テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
⚠注意⚠
・水赤(stxl)
・学パロ(高校生)
5行下から本編です。
【赤視点】
学校帰り、興味本位で立ち入ったお店で偶然顔を合わせたことがきっかけだった。
「……こえくん?」
後ろから声を掛けられて振り返り、その顔を見ると驚いた。
ろくに話したこともないクラスメイトのれる。ただ、制服の着こなしや右耳に施されているピアスから、なんとなく不良っぽいという先入観だけは持っていた。
普段、この人と交流することのない僕は自然と警戒心を抱いていた。
手にしていたピアスをそっと商品棚に戻したが、既にその姿は見られていたらしい。
「こえくん、ピアスとかつけるん?」
「……いや、たまたま目に入っただけ」
「……ふーん?」
何か言いたげにしていたが、これ以上会話を続けたくなかった僕は、「この後用事あるから」と無理やり会話を切ってお店を出ていった。
我ながらさすがに悪いことしたかなとは思いつつも、あんまり近づきたくない理由があった。
僕はあんな風に、……不良みたいに、なりたくない。
ちゃんと敷かれたレールに則って、外れないように、まっすぐ歩く。それが、僕のポリシーだった。
無理やりにでも会話を断ち切ったことを正当化しながらも、帰り道、心のどこかで罪悪感を感じずにはいられなかった。
体育のマラソンを終えて、次は古典の授業。疲れがたまっていることも相まって、どうにもやる気が起きない。
しかも、今は入院中の古典の先生に代わって、代理の先生が来ている。その先生がどうにも好きになれなくて、よりいっそう憂鬱な気分に陥る。
気分転換に外へとつながっている廊下に出たまま、教室に戻るのが億劫だ。吹き抜ける風さえも、教室に戻れと命令してくるようで鬱陶しく感じられる。
……仮病でもつかって、休んでしまいたい。
そんなふうに考え事をごとをしていたら、目の前を横切った人物とふと目が合った。
「……こんなとこで何してるん?」
昨日変なタイミングで会話をぶった切ったことを思い出して決まりが悪いが、何もなかったかのように答える。
「いや、次の授業だるいなって」
「あーわかる、れるもめんどくさい」
……別に、れるに賛同されたからってわけじゃない。ましてや、すべてがどうでもよくなったわけでもない。
それなのに、普段ならまず考えもしない思いつきが、ふと頭に浮かんだ。
「……ねぇ、サボっちゃおーよ」
れるの返事を聞く前に、その手首をつかまえた。次の授業開始5分前を知らせるチャイムが鳴ってみんなが教室へと向かい始める中、その群衆の流れとは逆に歩みを進める。僕ら2人だけが、教室から遠ざかっていく。
特に行く宛も決めていなかった僕らは、なんとなくで校舎裏に流れ着いた。
茂み越しには体育の授業でサッカーをしているクラスが見える。
授業が行われているグラウンドと違って、僕らがいる場所は木陰になっていて、僕らだけ別の世界にいるみたいだった。
茂みの向こうをぼんやりと眺めていると、れるが話しかけてきた。
「ちょっと前から思っとったんやけどさ
こえくんて、実は優等生ちゃうよな? 授業サボるし」
……痛いところを刺された。学級委員だし、親の言うこともちゃんと聞いている優等生のつもりだった。 でも、本質はそうじゃない。大勢の人を仕切ることも、勉強も好きじゃない。
その問いかけには直接答えずに、話を逸らす。
「……れるくんは、逆にあんまりヤンキーじゃないよね」
「れるのことヤンキーやと思ってたん?」
ヤンキー呼ばわりされても一切嫌な顔をせず、それどころか爆笑し始めるれる。一気に力が抜けて、ずるずると壁伝いに屈んだ。
「……ていうか、昨日感じ悪くてごめん」
屈んだ姿勢のまま、腕に顔を埋めながら喋る。……また感じ悪いかも。れるはそんなことなんか少しも気にしない様子で答えた。
「自覚あったんや」
「まぁ、ね」
「なんで今は普通に喋ってくれてるん?」
尋ねられて、ふと思考をめぐらせた。れるが害のない人だとわかったからか、僕の気分なのか。多分前者なのだろうけれど、やっぱり見た目は不良のそれにしか見えない。
れるの右耳に光るピアスをじっと見つめる。
「やっぱり興味あるんやろ? ピアス」
「べつに、興味あるわけじゃ…ない」
消え入るような声で返答すると、れるは小さく笑いをこぼした。
「なに、もしかして怖いん?」
「だって、痛そうじゃん」
「ふ、可愛いやん」
「……ばかにしないでよ」
そう言うと、れるは余計に大げさに笑い始めた。……こいつは、最初に空けたとき、怖いとか全然思わなかったんだろうか。
むっとする僕とは対照的に、れるは僕の思ってもみなかった提案をする。
「れるがこえくんに空けよっか? ピアス」
昨日初めて話したばかりの人に、なんなら良い印象を持っていなかった人に、体に穴を開けるなんて大役を買わせていいのかな。ぐるぐると考えている間にも、れるは強引に話を進めた。
「明日の放課後、空いてる?」
「え? うん」
「じゃあ教室残ってて。明日持ってくるから」
あまりにもあっさりと話が決まってしまい、断る隙が見つからなかった。不安に思いつつも、憧れのような好奇心もあった。
「うわ、やっぱりこわぃ……」
結局昨日の取り決めを解消するタイミングもないまま、放課後がやってきた。いざ実物を目の前にすると、心臓がばくばくと音を立てる。今からでも断ろうか、でもせっかく時間割いてくれてるしなぁ。
異常なまでに恐がる僕に対して、れるは平然と消毒を始める。
「動かんといて、やりにくい」
「だって、こわいんだもん」
「大丈夫やって、死ぬわけじゃあらへんし」
慰めるつもりがちっともなさそうな情けを受け取りながら、動かないようにじっと待つ。怖いという気持ちは変わらないけれど、いっそ待ち遠しいような気もする。
「じゃあ、……そろそろ、いい?」
「まって! あと30秒!」
何度もちょっと待ってを繰り返す僕に、れるは「はぁ」とちょっと怠そうな、でも楽しげにも聞こえる声をもらした。
「怖かったられるの服、つかんでてええよ」
とにかく安らぎを求めていた僕は、その言葉に甘えて、れるの制服の裾をきゅっとつかんだ。
数日前に接点をもったばかりなのに、不思議と安心感があった。他のどこでも感じたことのないぬくもりが、確かにあった。
それをもっと実感したくて、れるに軽く体重を預けて、寄りかかる。「重い」ってあしらわれると思ったが、れるは何も言わなかった。
目を瞑って静かにとどまる。一瞬痛みが走って、でもあっけなく去っていった。
「見て、ちゃんと付いた」
「ぉわ…………」
「お疲れ様、がんばったやん」
れるは僕を労りながら、鏡でピアス付近の様子を映した。
鏡越しに、自分のファーストピアスを見つめ、思わず感嘆の声がもれた。
まさかこんなにも早く、自分がピアスデビューをするとは思わなかった。
数日前にお店でピアスを見かけたときは、興味はありながらも、どこか遠い存在に感じていた。それは今、確かに自分の体の一部となった。
部活に行くれるを見送ったあとも、しばらく僕は教室に残っていた。
さっきつけてもらったばかりのピアスの縁をそっと傷つけないようになぞる。金属製のそれは、人肌よりもずっと冷たい。
それなのに、触れられた耳はいまだ熱を持っている。その熱は頬にまで伝わってくる。
「あっつ……、」
誰もいないのに、……いや、誰もいないからこそ、無意識にこぼれていた。
「てか、はずかし……」
さっきの自分の言動がふとよみがえる。冗談で言ったかもしれないれるの言葉に本気になって、あまつさえ必要以上に距離をつめたこと。
肩や髪まで重なって、それがくすぐったくて、うれしくて。
自分の言動を思い返すと同時に、れるの言動までもが脳裏をよぎる。
最初の印象は、いかにもヤンキーっぽくて、近寄り難い。でも、実はそんなことまったくなくて。
「………………」
自分の気持ちに変化が生じていることを、顔の熱さから理解せずにはいられなかった。
[後編につづく]