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麻琴に優しく抱き締められ、背中を心地好いリズムで叩かれる俺は幼子へと返り麻琴の言葉に素直に頷く。
仕事のこと、家庭での扱い、なぜ出会いを求めてこんなことをしていたのか、思い付く限り話す。
それは言葉を話すというよりも、思いを吐くかのよう。
負の感情も含め素直に吐き出し、涙でぐしゃぐしゃの顔を見られまいとベットに、というより麻琴の肩に伏せる。涙で濡れているだろうに相も変わらず俺の背中をトントンと叩いてくれる。
ホテルに来る前に麻琴は俺が話しても何も解決できないと言った。
結局は俺が現状に納得するか、未来を夢見て動くしかないのだと。
だが、言葉を吐いた今、俺の心の中に押し込められていた様々な思いが無くなり心が軽くなった気がする。上手く言葉に出来ないが、憑き物が落ちたような無垢とでも表現すればいいだろうか。
とにかく救われた気がする。
「悠真さんはすごく頑張ってます」
ぎゅっと強めに抱き締められ、頭を優しく撫でられ言われた言葉は、心にスッと入って奥までしみ込んでいく。
止まっていた涙が再び流れ出すのを感じるが、熱を帯びた涙はさっきと違って嬉しさと恥ずかしさが混ざったもの。
「大人になったら、働いて、家庭を持って子供を育てる。それが当たり前、だから自慢も出来ないし褒められもしない。
みんなやってるから、当たり前だから、誉められる為にやってるわけじゃない、義務だからと言って必死に生き進む。
でも、当たり前をちゃんと出来るって本当はとても凄いことだと思うんです。
だから『頑張ってるね』って誉めるのも、褒められるのも悪くないことだと麻琴は思います」
そう、仕事や子育て、家族を養うことは褒められるためにやっているわけではない。ないのだけど、その当たり前を褒めていけないわけじゃない。
いつもやっていること、世間で当たり前とされていること、義務としてやっていることでも褒めて褒められることは悪いことじゃないんだと思ったのだ。
「だからまずは悠真さんが今出来ること、これから出来ることを一緒に考えましょう。そして今が過去になる前に未来もまとめて夢見てみませんか?」
強く抱きしめられながら、耳元で優しく語られる言葉に俺は素直に頷くのだった。