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それから1か月の間、私たちは普通の日々を過ごしていた。
その間、ポエールさんは先日の調査結果をもとに検討して、いろいろなことを詰めてくれていた。
新しい街を作るためには、まずは何より建物を建てなければいけない。
ひとまずは私たちが寝泊まりする建物と、私の錬金術のお店の建物が必要だ。
その場所を中心にして人を集めて、建物を増やして、そして街の形を目指していく。
それと同時に、しっかりと上下水道のようなものも完備しなくてはいけない。
ここら辺も錬金術みたいにバチッと終わらせられれば良いんだけど、さすがに私は専門外なわけで。
だからこそ大枠の要望は出すものの、基本的にはポエールさんにお任せしているという状態だった。
そんな背景もあって、ポエールさんは今、人材集めに奔走している。
ポエール商会の面々は実力者揃いではあるものの、さすがに国を作ることは想定していなかったため、足りない人材を王都から呼ぼうとしているのだ。
またそれと同時に、クレントスや周辺の街からも、様々なケースを想定して幅広い人材集めをしているようだった。
そのおかげもあって――
『神器の魔女が、何かをしようとしている』
――そんな噂が広まってしまった。
実際に大きなことをしようとはしているんだけど、自分たちの噂が立つというのはやっぱり何だかくすぐったいものだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「魔女め! その命を頂戴ぶげぁっ!!?」
私たちが街を歩いていると、久し振りに悪漢に襲われたものの、その直後にはルークが悪漢を吹き飛ばしていた。
噂が立つのとは逆に、こういうことは減っていたんだけど……未だに無くなることはない。
……まぁ、だからこそ私たちは国作りをするんだけどね。
「今回はルークに取られてしまったのう。さすがはアイナを護る騎士、といったところか♪」
「恐れ入ります。それでは早速、縛ってしまいましょう」
「私もお手伝いするのー!」
リリーも最近いろいろと遊びながら学び続け、紐の結び方もいくつか覚えていた。
以前は凄い感じのぐるぐる巻きにしていたものだけど、今ではしっかりと無駄なく、しかし可愛い感じの蝶々結びを入れてくるなど、無駄に凝るようになっている。
「……まったく、私たちの懸賞金も無くなってくれれば助かるんですけど……。
王様も亡くなったんですから、どうにかならないですかね」
「アイナさんとわたしたち、一気に倒すことができれば大金持ちですから。
それに今は、王都もずいぶん酷いことになっているそうなので……、しばらくは懸賞金もこのままなんでしょうね」
エミリアさんはそう言って、深くため息をついた。
クレントスでは最近、他の街から流入してくる人々が目に見えて増えている。
冷害からの凶作と、政争からの停滞する政治。
そんな中で、比較的に食事情が良く、王国からも一時的ではあるが独立しているクレントス――
……そんな街に人が集まるというのは当然のことかもしれない。
アイーシャさんが危惧していたことが、現実として起き始めている状態だ。
「妾の聞いた話によれば、周辺の村には盗賊やらが出ているらしいぞ?
まったく、手を取り合うべきだというのに、人間とは愚かしいものよ……」
「そう言うのも含めて、人間なんですけどね」
「はぁ……。アイナさんも悟ってきましたね……」
「何だか、そうですね……」
――ああ、私も無垢なままでいたかった。
この世界に来ていなければ、恐らくは元の世界で、仕事に文句を言うだけの無垢な人間でいられ続けたに違いない。
「これから秋が来てすぐに冬になるだろうが、妾も一応復活したことじゃし、アイナの栄養剤もある。
クレントス周辺に限って言えば、この冬はいくらでも乗り越えられるじゃろ」
「確かにグリゼルダ様が転生してから、寒さが少し|遠退《とおの》いてきましたよね」
エミリアさんが頷きながらそう言った。
徐々にではあるが、この辺りの気候は改善されてきている。
しかしグリゼルダの力はまだ最盛期には遠く及ばないため、大陸全土に加護を及ぼすことはまだまだ難しいらしい。
「この近辺であれば、栄養剤に頼り切らなくても農作物は作れるようになっていきますよね。
――さてと、それじゃそろそろお目当ての食堂に向かいますか」
「はい! お話をしていたらお野菜をたくさん食べたくなりました!
今日は野菜祭りにしましょう!」
「ふふっ、それは魅力的な提案じゃな。
しかしルークには、しっかり肉も食わせないといかんぞ?」
「そうですね、しっかりがっつり食べてもらいましょう。
それじゃリリーとルーク、そろそろ行こっか」
「はーい!」
「かしこまりました」
私とグリゼルダが話している間に、襲ってきた悪漢の髪の毛がずいぶんと酷いことになっていた。
リリーが最近覚えたばかりの髪結いで、何かの髪型を試そうとしていたらしい。
……ちょっと無惨だけど、これはこれで、ひとつの罰ということにしておこう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
20分ほど歩いてから今日の目的地――大きめの食堂に入ると、店員さんが素早く駆け寄ってきた。
私の噂が広がるにつれて、日に日に扱いがVIPな感じになっていくのが嬉しいような、うっとうしいような。
「アイナ様、いらっしゃいませ! 本日は当店をご利用ですか!?
是非、奥の部屋をお使いください!」
「ありがとうございます。個室だと本当に助かります」
「それは何よりです!
ささ、ご案内いたしますので、足元にお気を付けください! お怪我をされたら大変ですからね!」
……足元には特に段差などは無かったものの、店員さんは仰々しいまでの応対をしてくれた。
うーん、やっぱりこの応対はうっとうしいような……。
「――ふふ、主殿が大切に扱われると、妾も嬉しくなってしまうのう♪」
席に着くと、グリゼルダが開口一番でそんなことを言った。
「……あの。お屋敷の使用人は別として、私が主になっているのはルークだけなんですけど……」
「あはは、わたしはアイナさんの従者でも大丈夫ですよ!」
私の言葉を受けて、エミリアさんがにこやかに言った。
彼女とは主従関係を結んだとしても、今現在の関係から変わるイメージがまったく見えない。
「いやいや、私は基本的に主従関係なんて要りませんからね?
国を作っていくなら必要な場合もあるかもしれませんけど、少なくても今まで会った人たちは仲間のつもりですから!」
「私はママの娘なの!」
「そうだねー。リリーは特別だからねー」
「なの♪」
……まぁそれはそれとして、ルークとリリー以外は『仲間』のつもりだ。
いや、もうひとり例外はいたか。
「そもそもグリゼルダは、私より目上じゃないですか!?」
「なんと? 妾はアイナよりも若いぞ?」
「それ、肉体年齢だけですから!!
この世界での序列……って言うんですか? グリゼルダはそっちだと、神様の次に偉いんですよね?」
「まぁ、そうなんじゃけどな……。
しかし転生して以来、妾はアイナの仲間のつもりでおるぞ?
アイナから見て、妾は仲間か敵かで言ったらどっちじゃな?」
「そりゃもちろん、仲間に決まってますけど」
「じゃろう?
その仲間たちの中で、アイナは中心におる。つまりは妾の主殿というわけじゃな!」
「飛躍しましたけどっ!?」
「『主殿』の中には、微妙なニュアンスも含まれているんですよね。
わたしはグリゼルダ様の言わんとしていることは、何となく分かります」
「うむうむ、エミリアはさすがじゃのう。つまりはそう言うことじゃ」
「はぁ……」
グリゼルダとエミリアさんの心が通じ合っている横で、私はそれ以上の追及を諦めることにした。
100%分からないということも無いから、強くは言えないというか、完全に否定しきれないというか……。
「――……っと。
そう言えばまだ食事の注文をしていませんでしたね。
お店の人も待ってるでしょうし、さっさと決めちゃいましょう」
「そうじゃな、扉の向こうでずっと待っておるからのう」
「え!? それ、早く教えてくださいよ!」
「ふふっ。主殿にはどっしりと構えておいて欲しかったからな♪」
「いやいや、無駄に待たせるのは申し訳ないじゃないですか!
すいませーん、注文お願いしまーす!!」
「ちょっ!? 妾はまだ決まっておらんぞ!?」
「みんなは大丈夫ですよね!?」
「お子様ランチにするのー」
「わたしはAからC定食までと野菜サラダの3種類をお願いします!」
「私はBで」
「――お待たせいたしました! ご注文はお決まりですか?」
「まだじゃーっ!!」
焦るグリゼルダを置いておいて、他のみんなは無事に注文することができた。
それにしてもお茶目に怒ってくるあたり、グリゼルダも人間の世界で、普通に馴染んでくれているものだなぁ……。