「兄ちゃん」
オレは思わず、呟いた。
この声は、もう兄ちゃんには届かないのに。
湊がこれからされることに、オレはいち早く気付いた。
オレが死ぬ前に兄ちゃんにされたこと。
見たくなかった。
オレはどうしようもない臆病者だから。
湊の叫び声から逃げるように、オレは壁をすり抜けて出た。
兄ちゃんがただ、怖かった。
オレが死んだら、兄ちゃんは目を覚ましてくれると思ったのに。
目を覚ますどころか、兄ちゃんはオレの代わりとして知らない男の子を連れてきた。
でも、彼は────湊は、オレの姿が見えるらしく、その時の喜びといったら!
これ以上、兄さんに関わった人を犠牲にするわけにはいかない。
オレはふわりと宙に浮き、一つの場所を目指した。
湊のお兄さんに会いに。
湊のお兄さん────白城叶(しらぎかのう)は、一度、兄さんによって襲われたが、軽い暴行だけで済んだようで、密かに湊を探していたらしい。
叶さんは、本当に湊のことを大切に想っているのだろう。
……叶さんみたいな人が、オレの兄だったら良かったのに。
そっとパソコンに向かう叶さんに近付く。
部屋の隅に積まれた雑誌の山を少し押してやると、バサバサッと音を立てて山は崩れ落ちた。
オレは、いつも人に気付いて欲しいときはこうしている。
初めは物に触れることなんてできなかったけど、最近はちょっとした物なら触れることができる。
ちょっと霊感を持ってる人や、普通の人とは違う感性を持った人なら、オレの姿が見える。
湊はオレの姿が見えたんだ。
なら、兄の彼も見えるだろうと考えた。
驚いたように振り返る叶さんは、崩れた雑誌の山を凝視して、その近くにいるオレを見た。
ふわふわ浮いている半透明のオレの姿を見て、叶さんは目を大きく見開く。
「………え…、?」
『こんにちは』
「はっ⁉だ、誰だよ!ってか、どこから入ってきたn」
『オレはレン。くろせ、レンです』
叶さんはしばらくオレのことまじまじと見つめ、オレの言った言葉をゆっくり咀嚼するかのように聞いていた。
「黒瀬って……」
『そうです。あなたのおとうとの、みなとをさらったおとこのおとうとです』
「黒瀬…悠斗か…!」
叶さんの表情が瞬く間に憎悪で満たされる。
そうか、もうそこまで調べているのか。
「いや待て、情報を整理させてくれ。…まず、お前のことからだ」
眉間にしわを寄せたままの彼は椅子に深く座り直し、脚を組んだ。
オレはゆっくりと話し始めた。
最初から、全て。
『─── と、いうことです』
「………なるほどな」
叶さんは暗い表情だった。
弟の湊がこんなことになってるのだから、生きていることを知って少しは安心したみたいだけれど。
『そこで、オレからさくせんがあるんです』
「作戦?」
オレは頷いて、叶さんのパソコンを指差した。
『しらべてほしいところがあるんです』
コメント
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湊が犯されてる所見たいです( ´ཫ` )