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荒れた倉庫街。敵組織の秘密拠点に潜入した葛葉と叶は、
影に紛れて情報を抜き取っていた。
「葛葉、右の廊下……三人来る」
『任せろ』
葛葉の声はいつもより低い。
情報屋としての冷静さと、
叶の前だからこその集中力が混ざっていた。
二人は呼吸を合わせ、数名の敵を静かに倒していく。
だが──。
奥の部屋に近づいた瞬間、
背後から飛んできた銃弾が壁に当たり、
跳ねた破片が叶の肩を深く切り裂いた。
「──っ!」
『かなえっ!』
一瞬で空気が変わる。
叶の顔は
苦痛に耐えられず歪んでいた。
葛葉の胸がぎゅっと締めつけられた。
「大丈夫……っ、動ける……!」
叶は笑おうとしたけれど、声は震えていた。
その瞬間、葛葉の中で感情が爆発した。
「……許さねぇ」
葛葉の赤い瞳がすっと細くなる。
その表情は、普段の仲間に見せる人懐こい葛葉ではなく
“情報屋” としての顔だった。
怒鳴りもしない。
でも、空気がひやりと凍る。
葛葉は一歩前に出ると、
叶の前に立ち、敵に向かって無駄なく突き進む。
その動きは狂気じみるほど冷静で、
怒りを飲み込んだ静けさを纏っていた。
敵が銃を構えるより早く、
葛葉は手刀と短いナイフで次々と倒していく。
「葛葉……すご……」
叶は痛みに耐えながらも、
その背中を見つめずにはいられなかった。
普段は人見知りで、
仲間の前では子どもみたいに笑う葛葉。
そんな葛葉が──
自分のために、こんなにも怒れるのか。
胸が熱くなる。
敵を全て倒したあと、
葛葉は振り返り、叶を見た。
その瞬間──。
「……っ、叶……!」
目に涙が一気に溜まり、頬が赤くなる。
震える手で、叶の傷口をそっと触れる。
「ごめっ……俺、もっとちゃんとしてれば……
守れたのに……っ」
嗚咽混じりの声。
叶を傷つけたことが、葛葉には何よりも辛かった。
「葛葉、泣かないで……大丈夫、これくらい……」
叶は傷より、
葛葉が泣いてることの方が胸に響いた。
(こんなにも……僕のことで泣いてくれる)
叶は、そっと葛葉の頬を指で拭う。
「ねぇ……泣き顔、こんな可愛いの反則だよ」
「可愛いとか……言うな……っ!」
葛葉は涙で目を赤くしながら睨むけど、
指先が叶の服をぎゅっとつまむ。
安全な場所まで移動し、
葛葉は震えながら叶の処置を始める。
「……痛かったら言えよ」
「葛葉が優しすぎて、逆に痛くないよ」
「……うるさい」
葛葉は強がるけど、
指先は本当に優しくて……
触れられる度に、叶の胸が温かくなる。
処置をしながら、葛葉は心配そうに眉を下げた。
「……叶が怪我するの、嫌だ……
怖かった……」
叶は頭を優しくなで、
そっと葛葉の額にキスを落とした。
「 ……もっと好きになっちゃうじゃん」
「っ……!」
葛葉の顔が一気に真っ赤になる。
叶は微笑み、
顔をぐいっと引き寄せ、抱き寄せた。
(葛葉……優しくて、強くて……
本当に僕を、壊すくらい愛おしい)
叶の独占欲は、静かに、確実に深まっていった。