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モノクロナツキ
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モノクロナツキ
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「こんばんはぁ~、元宮酒店ですぅ~」
空くんとのLINEが繋がってから数日後。野中さんと、次にお隣へ突撃する日取りについてメッセージをやり取りしていた、夜の9時頃だった。
インターホンから聞こえてきたのは、少し気の抜けた、でも聞き馴染みのある秀太の幼馴染の声だ。
「秀太、こんな遅くに配達頼んだん?」
「うん、こないだもとちゃんの所寄った時に、オススメのワインがあるからって押し売りされてん。俺の受け取れる時間に配達してくれるなら買うわ、言うたらほんまに来た」
ふふっ、とどこか嬉しそうに、秀太がリビングから玄関まで小走りで鍵を開けに行く。
この人らは幼稚園からの幼馴染で、もう30歳になったというのに相変わらず仲が良い。家が遠くなってからもこうやって頻繁に行き来しているのは、よっぽど気が合うんやろなと思う。
「こっち、入って」
「はいよ~。……おう弦、久しぶりやな」
いつもの人のいい笑顔で、もとちゃんが俺に笑いかける。小さい頃から、いつ会っても「近所のええお兄ちゃん」感があって、俺も結構好きやねんな。
「もとちゃん、久しぶり。秀太に何押し売りしたん?」
「押し売りちゃうで、俺のお気に入りをおすすめしてん。そしたら秀太が全部買うわって」
「……ほんま、よう言うわ」
秀太が呆れたように鼻で笑う。それでも、箱に入れられた色んな種類のお酒をニコニコと楽しそうに見つめている秀太を見ると、もとちゃんの言うてることもあながち嘘やないんやろな、とは思う。
「洸くんは? 今日も遅いん?」
「うん、多分11時頃になるんちゃうかな?」
「そっか。前に会ったの、まだ専門学生の頃やったから、久々に会いたかったなぁ。やけど、あの泣き虫洸くんがまさか、秀太の真似して美容師目指すとはな?」
ははは、とまるで親戚のお兄ちゃんかのように、もとちゃんがあの頃を思い出して笑った。
そうや、今は言いたいこともハッキリ言える洸くんやけど、小さい頃は気が弱くて、女の子みたいな可愛い見た目もあって、近所の子によくいじられて泣いてることが多かったな。
「洸は秀太のことが大好きやからな。秀太に憧れて、秀太みたいになりたかったんちゃうかな?」
俺がそう言うと、もとちゃんがそっと傍に寄ってきて、俺の頭を子供の時みたいに優しく大きな手で撫でた。
「秀太だけちゃうで? 秀太が卒業した後、ずっと洸くんのこと守ってたん、弦やろ? やから、洸くんはあんなに強くて優しい子になったんやん」
「──っ、もう、ほんまに!! もとちゃんは泣かせるん上手いんやから!」
急にそんな泣けること言うから、俺は半泣きになりながら目元をゴシゴシと擦った。
ほんま、なんでこんなに優しくて、カッコよくて、ええ奴が30歳になっても彼女もおらん独身なんやろ。俺的世界の七不思議の筆頭やわ。
「あかんでもとちゃん、弦を調子に乗らせたら『俺は無敵や』思て暴走するから。今、お隣さんの案件抱えてるから、自分の部屋の壁ぶち抜き始めるで?」
秀太が、もとちゃんの持ってきたワインを1人で早くも堪能しながら、横目で俺を見てそんなことを言う。おいこら長男、1人で飲んどらんと俺にも分けろよ。洸やったら「いらん」言われてもグラスに入れてあげてたやろに。
「お隣さんの案件て?」
「お隣の空くん、大学受験に失敗してから外に出るのが怖いんやって。やから、外に出られるように手伝ってくれへんかって、頼まれてさ」
「……そうや、よく考えたら、空くんって洸くんと同い年位ちゃうかな? 4年制の大学に現役で受かってたら、今年で卒業ってことやんな」
秀太の言葉に、ハッとした。
そうか……洸がこの件にやたら協力的なんは、自分と歳が近いって気づいてたからかもしれへんな。それやったら尚更、お兄さんの代わりとして、俺が助けてあげんとあかんな。
「……そっか、そんな話聞いてもうたら、俺もほっとけへんな。なんか協力できることあったら言うてよ? 20歳すぎてるならさ、ちょっと酒飲んで話したら、普段言えへんことも言い合えてスッキリするかもしれへんやん?」
「うわ、もとちゃん、それええアイデアかも! じゃあ今度、フルーツ系の弱めのお酒持ってきてくれへん? 洸もそれなら飲めるから、いくらあってもええ!」
「もちろん! 請求は秀太でええんやろ?」
「いや、協力する言うてんから、カッコよくもとちゃんが払ってよ」
「ははっ、ごめんごめん、冗談やて。洸くんにも会いたいし、今度3人揃ってるとき声かけてよ。何時でも飛んでくるからさ」
「じゃあ、そろそろいくわ」時計を確認して、気のええ笑顔でもとちゃんが立ち上がる。
「送ってくるわ」とグラスを置いて立ち上がった秀太と共に、もとちゃんは玄関へと向かっていった。
玄関のドアが開く音がして、外から「秀太薄着で出てきたら風邪ひくで。俺の上着貸したるわ」「え、そんなんすぐやからええよ」という、相変わらず仲の良い会話が微かに聞こえてくる。
そんな兄貴達の会話が聞こえなくなってから、俺は手元のスマホに視線を戻し、野中さんからのメッセージに返信を打った。
『次に行く日、空くんと決めていいですか?』
『そこまで仲良くなれてるんですね、安心しました。では、僕がいる日を送りますので、その中から決めて頂けると助かります』
『わかりました! 又連絡しますね!』
さぁ、言うても、空くんとのやり取りは初めての夜以外、最小限の挨拶くらいで止まっている。俺がジムのシフトで忙しかったのもあるし、急に距離を詰めすぎるのも、ご飯に誘って断られた手前、危険かなと思って遠慮していたのもある。
秀太の言う通り、調子に乗って空くんの地雷を踏んでしまったら、せっかく開きかけてたドアの隙間も閉まってしまったら元も子もないからな。
「……さて、どうしようか」
今は頼れる秀太も、洸くんもリビングにはおらへん。いつまでも人に頼っててもあかん。自分の力でいかな。
なにか、警戒されへんええ誘い文句はないかな。
俺はもとちゃんが持ってきてくれたワインの箱を見つめ、これや、と思いついた。
『空くんこんばんは。兄貴の幼馴染に美味しいワインの差し入れ貰ったんやけど、空くんはお酒飲める?』
秀太の助言通り、日常の風景を自然に会話に取り入れて、かつ疑問系。
これで、話のつかみはOKやろ!
画面を見つめながら、俺は祈るような気持ちで送信ボタンを押した。
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