきか、それとも────
「……おい、いるのわかってんだぞ」
ドアノブがガチャッと揺れる音がした。
「……ナムギュ?」
セミが小さな声で応えると、ドアの向こうのナムギュが息をつく音が聞こえた。
「話あんだけど」
「……今?」
「ああ。今じゃなきゃダメなんだよ」
ナムギュの声は真剣だった。
セミはドキドキしながら、そっと立ち上がり、ドアノブに手をかけた。
そして────
ゆっくりと、ドアを開ける。
ドアを開けると、そこにはナムギュが立っていた。
部屋の薄暗い照明のせいか、ナムギュの表情はいつもよりも影がかっていて、妙に真剣に見えた。
「……何?」
セミはなるべく平静を装いながら尋ねる。
ナムギュは少し口を開きかけたが、すぐに言葉をのみこんだ。
まるで何を言えばいいのかわからないような顔をしていた。
「……なんで泣きそうになったんだよ?」
不意に、ナムギュが静かに問いかけた。
セミの心臓がドクンと跳ねる。
「別に泣いてない」
「嘘つけ。お前がそんな顔するの初めて見た」
ナムギュの声はいつもよりも低く、静かだった。
「だから、気になった」
「……気にしなくていい」
「できるわけねぇだろ」
ナムギュは苛立ったように髪をかきあげた。
「お前が誰の前でも強がってるのは知ってる。でも、俺の前でまで無理する必要あんのか?」
「……っ」
セミは何も言えなかった。
ナムギュは一歩踏み出し、セミとの距離を縮める。
「昨日のこと、忘れろって言ったよな」
「……うん」
「本当に、それでいいのかよ」
「……」
「俺は、忘れられねぇ」
ナムギュの言葉が、静かにセミの胸に突き刺さる。
「お前が俺のこと、どう思ってるのかは知らねぇ。でも……」
ナムギュはセミを真っ直ぐに見つめ、ゆっくりと言葉を続けた。
「もし、お前が少しでも俺のことを考えたなら────」
一瞬の沈黙。
「もう、冗談にすんなよ」
セミは驚いてナムギュを見上げた。
ナムギュの目は真剣そのもので、冗談なんかじゃなかった。
「……」
セミは唇をかみ、視線を落とす。
胸の奥がギュッと締めつけられるような気がした。
「……わかんないよ」
やっとの思いで、それだけを絞り出す。
ナムギュは、少しだけ寂しそうに笑った。
「そっか」
「……」
「じゃあ、答えが出るまで待つ」
セミは驚いて顔を上げた。
「……待つって?」
「お前が本当に俺をどう思ってるのか、わかるまで」
ナムギュはそう言い残すと、くるりと背を向けた。
「……今すぐ答えを出せとは言わねぇから」
「……」
「でも、そのまま逃げんなよ、セミ」
静かにそう言い、ナムギュは自分の部屋へと戻っていった。
セミはドアの前で、ただ立ち尽くしていた。
……逃げる、か
そう呟くように思いながら、自分の胸にそっと手を当てた。
そこには、昨日よりもずっと大きくなった鼓動が響いていた。
ナムギュが去ったあと、セミはしばらくその場を動けなかった。
胸の奥で響くナムギュの言葉が、どうしようもなく重くのしかかる。
わかんない。
本当に、自分の気持ちがわからない。
でも────
こんな気持ちになるの、初めてだ
翌朝、セミは寝不足のままリビングに向かった。
すると、そこにはすでにナムギュが座っていた。
「……おはよ」
「おう」
ナムギュはちらりとセミを見たが、昨夜のことには触れなかった。
セミも何も言えず、黙ってコーヒーを淹れる。
そのまま静かな空気が流れた。
だが、ふとナムギュが口を開いた。
「サノスたちは?」
「まだ寝てる」
「そうか」
また、沈黙。
いつもなら適当にバカにし合ったり、小競り合いが起きるのに、今朝は妙に静かだった。
セミはカップを握りしめ、思わず口を開く。
「……昨日のこと、覚えてる?」
「覚えてる」
ナムギュはすぐに答えた。
「お前は?」
「……」
セミは少し迷ってから、ゆっくり頷いた。
「忘れてない」
その言葉を聞いたナムギュの表情が、ほんの少し緩んだ気がした。
「……なら、いい」
「……」
ナムギュはそれ以上何も言わず、コーヒーを飲む。
セミもそれ以上追及することはできなかった。
この微妙な距離感が、今は怖かった。
その後、サノスとミンスが起きてきたが、二人は特に何も気づいていないようだった。
「なんだお前ら、朝から静かすぎねぇ?」
「うん、なんか変だよね?」
サノスとミンスが首をかしげるが、セミとナムギュは適当に誤魔化す。
「別に」
「何もねぇよ」
「……?」
サノスは少し怪しむが、深くは追及しなかった。
そのまま朝食を済ませ、いつも通りの一日が始まる——はずだった。
だが、セミの心の中には、昨日とは違う何かが確かに残っていた。
ナムギュもまた、それを感じ取っているようだった。
二人の間に、言葉にならない何かが流れている。
それが何なのか────
セミには、まだ答えが出せなかった。
セミは少しだけため息をつきながら、部屋の空気を整えようとした。
「ありがとう、ナムギュ」
小さな声で、でも確かに感謝の気持ちを伝えると、ナムギュは照れ隠しのように肩をすくめた。
「お前が悪いんだからな、別にいいけど」
その言葉には、ほんの少しの優しさが含まれているのをセミは感じ取った。
「……なんだか、変な感じ」
セミがふとつぶやくと、ナムギュはすぐに反応した。
「変って?」
「いや、なんでもない。気にしないで」
セミは急いで目をそらし、空気を変えようと部屋を見渡した。
その時、再びドアが開き、ミンスとサノスが帰ってきた。
サノスがリビングに入ってきて、周囲の状況を確認した。
「サノス、ミンス、早かったね」
ミンスは少し疲れた様子で答えた。
「仕事が早く終わったんです!」
「そうなんだ」
心の中で何かがもやもやしていることを感じていた。
ナムギュとのやりとりが、いつもと違って少し気になっている自分に気づいたからだ。
どうして、こんなに気になるんだろう
その気持ちはただの一時的な感情だろうか、それとも何かもっと深いものがあるのだろうか────
セミはそんなことを考えながら、空気を清浄にするためにスプレーを振りかける。
そのとき、ナムギュが突然、セミに向かって一言発した。
「……セミ、さっきのこと、忘れんなよ」
その言葉は、まるで何かを意図しているかのように響いた。
セミは一瞬動きを止め、ナムギュを見つめる。
「さっきのこと?」
「……ああ」
その時、セミはようやく、ナムギュがあの日の出来事を気にしていることに気づいた。
「あの時、俺が変なこと言ったりしたら、すまなかったって思ってる」
その言葉に、セミは少し驚き、そして心の中で何かが静かに動くのを感じた。
意外と真面目なところがあるんだ
セミはしばらく黙っていたが、最終的に軽く笑って答える。
「気にしてないから、別に」
「そうか」
ナムギュは少し安心した表情を浮かべて、肩をすくめた。
その瞬間、セミの心の中で、何かが少しずつ変わり始めているのを感じた。
何も言わずにその場を過ぎるのではなく、心の中に潜んでいた感情が、少しずつ顔を出してきたような────
その後も、皆でしばらく会話を続け、セミはその不安定な気持ちを抑えつつ、日常の流れに戻っていった。
だが、その小さな出来事が、確実に何かを変えていたのだろう。
それが何かはまだわからないが────
その晩、4人で、久しぶりに王様ゲームをすることになった。
「二番と三番がキス!」
ミンスがそう言うとセミは顔を赤くした。
「俺二番!」
サノスとキスするの……
一瞬、部屋が静まり返った。
みんなの視線がサノスに集まり、彼は軽く肩をすくめながらセミに目を向けた。
「ふん、いいよ。何かのご褒美?」
セミは思わず苦笑し、サノスと一瞬目が合う。
気まずい雰囲気の中、二人はすぐに深いキスを交わした。
「……ん。長過ぎ……舌いれてこないでよ」
「Señoritaとキスしちゃった❤︎」
その瞬間、ナムギュが激しく顔を赤くした。
「ちょっと、何なんだよ、あれ……」
彼は顔をそむけて口をつぐんだが、心の中で苛立ちが膨らんでいくのを感じていた。
「なんで兄貴にはキスするのに、俺にはしてくれねえんだよ!」
突然、ナムギュが声を荒げて立ち上がった。みんなが驚いて彼を見た。
「なに」セミがすぐに反応したが、ナムギュの顔は真っ赤で、気持ちが抑えきれないようだった。
「いや、だって……お前、なんでそんなするんだよ、兄貴には簡単にキスできるくせに……」ナムギュは不機嫌そうに言った。
「おい、ナムス、お前落ち着け。」サノスはあくまで冷静に言った。
しかし、ナムギュはそれに反応することなく、セミに対してさらに言葉を続けた。
「俺にも、せめて一度くらい……」
その言葉に、セミは思わず息を飲んだ。
胸の中で何かが引っかかるのを感じながらも、どう返答するべきかを迷っていた。
その空気が一瞬止まり、誰もが何も言えない時間が流れた。
セミはナムギュの目を見つめ、その表情をじっと見た。ナムギュは本気だった。そんなことを考えると、セミの心臓がわずかに高鳴るのを感じた。
「ナムギュ……」セミが小さく呟き、視線を下ろした。
その後、しばらく無言の時間が続き、皆は何も言わなかった。
その後の数秒間、部屋は静まり返った。
ナムギュはまだ怒ったような表情をしていたが、セミはその視線に少しだけ困惑した気持ちを抱えつつ、なんとかその場を収めようとした。
「ナムギュ、そんなに怒るなよ。」サノスが無理に笑いながら話を振った。
彼は状況を軽く流そうとしたが、ナムギュの不機嫌さは収まらない。
「怒ってるんじゃなくて、なんか……ムカついてんだよ。」
ナムギュはそのまま、セミから目をそらした。セミは言葉に詰まってしまった。
「あんた、何か勘違いしてるんじゃないの?」
セミは不意に、少し強い口調で言った。
あまりにも続くナムギュの態度に、少しだけ苛立ちを覚えたからだ。
ナムギュはびっくりしたようにセミを見つめたが、すぐに不機嫌そうに下を向いた。
「だって、俺だって……」
「だからって、どうしろっていうの?」
セミは少し冷静に言葉を選んだ。
「ゲームだよ?それに、サノスはああいう性格だから気にしなくていい」
「気にするわけねえだろ。」
ナムギュは強がって言ったが、その顔には明らかに満足していない感情がにじんでいた。
セミはその姿を見て、ふと胸が痛くなるのを感じた。
普段は冷静で、あまり他人の気持ちを気にしない自分が、こんなことで気にかけるなんておかしいと思った。
でも、どうしてもナムギュが気になった。
無意識に、彼のことを少しでも理解しようとしている自分がいるのがわかった。
「ナムギュ」
セミが少しだけ静かな声で呼びかけると、ナムギュは驚いた顔をして彼女を見た。
「キスしたくないわけじゃないんだよ……」
セミは恥ずかしそうに目を逸らしながらも、彼に向けて続けた。
…………?!
顔を赤くしてきっと頑張って言ってくれたその言葉に我慢できず、押し倒してしまった。
「キスしていいのか……?」
「ん、」
ナムギュはセミに深いキスをした。
さっきのサノスとのキスが忘れられるような────
「oh! I want to too」
「サノスさん、ちょっと出掛けましょ」
「でもゲームの途中!」
「いいですから……!」
サノスはミンスにてを引っ張られ、家を出た。
「ずっと好きだったの……あんたのこと」
セミが泣きながらそう言い、ナムギュは耐えられなくなった。
「このままだと我慢できないんだけど」
「……しなくていい」
「ゴムないしな……」
ナムギュの携帯がなった。
『するなら無理矢理しないように!後一応僕もサノスさんもセミヌナのこと諦めるつもりはないですから。玄関にゴム置いておきます』
アイツ……ありがとう。
「セミヌナ……❤︎」
ナムギュはセミの服を脱がし、下着姿にさせた。
やばい。こんなの着てたのかよ……
ブラを外し、セミの胸が露になる。
「恥ずかしいから……そんなに見ないで、、」
やばい、反則だろ。
胸を揉みながらセミの反応を楽しむ。
「んっ、❤︎」
セミの喘ぎ声……❤︎
胸のそこを強めに噛む。
「ひっ❤︎、、あ゙ぁん❤︎」
エロすぎだろ……
パンツに手をいれてそこの濡れ具合を確認する。
「ぐちょぐちょじゃん❤︎」
「ん、❤︎あ゙うっ❤︎」
セミの中に手をいれ、激しく指を動かす。
「ん゙っ、///あ゙っ❤︎、あ゙んっ❤︎、、ふぅ❤︎」
「可愛いよ……セミヌナ❤︎」
セミがイった後ゴムをつけ、挿れる。
「ん、ふぅ、、おっきいよ…❤︎」
何こいつ、エロすぎだろ。
「大きい方が好きだろ?」
「うん、すきぃ❤︎」
笑顔と甘い声でそう言われ、興奮してしまう。
「こうなりたかったの……❤︎」
激しく腰を動かす。
「んっ、❤︎、ひっ❤︎、、あ゙っ❤︎、きもひっ❤︎、、なむぎゅ❤︎」
セミは嬉しそうにナムギュを見つめる。
こんなの兄貴にもミンスにも絶対見せたくない。
「イく、、あんっ❤︎、イっちゃうぅ❤︎、、なむぎゅ❤︎、すきっ、んんっ❤︎」
セミがイった後も腰を打ち続ける。
「ん、❤︎なむぎゅ、あ゙んっ❤︎、あたしのなかきもちい?❤︎」
「最高っ❤︎」
ナムギュもイき、セミを抱き締めて見つめる。
「ナムギュ……ふぅ、ふぅ❤︎」
「俺以外の男見んなよ❤︎」
「まだ入っちゃだめです!!」
「Señoritaの喘ぎ声……!!」
「ミンスも勃ってる!」
「……/////」
「俺もSeñoritaとシたい」
「そんなの僕だって……!!……ほら行きますよ!」
「……次会ったら抱いてやるからなSeñorita❤︎」
「静かにしてください……!!」
「何かサノスの声するけど……」
「俺だけを見てろよ」
「んあ゙っ?!❤︎」
そのままずっと続き、サノスとミンスが家に入れたのは次の日の朝だった。
コメント
2件
(///>_<///)カァやばい! この世界のナムギュカッコよすぎ! 途中までモヤモヤしてみてたけど 最後結ばれて良かった!! 王様ゲームの時はこっちまで 胸が痛くなりました!! ミンスや、サノスバージョンも 見てみたいです!