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第4話 - 📡💊ハロウィンの話2「死神と幽霊」

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2024年10月24日

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砂場

ハロウィンの話　２　「死神と幽霊」

ハロウィンの話１の📡💊verです。世界の設定とかは同じです。

ぜんぜんセンシティブじゃないのにセンシティブ判定された…？？！別にそういう内容ではないです

その日遅く、ゲーセンアジトで目覚めたレダーの目に、様々な姿に変身しているメンバーの姿が飛び込んできた。

ケインが説明するところによると、市からのサプライズで日付が変わるまでの間、ハロウィンにありそうな仮装そのものに変身するイベントが発生しているそうだ。

実際にトピオはウサ耳＆背中から透明な妖精の羽が生えているし、床に倒れている音鳴は赤と黄色の髪に泣きそうなメイクの道化師の格好をしている。刃弐は本物の小さな白ネズミになっており、ピーナッツを手にトピオの肩に乗ってチュウと鳴いた。

そして普段なかなかここで見ない顔、ぐち逸もいた。

「なんでぐち逸いんの」

「先ほど音鳴さんがダウンしまして、呼ばれました」

だが音鳴は床に転がっており、ぐち逸は治療するでもなく横に立っている。東に病気の人あれば行って看病し、西に死にそうな人あればどんな距離でも駆けつけるほどの何にも負けない医療バーサーカーなはずなのに。訝しむレダーの顔に気づき、ぐち逸はため息をつくと腕を持ち上げる。

「こういうことです」

隣に立つケインを触ろうとした手が緑の燐光を残してすり抜けた。よく見れば足も透けている、いや膝下より先がかすれて消えている。

「幽霊……というか、ゴーストと言ったほうがいいんですかね。触れないんですよ、人に」

ぐち逸はその半透明に透き通る手と、潰れたカエルみたいに呻いている音鳴とを交互に見てまたため息をついた。

「何それ、何でもありじゃん」

「聞いてください店長、私は何も変化がないんですよ。もう仮装してるようなものってことですか」

「言われてみればロボットってそうかもな」

「ヒドイ！」

これもロボハラですよ！私も猫耳とかになりたかったです！とケインは嘆く。

ぐち逸はだずげでぇ〜〜〜と呻いている音鳴の横にしゃがみ、ケインに簡易蘇生キットを手渡す。

「出血はなさそうなのでこれでなんとか。使い方はわかりますか？」

「はい、やってみます」

「物は受け渡しできるんですよね、不思議ですね」

トピオが差し出した手はぐち逸の肩を通り抜け、ふわりと淡い緑の燐光を巻き上げるばかりだった。なんの質感も温度もなく、映し出されたホログラムを触るかのようだ。

やっと床とお別れできて起き上がれた音鳴は、ぐち逸に感謝しつつレダーを指差す。

「レダーはなんやそれ、なんの仮装になっとんの？」

「こっちから見ると店長は黒いフードの服を着てますよ」

「普段より目が疲れてそうですね、先生」

「へ？見てわからんとかあるの？」

レダーはずっと座りっぱなしだった椅子から立つが、自分の目線では見慣れない黒い服を着ていることしかわからない。不思議がりながら自分の手を見ていたところ、突然大きな黒い鎌が手の中に現れた。

「えーなにこれ…」

おそらく実体はないそれは振り回しても重さを感じない。トピオは目を輝かせて飛び跳ねる。肩の上でずっとピーナッツをかじっている刃弐も動きに合わせて飛び跳ねた。

「もしかして死神ですか！？先生かっこいい！」

「まあまあ解釈一致ですね」

「疲れ目のおっさんちゃうんやな」

称賛するメンバーの中で唯一ちょけた事を言った音鳴の首元を、力任せに振ったレダーの黒い鎌が音もなくすり抜けた。

「冗談ですやん～！」

だが本当に冗談ではすまなかった。首が飛んだり血を吹き出すこともなく音鳴は白目を剥いて床にビターンと倒れ伏した。そしてその体から半透明の音鳴がふよふよと浮いて出てくる。しばらくぼんやりしていたが床に倒れる自分を見てパニックになりはじめた。

『ギャーーーッ死ぬ死ぬ！死んでまう！いやもう死んでる？！』

音鳴の霊の足先はかろうじて身体と繋がっているが、それを切ったらどうなるかは想像に難くない。まさかこんなことになるとは思わず、レダーは無我夢中で霊の頭を掴んで身体にねじ込む。それだけで音鳴はがばりと目を覚ました。

「アー！死ぬかと思った！」

「本当に死神じゃないですか、店長」

「やっすいコスプレやないんやなぁ」

「あのまま繋がってた部分切ったほうが良かったか？」

「やだなぁ冗談、冗談よ～？」

真っ黒い目で鎌を向けてくるレダーを音鳴は引きつった笑顔でなだめる。目の下の隈がいつもより濃く、その目は本当に死を引き連れるかのごとく闇と繋がっている。深淵を背後に構える目で見つめられると簡単に魂を抜かれそうだ。なんとか矛先をそらすべく、音鳴はぐち逸を指差す。

「も、もしかしてなんだけど、レダーどっかでぐっさんのこと切ったんちゃう？」

「いーや、今起きたばっかりだし」

「いえ、その自覚はないですが」

部屋の出口あたりでずっと盗聴器のように黙ってやり取りを見ていたぐち逸と、レダーの声が重なる。

「まあ随分不思議な仮装ではありますね、幽霊なんて。医療行為ができないのが不便で仕方ありません」

眉間にシワを寄せ、不機嫌さを隠さずにぐち逸は言う。もっと他にも文句がありそうなのに憤るのがそこ、というのがぐち逸らしくレダーは少し笑ってしまった。この命に取り憑かれた救助の化け物はどんな状況でも足を止めない。

「Twix見る限り仮装はカブってるみたいなので、他の死神に切られたのかもしれないですね」

スマホを見るトピオの横でぐち逸は釈然としない顔をしている。なにか言いたいことはありそうだがトピオの邪魔をしまいと黙ってた。

「どこかで切られて、さらに身体からも切り離されちゃった……とか？」

「いるな、ちょうどいい実験体が」

「やーめーて、ねぇやーめーてって」

また顔の横に鎌を向けられて音鳴は大げさに手を振って命乞いをする。感情を死神に売り渡してそうなレダーという男はこういうときにやたら引き金が軽い。

冗談はさておきレダーは少し真面目に目の前の幽霊について考える。

「切られたとしても忘れちゃったんじゃない？コイツお手軽記憶喪失だし」

その言いざまにすこしイラッとしてぐち逸はその淡い緑の目でレダーを睨み、トゲしかない声で返す。

「はぁ……好きで記憶をなくしてるわけじゃないんですけど、まあもしかするとそういうこともあるかもしれませんね」

「ん？ちょっと待て、もしそうだとするとお前の身体、どっかにあるってこと？」

「知らないですけどそういうことになるんじゃないですか」

今までやいやい言っていたのにその言葉であからさまにレダーの顔色が変わる。感情を読ませない黒い目が細められる。途端に滲み出す無言の圧を感じて他の面々も口を閉ざす。

「ふぅーーそうですか」

吸盤のついた触手が伸びる。それは独占欲という墨で黒く染まっている。タコは宝物を離さない。目に見えぬそれが自分に向けて伸びていることを察し、ぐち逸は息を吐く。

「ぐち逸、心当たりある？」

「正直あまり」

「探しに行くよ」

「まあいいですよ」

手を離すと鎌は消えた。レダーはいつものようにその白い手を掴もうとし、ぐち逸もそれに答える手を伸ばしたがするりと空を切る。それにイラッとするが今は引く袖はない。そんなレダーの後をついてぐち逸もアジトを出た。

タイムリミットの０時まではあと１時間ちょっと。

身体を探す幽霊と死神の短い旅だった。

「幽霊でも座席に座れるってことはシートベルトもしないといけないんでしょうか」

「ぶつけたらどうなるかやってみる？」

「いいですけど多分私は無傷ですし、あなたのことを治せませんよ」

そんな事を言い合いながら車は闇へと走り出した。

ただ闇雲に探しても仕方ないので二人で話し合い、とりあえずぐち逸の行きそうな場所を車で巡ることにした。

警察署の前を通るとチェーンソーを持った黄色い仮面の男がモフモフの犬に追いかけられていた。続けて犬やゴリラが出てきてまるで動物園のようだった。

レギオンには様々な格好をした魑魅魍魎がいて、その妖艶な衣装は夜の闇にもよく映えていた。

イベントテロ罪の日だから街にはいつもの血と硝煙はなく、どこを見ても混沌と笑い声が響いている。この愉快な日に自分は幽霊になった恋人を乗せて車を駆る、というのもなんとも妙な気分でレダーはいつも以上に落ち着かない。

何よりも触れることができないというのが一番心臓に来る。何かあっても引き寄せることも、危ないからと突き飛ばすこともできない。あの大仰な鎌は自分の首を落として霊になるために渡されたのではとも思ったが、元に戻せる人間が都合よくいるとも思えない。

すぐ横の席に座っているというのに、ぐち逸までの距離はひどく遠かった。

「身体を探す幽霊というのもなんとも妙なものですね」

助手席でぐち逸は呟く。

「足がないのは日本の幽霊の特徴らしいですね。アメリカでは生者と変わらない姿だとか。私は日本出身らしいのでそういうところも反映されたのかもしれませんね」

「へぇ、博学」

「高学歴なんで」

ふふん、と鼻にかけた笑い声。いつもなら軽く小突いているかもしれないが今日は何もできなくてレダーはじれったさを感じる。

恐竜と魔法少女の乗った車を追い越し、レダーの運転する車は市街地を抜けて北へと進む。ヘリでもよかったかなとレダーは思った。しかし空からでは今日限りの乱痴気騒ぎに溺れる街を見られなかっただろう。隣には行儀よく半透明のぐち逸が座っている。結局シートベルトはしないことにしたようだ。幽霊にも慣性の法則は働くのかな、そんなことを考えた。

「あったよな、幽霊を車に乗せる話」

「タクシーの話ですよね、よく聞くのは」

「ああ、到着したら消えてて座席が濡れてるってやつね。あれなんで濡れてるのか疑問なんだよね」

「水死体を乗せてしまったとか、幽霊に水はつきものとか、色々あるんでしょうけど。まあ飲み会の帰りで悪酔いして顔色も悪くて、トイレを我慢していたけれどバツが悪くて……という可能性もありますね」

「はー、現実的」

「医者ですから」

面白みの一つもない回答をぐち逸は「医者ですから」の一本で押し通す。何があっても自分を変えない力強い不器用さはいつもの通りで、レダーは少し笑った。

「他にもありますよ」

ぐち逸は窓に頬杖をつき、フロントガラスを流れる景色を見たままぽつりと口を開く。

「言われたとおりに車を走らせるとどんどん人気のない山奥に入っていくんです」

車はダメ元でぐち逸が最初に倒れていた北の砂漠の薬物生成所を目指していた。

左右には木もまばらな荒涼とした山がそびえており、なるほどぐち逸の言葉がしっくり来る状況だった。

「そして道の途中で止めるように言われて、席を見ると誰もいない。慌てて運転手が車から降りるとそこには土からはみ出す白い骨があって、耳元で声がするんです」

次の言葉のために息を吸う音が車内に小さく響く。

「一緒に行きませんか？」

その声で背筋が凍り、レダーは思わず助手席を見た。

窓に頬杖をつき気怠そうに前方を見る横顔があった。眼鏡の向こう、長い睫毛に彩られた淡い緑の目は柔らかな翡翠の輝きにも似ている。その整った横顔を透かして流れる街の光がキラキラと揺れている。

たしかにそこにいるのに希薄な存在感が肩を震わせた。最初こそ幽霊のように空っぽだった彼は、もう随分と信頼と愛情を食べて重くなったはずだ。それをすべてかき消すかのように厚かましくも与えられた空虚さが憎たらしい。

思わず伸ばした手はなんの感触もなくすり抜け、ヘッドレストに当たるばかりだった。

「どうしました」

「お前怪談の才能あるんだな」

「褒め言葉として受け取っておきます」

少し得意そうな声が右側からする。もうそちらは見ずにレダーは車を進ませた。

結局懐かしの生成所ももぬけの殻で、車は行く当てもなく南の街区へと進んでいた。

時計はあと少しで0時を指すところだった。もうどこかに行くほどの時間はない。高速の立体交差の上でなんとなく車を止め、二人は車を降りた。

遠くで海辺の遊園地の観覧車がキラキラと輝いている。街区は大通りを照らすオレンジの街灯で空までもが暖色のモヤに覆われている。海側を見れば月もなく真っ黒い空と、水平線のわかりづらい暗い海が時折静かに白い波を立てている。

暗い空では星がきれいに見える。それは透き通る身体の向こうに街の明かりを透かしてみせる今のぐち逸にも似ていた。

空の星を秘めたような顔で、ぐち逸はレダーを見た。淡く輝く燐光が顔の横に浮かんでは消える。

「見つからなかったですね」

「まぁ時間ないしね」

「そもそも幽体離脱した音鳴さんのことは掴めてましたよね。なんというか、私は種類が違うんだと思いますよ」

「……なぁんだ」

言われてみればそうだ。自分を走らせていた感情が事実を前にやっと納得し、レダーは肩の荷が下りる感覚を覚えた。

「心配、してくれてるんですよね」

遠く、闇の中にきらめく街の灯を見ながらぐち逸は言う。

「もしお前の身体がどっかにあるなら、誰かに取られたりしてたら嫌だった」

「やっぱりそういうことでしたか」

伸ばされている黒い触手の真意を知り、呆れたように笑うとぐち逸は首を振った。

「本当にそういう仮装にされたんだと思いますよ。趣味を疑いますが、人に触れない存在に」

そういうとその場でくるりと回ってみせた。半透明の身体がゆらぎ、回るコートの裾とともに薄緑の燐光がふわりと広がる。

「私はここにいますよ」

そしてそしてレダーをまっすぐに見て優しく微笑む。思わず抱きしめたくなるがレダーの手は空を切る。

「わかってる、だから嫌なんだよ」

まるでまだぐち逸は空っぽである、と決めつけるかのような変身が憎かった。そんなことはない、この救命に取り憑かれた怪物は誰が止めるのも聞かずにとても強い足で歩く。だがその足音すらしないこの変化にレダーは憎しみさえ覚える。

「お前に触れないのも、お前が触れないのも全部嫌。許せないクソ市長め。こんな面白そうなイベントならもっと他にあっただろ」

その言葉を聞いて、ぐち逸は少し目を丸くしてからくすくすと笑った。

「あなたのその真っ直ぐな嫉妬心は、私にとっては妬ましくもあります」

「何そのAIみたいな喋り方」

「わ、私だって寂しいんですよ！触れなくて」

これまでのわだかまりを吐き出すような口調ににレダーは面食らった。不安で不快な気持ちになっていたのは自分だけではない。少し眉をひそめて泣きそうな顔をしたぐち逸は、その淡く揺らぐ両手をレダーの頬に寄せる。

「この距離で熱を感じないのは辛いですね」

質量のない手が頬に当てられる。しかし目には見えるのに空気のような存在から、ないはずの温かさを感じ二人ともしばらく黙ってそうしていた。

ざらりとしたヒゲの感触も、薬の匂いのするしっとりとした手の感触も、ないはずなのにそこにあった。何度もそうした記憶が温かさを呼び起こしてやまない。

記憶とは便利なものだ。レダーは思う。だからその温度のない手が離れていくときに言い知れぬ寂しさがあった

「お前がもしまた気軽に記憶喪失してもさぁ、覚えているものなの？その、手続き記憶ってやつで」

「どうでしょう、人とのふれあいとなると失われやすいエピソード記憶のほうかも」

ぐち逸は言葉を探す。この泰然自若としているように見えてずっと繊細で、下手をすれば自分より子供っぽくすぐに拗ねる恋人にかける言葉を探す。

「でもあなたのことは忘れても、背中を支えてくれた人、いつも迎えてくれた人がいたこと、そしてきっとこの暖かさは残りますよ」

「え、俺のこと忘れちゃだめじゃん。それじゃ意味ないんだけど」

いいことを言ったつもりだったのに急にレダーから不機嫌な圧を感じてぐち逸はため息をついた。

この人は好きなものを懐に引き寄せて決して離さない。だが引き寄せるということは自分の身体もその対象と近づくということ。縛ったはずが腕の中からこぼれ落ちる喪失に怯え、全てに牙を向ける恋人の嫉妬心と、情緒を理解しない無神経さに苦笑が漏れる。

「じゃあ忘れさせないでくださいよ」

もう一度頬に手を寄せ、少し背伸びしてぐち逸はその熱も質量もない唇でキスをした。数秒の後、顔を離して笑う姿は淡い光を纏ってとても綺麗だった。

不意に体に質量が戻る。足が重力に引かれ、久しぶりに地に足がつく感触がした。0時を過ぎて魔法が解けたのだ。

頬に添えられていた手からは確かな温かなぬくもりがあった。レダーは手に手を重ね、腰を引き寄せてその唇にキスを落とす。触れなかった分だけの温度と愛情を落とす。

「忘れるなよ」

「忘れないですよ」

柔らかく微笑んで、ぐち逸はレダーの胸に頭を押し付けた。

ーーーーーーーー

書きながら聞いてた曲は鬼束ちひろの「流星群」

🟦🏺に比べるとだいぶ年齢が上なのでこの二人はそんなにどっかにすっ飛んでいかないし、しっとりした話しか出てこない。

🟦🏺の馴れ初め的な話はもう書いたですが、📡💊のもプロットまでできてるけど長すぎて書いてないので…自分の中では納得のいっている関係性なんですが、前段階がｽﾊﾟｰﾝとないから説明足りてないし、むしろこれは諸々の後日談だろうなとは思っています🤔

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