ユリが二人のもとに戻ると、タクヤは山盛りの毛布をドサッとユリの前においた。
「どうぞ」
「え、こんなに?」
「暑かったら下に敷くといいよ。気持ちいいから」
ユリは苦笑して、縦に2つに折った毛布を芝生の上に重ねて、その上に寝そべった。
「星がきれいね」
「ユリ」
「なに?」
「君が来るまで、ゼンは音楽の話ばっかしてた。記憶を失う前の僕は、こいつと音楽学校に通っていたんだ」
「歌? それとも楽器の演奏ができるの?」
「こいつがチェロで、僕がバイオリン。言われてみれば、楽器を持つ感じとか、弓をコントロールする感じとか、すごいわかる。ここに楽器がないのは悲しいけど、でもなんか、リアルなこと思い出して、嬉しかった」
「そっか。王子様のバイオリン、聞きたいな」
「ほんとに? ユリだったら『もういいです』と泣いてあやまっても許してあげないくらいたっぷり聞かせてあげる。4時間耐久とか」
ユリは笑って「楽しみにしてます」と答えた。
音楽の話ばかりなんて、タクヤ様って、ウソが下手だな、とユリは思った。
さっきよりも、自信が感じられる。
この国の秘密を守る、大国の思い通りにはさせない。
それは、王族の義務なのだ。
祈り師はそれを全力で支えるのが仕事、私はそのためにここにいる。