テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
月夢餅さん!リクエストありがとうー!!!!
BL?です!
過激描写はなし!!
MnQn
パクリ×
ご本人様には関係ありません
現実とは少しキャラが異なります
嫌な方はブラウザバック推奨
Qnは、何も変わっていないように振る舞うのが上手かった。
配信を始めれば、いつも通り冷静で、的確で、少し毒のあるツッコミを入れる。
ゲームは上手くいくし、判断も早い。
チャットは流れ、数字も回る。
外から見れば、何一つ問題はなかった。
けれど、配信が終わるたび、
Qnの胸の奥には、言葉にできない疲労だけが溜まっていった。
原因は、はっきりしない。
アンチの言葉は、前からあった。
期待も、比較も、今に始まったことじゃない。
「慣れてる」
「気にしてない」
そう思っていたし、そう言い聞かせてきた。
でも、ある日を境に、
それらが“ただの音”じゃなくなった。
きっかけなんてない。
ただ、 心が耐えきれなくなっただけ。
些細な一言が、頭の中で何度も再生される。
画面を閉じても、イヤホンを外しても、消えない。
「上手いんだから当たり前」
「できて当然」
「ミスするな」
誰が言ったのか、もう分からない。
なのに、全部、自分の声みたいに聞こえた。
dzl社の通話に入っても、
Qnは少しずつ、発言を選ぶようになる。
余計なことを言ってないか。
空気を悪くしてないか。
自分がいなくても成立するんじゃないか。
考えすぎて、
結果、言葉が遅れる。
「Qn、どうしたの?」
Dzの声は優しい。
Bnは相変わらず気の抜けた調子で、
Orは元気に話し、
Mnは楽しそうに笑っている。
いつも通りの4人。
その輪の中で、
Qnだけが、ほんの少しだけズレている気がした。
気のせいだと、何度も思おうとした。
でも、その“ほんの少し”が、やけに重い。
ミスをした日、
Qnは必要以上に引きずった。
誰も責めていない。
むしろ「ドンマイ」で終わった。
それなのに、
自分の中だけで、終わらなかった。
「俺が判断ミスしなければ」
「俺が黙ってれば」
「俺がいなければ」
思考が、静かに内側へ向かっていく。
Qnは気づかないふりをしていた。
これは“落ちていく思考”だと。
家に帰ると、
スマホを伏せて置く時間が増えた。
通知を見るのが、少し怖い。
良い言葉でも、悪い言葉でも、
どちらも今の自分には重すぎた。
布団に入っても、眠れない。
頭の中で、今日の自分を反省する。
喋りすぎたか。
喋らなすぎたか。
あの一言、余計じゃなかったか。
気づけば、夜が明けている。
「……平気のはず、だから」
そう呟く声は、
誰にも聞かれないからこそ、やけに弱かった。
dzl社の活動は、Qnにとって大切な場所だった。
だからこそ、
“迷惑をかけているかもしれない”という考えが、
何よりも苦しかった。
支えたいはずの場所で、
自分が重荷になるくらいなら。
そう考え始めた時点で、
もう、かなり追い詰められていた。
Qnは少しずつ、
自分から距離を取るようになる。
通話に入るのが遅くなる。
発言は短くなる。
感情を乗せないようにする。
それは「冷静」ではなく、
「閉じている」状態だった。
ある夜、
dzl社の通話に入らず、
Qnは一人、暗い部屋で画面を見ていた。
メンバーの声が、遠く感じる。
楽しそうな笑い声が、
自分の知らない世界の音みたいに聞こえた。
「……俺、何してんだろ」
答えは出ない。
ただ、
このまま関われば関わるほど、
何かを壊してしまいそうな気がしていた。
だから、
少しだけ、閉じこもろう。
ほんの少し、休めば戻れる。
そう信じて、
Qnは自分で、扉を閉めた。
その選択が、
孤独を深める一歩だとも知らずに。
最初に声を荒げたのが誰だったのか、
後になってQnは思い出せなくなった。
ただ、
「戻れない一線を越えた」
その感覚だけが、はっきり残っていた。
________________________________
それは企画会議の通話だった。
いつもなら、
Bnが適当に話を振って、
Orが天然な案を出して、
Mnがふざけて、
Dzがまとめる。
その流れが、
この日は、妙に噛み合わなかった。
「で、次の企画なんだけどさ」
Dzが説明を始める。
Qnは黙って聞いていた。
聞いているつもりだった。
「今までと同じ感じでいくのが、一番安定かなって」
その言葉を聞いた瞬間、
胸の奥で、何かが弾けた。
変われていないから、アンチは増える。
変わらないと、心が耐えれない。
「……また、それ?」
通話に、ピリッとした音が走る。
「それって?」
Dzが聞き返す。
「“今まで通り”って言葉で、全部流すの」
Qnの声は、すでに冷静じゃなかった。
「変わらなきゃいけないって、分かってるでしょ」
「急にどうしたんだよ」
Bnが軽く笑いながら言う。
「急いで変わる必要はないよ」
その一言が、
Qnの中で、完全に火をつけた。
それは、俺の心が弱いから?
みんなは耐えれてるのに、俺が耐えれないのは、弱いから…?
「……それ、本気で言ってる?」
声が低くなる。
「“悪くない”で止まってるから、下がってるんでしょ」
「ちょ、Qn」
Dzが制止しようとする。
「言い方考えて」
「考えてるよ」
即答だった。
「ずっと考えてる」
「考えてるのは、俺だけ?」
通話が、静まり返る。
Orが小さく息を吸う音が聞こえた。
Mnは、さっきまでの笑いを消して、黙っている。
「Qn」
Dzの声は、いつもよりはっきりしていた。
「言いたいことがあるなら、もう少し落ち着いて」
「落ち着いてる」
Qnは、笑いもしなかった。
「落ち着いて、これ言ってる」
「……その言い方が、キツいって言ってるんだ」
「じゃあ、どう言えばいい?」
Qnの声が、わずかに震える。
「優しく言えば、聞いてもらえる?」
「今まで、そうしてきたけど」
「何か変わった?」
Bnが口を挟む。
「Qnさ、最近ピリピリしすぎだ
ちょっと落ち着いて…」
心配そうな口調。
でも、その心配加減が、今は致命的だった。
「……は?」
「そんな喧嘩腰で言われてもさ」
「喧嘩腰?」
Qnの呼吸が、少し早くなる。
「俺の言ったこと、おかしかった…?」
「そうは言ってねーけど」
「言ってるのと同じでしょ」
声が、はっきり荒れていた。
「俺が黙ってれば、空気良かった?」
「俺が意見出さなきゃ、楽だった?」
Dzが、少し強めに言う。
「Qn、今のは言い過ぎじゃ、」
その一言で、
Qnの中で、最後の糸が切れた。
「……ああ、そう」
乾いた笑いが漏れる。
「結局それ」
「こっちは、変わりたいだけで、
間違ったこと言ってないはずなのに
誰も、俺の話、聞く気ないじゃん」
「そんなことない」
Orが慌てて言う。
「ちゃんと聞いてるよ」
「じゃあ、なんで変わらない?」
QnはOrの言葉を遮った。
「聞いてる“ふり”でしょ」
Orが、言葉を失う。
「……ごめん」
小さな声だった。
その瞬間、
Qnの胸が、ぎゅっと締め付けられた。
でも、止まれなかった。
「もういい」
Qnは、吐き捨てるように言った。
「俺がいると、面倒なんでしょ」
Dzが落ち着かせるように言う。
「今気持ちが落ち着かないなら
一回、時間置いたら?」
その言葉は、
突き放すつもりじゃなかった。
でもQnには、
「いなくていい」と言われたように聞こえた。
「……分かった」
声が、急に静かになる。
「じゃあ、そうする」
「Qn?」
Dzが名前を呼ぶ。
でも、
Qnはそれ以上、何も言わなかった。
通話が、切れる音。
部屋が、異様に静かだった。
ヘッドセットを外しても、
さっきの言葉が、耳の奥に残っている。
「言い過ぎた」
「でも、間違ってない」
「それでも、やっぱり言い過ぎた」
考えが、ぐちゃぐちゃに絡まる。
椅子に座ったまま、
Qnは動けなくなった。
怒りよりも、
一番強かったのは、虚しさだった。
通話に残された側も、
誰一人、すぐには喋れなかった。
Dzは、深く息を吐く。
「……まずかったな」
Bnは、珍しく黙ったまま。
Orは、俯いている。
Mnだけが、
画面を見つめたまま、動かなかった。
「……あれ」
小さく、呟く。
「本気で、壊れそう」
でもその時点では、
誰も、追いかけなかった。
追いかけたら、
もっと悪くなる気がしたから。
その夜を境に、
Qnは、はっきりと孤立し始める。
通話には、来ない。
メッセージも、最低限。
「少し距離を置く」
それは、表向きの理由。
本当は
これ以上、傷つかないための、逃げだった。
通話を抜けた翌日、
Qnは一度も連絡を入れなかった。
「今日は休む」
「体調が悪い」
そういう一言すら、送らない。
スマホは机の上に伏せられたまま。
画面が光るたび、反射的に心臓が跳ねる。
何か言われる。
責められる。
正論を突きつけられる。
そう思ってしまって、
結局、確認できない。
Qnは布団にくるまり、
天井を見つめていた。
頭の中では、昨夜の通話が何度も再生される。
「言い過ぎだ」
「時間置いたら?」
「俺が悪者になれば丸く収まる」
自分の声と、メンバーの声が、
ぐちゃぐちゃに混ざる。
「……もう、いい」
呟いた声は、
自分でも驚くほど、空っぽだった。
dzl社の通話は、
Qn抜きで続いていた。
誰も「来い」とは言わない。
誰も「大丈夫か」とも言わない。
それは、優しさのつもりだった。
でもQnには、
「触れられていない」
それ自体が、答えのように感じられた。
「ほら、いなくても回ってる」
胸の奥が、じわじわ冷えていく。
Dz視点
Qnが来ない。
一日。
二日。
三日。
「少し距離を置く」
それを尊重するのが、リーダーとして正しいと思っていた。
けれど、
通話の空気は、どこか歪だった。
Orは、前より静か。
Bnは、妙に雑に笑う。
Mnは、ほとんど喋らない。
あの夜、止めきれなかった。
Dzは、自分の言葉を思い返す。
「言い方キツい」
正論だったかもしれない。
でも、あの時のQnは、
正論で立っていたわけじゃなかった。
「……僕、判断間違えた」
リーダーとしてじゃない。
一人の人間として。
Qn視点
外に出なくなった。
カーテンを閉め、
時間の感覚が曖昧になる。
配信も、見ない。
SNSも、開かない。
「俺が見なければ、何も起きない」
そう思い込もうとした。
でも、
夜になると、胸が苦しくなる。
誰かに話したい。
でも、話していい相手が、分からない。
「……助けて」
声に出そうとして、
喉で止まる。
そんな資格、ない気がした。
Mn視点
一番最初に、
「これはおかしい」と思ったのはMnだった。
Qnが、既読をつけない。
ふざけたスタンプにも、反応しない。
それでも、
「今はそっとしておくべきだ」
そう自分に言い聞かせていた。
でも。
ある夜、
過去の通話ログを見返して、
Mnは手を止める。
Qnの発言が、
少しずつ、削れていっている。
短くなって、
尖って、
最後は、諦めたみたいな声。
「……ああ」
胸の奥が、ひやっとした。
「これ、放ってたら……」
冗談じゃない。
いつも笑って誤魔化してきたMnでも、
それだけは分かった。
Qnは、自分から消えようとしている。
Mnは、初めて真剣な声で言った。
「なあ、これ以上放置したらヤバい」
通話の空気が、止まる。
「Qn、普通の休み方じゃない」
「俺、行くわ」
誰も、止めなかった。
Dz視点
Mnがそう言った瞬間、
Dzははっきり自覚した。
遅れた、と
守る立場だったのに。
まとめる役だったのに。
「距離を置く」なんて、
都合のいい言葉で、
一番苦しんでる人から、目を逸らした。
「……僕が行くべきだった」
そう言うと、Mnは首を振った。
「今は、俺が行く」
理由は聞かなかった。
聞かなくても、分かった。
Qn視点
ドアのチャイムが鳴った時、
Qnは心臓が止まりそうになった。
無視しようとした。
できたはずだった。
でも、
もう一度鳴ったチャイムに、
体が反応してしまう。
「……誰」
掠れた声。
返ってきたのは、
聞き慣れた、少し明るすぎる声。
「俺」
それだけで、
胸が痛くなった。
嬉しいのか、
怖いのか、
分からない。
ドアを開ける勇気は、
まだ、なかった。
でも。
ここまで来たら、
もう戻れないところまで来ている。
Qnは、
自分が壊れかけていることを、
ようやく認め始めていた。
足音が、外で止まっている。
帰る気配はない。
「……帰って」
掠れた声で言う。
「無理」
即答だった。
その短さが、妙に怖かった。
「今帰ったら、俺一生後悔する」
Qnは、奥歯を噛みしめる。
やっぱり、居留守をすればよかった。
「……俺、今、人に会える状態じゃない」
「知ってる」
「じゃあ」
「だから来た」
理屈が、通じない。
ドア越しに聞こえるMnの声は、
いつもより低くて、ふざけていなかった。
「開けて」
「嫌だ」
「Qn」
名前を呼ばれて、
胸の奥が、ずきっと痛む。
「……近寄らないで」
強く、来ないように棘をつけて。
しばらく沈黙があって、
鍵の外れる音がした。
Qnが止めるより早く、
ドアは静かに開いた。
部屋は、暗かった。
カーテンは閉まり、
空気が澱んでいる。
合鍵を使ってMnは、
一歩だけ中に入って、
Qnを見た。
言葉を失う。
頬はこけて、
目の下には影があって、
何より目が、合わない。
「……ひでぇ顔」
思ったまま、口に出てしまった。
「うるさい」
Qnは即座に刺す。
「見に来たなら満足したでしょ
帰って」
「無理」
二度目の即答。
「なに、俺のこと心配してるヒーロー気取り?」
Qnは、わざと強く言った。
「そういうの、いらないから」
「迷惑」
「俺がいない方が、dzl社も楽なんでしょ」
言葉が、止まらない。
止めたら、
今度こそ崩れそうだったから。
「俺が口出すと空気悪くなるし」
「正論言うと嫌われるし」
「だったら最初から――」
「やめろ」
Mnの声が、初めて被さった。
「それ以上、自分殴るな」
Qnは、鼻で笑う。
「なにそれ」
「綺麗事言いに来たの?」
「帰って」
「今すぐ」
突き放すための言葉。
傷つけるための言葉。
それでもMnは、動かなかった。
「……ほんと、トゲトゲだな」
そう言って、
急に、ニヤッと笑った。
その表情に、Qnは一瞬、戸惑う。
「……なに」
「よし」
Mnは、わざと軽い声を出した。
「じゃあ、イタズラしていいってことな」
「は?」
次の瞬間、
Mnが距離を詰めた。
「ちょ、待―っ」
Qnの言葉が終わる前に、
脇腹に、くすぐったい感覚が走る。
「……っ、ふ、はっ…や、やめ……!」
反射的に体が跳ねる。
「やっぱ効くじゃん」
「最年少、弱点そのまま」
「っ、やめろって……!」
声が、思わず上ずる。
必死に押し返そうとするが、
力が入らない。
笑いたくないのに、
喉が、勝手に震える。
「……っ、ふ、……!」
小さな笑いが、零れた。
その瞬間。
Qnの目から、
何かが溢れた。
「……っ、やめ……」
声が、急に弱くなる。
「……もう、やだ」
Mnは、手を止めた。
笑いかけていた表情が、
すっと消える。
Qnは、その場に崩れ落ちた。
肩が、小刻みに震える。
「……俺、頑張ってた」
ぽつりと、零れる。
「ちゃんとやってたつもりだった」
「空気読んで」
「言い方考えて」
「それでも、ダメで……」
声が、次第に大きくなる。
「考えれば考えるほど空振って」
「俺が悪いみたいで!」
「でも、どうすればよかったのか分かんなくて!!」
感情が、初めて、外に溢れた。
怒りも、悲しみも、
全部、ぐちゃぐちゃになって。
「消えた方がいいって思ってたのに!」
「それすら、怖くて!」
「助けてほしかったのに!!」
言い切った瞬間、
Qnは、嗚咽を漏らした。
壊れている自分を、
隠せなくなった。
Mnは、何も言わなかった。
ただ、
そっと隣に座る。
触れない。
抱きしめない。
逃げ場を、奪わない。
「……ごめん」
しばらくして、
Mnが小さく言った。
「気づくの、遅れた」
「でも」
少しだけ、声が震える。
「俺は、お前がいないdzl社とか、考えたことない」
Qnは、顔を覆ったまま、
声を殺して泣いた。
いたずらから始まった接触は、
一番深いところを、無防備に開いてしまった。
「……どうせさ」
Qnは、俯いたまま、ぽつぽつ言葉を落とす。
「俺いなくても回るし」
「代わりなんて、いくらでもいるし」
「俺がいなくなった方が」
「はいはい、そこまで」
Mnが、被せる。
「ストップ」
「……なに」
Qnは顔を上げない。
「さっきから聞いてるとさ」
Mnはため息をついて、
わざと少しだけ軽い口調になる。
「ネガティブのサブスク入ってる?」
「解約しよ?」
「…え?ふざけてる場合じゃ……」
言い切る前に、
Mnの手が伸びた。
「っ……!?」
脇腹に、またあの感覚。
「ちょ、や……!」
「はい、再発」
「効くって知ってるからな」
「やめ……っ、今は……!」
抵抗する声が、
さっきよりも弱い。
笑うつもりなんて、なかった。
でも、体が先に反応してしまう。
「……っ、ふ……!」
喉が震える。
「やっぱさ」
Mnは、くすぐりながら言う。
「お前、考えすぎなんだよ」
「や、……っ、考えないと……!」
「考えすぎて、自分殴るのはダメ」
くすぐりは、さっきより少しだけ強い。
「……っ、ま、待って……!」
Qnは必死に体を捩って、
逃げようとして
その拍子に、
顔が近づきすぎた。
一瞬。
本当に、一瞬。
だけど、一分にも感じられるそんな時間。
ふにっ、と唇に柔らかい感触が触れる。
静止。
時間が、止まった。
Qnは、目を見開いたまま固まる。
Mnの瞳が目の前にある。
「…………」
今の状況の理解が追いつかない。
これは——
「………………」
キス、だ。
Mnも、完全に動きを止めた。
「……あ」
Mnが、遅れて声を出す。
「ご、ごめん」
「今のは……ほんと事故」
Qnは、何も言えなかった。
顔が、急激に熱くなる。
耳まで、赤い。
「……っ」
思わず、後ろに仰け反る。
「な、なに……」
声が、裏返る。
「なにして……」
「だから事故だって!」
Mnは慌てて両手を上げる。
「くすぐってたら、変な角度で……」
言い訳が、やたら必死だ。
Qnは、顔を覆った。
「……見ないで」
「見てない」
「見てるだろ」
「見てないって!」
「……最悪……」
声が小さくなる。
「なんで、今……」
Mnは、しばらく黙ってから、
ぽつりと零した。
「……だってさ」
「お前が、あんまりにも」
「消えたいみたいなこと言うから」
さっきまでのふざけた空気はない。
「無理だった」
Qnは、指の隙間から、
ちらっとMnを見る。
Mnは、
いつもの余裕の笑顔じゃなくて、
少し困った顔をしていた。
「……照れてる?」
「うるさい」
即答。
「照れてない」
「真っ赤だけど」
「うるさい!!」
声を荒げた瞬間、
Mnが、少しだけ笑った。
でも、すぐに真面目になる。
「……なあ」
「俺、さ」
「お前がそんな顔するまで、
追い込まれてるってちゃんと分かってなかった」
Qnは、何も返せない。
胸が、まだドクドクしている。
「だから」
Mnは、視線を逸らして言う。
「しばらく、逃がさない」
「……は?」
「ネガティブ言い始めたら
また、くすぐる」
「最悪」
「効くでしょ」
「……卑怯」
その言葉に、
Mnは少しだけ、安心したように息を吐いた。
トゲは、まだある。
でも、完全には突き放されていない。
その事実だけで、
今夜は十分だった。
Mn視点
沈黙は、思っていたより重かった。
さっきまで泣いて、笑って、照れて。
感情が全部出切ったあとに残る、
妙に落ち着かない静けさ。
Qnはベッドの端に座って、
指先でシーツをいじっている。
俺は壁際に立ったまま、
「帰るべきか」の判断を、まだ保留にしていた。
正直、帰る理由は山ほどある。
でも帰ったら後悔する予感も、同じくらい強かった。
「……今日」
Qnが、ぽつりと口を開く。
「泊まっていって」
一瞬、言葉の意味を理解するのが遅れた。
「……は?」
間抜けな声が出る。
「無理ならいい」
Qnは目を合わせない。
「でも、今一人になるの、ちょっと……きつい」
その言い方が、
“甘え”じゃないのが分かってしまった。
「……分かった」
考える前に、口が動いていた。
同じベッドに横になる、
という事実を、俺は軽く見積もっていた。
失敗だった。
距離が、近い。
近すぎる。
Qnは壁側、俺は外側。
触れないように、気をつけていたはずなのに。
「……狭いな」
つい言葉を溢す。
Qnが、小さく言う。
「嫌なら、床で寝る?」
「それはそれで意味わかんないだろ」
つい、いつもの調子で返してしまう。
沈黙。
気まずい。
でも、逃げ場はない。
Qnが、寝返りを打ち、向かい合う形になる。
その拍子に、袖が腕に触れた。
細い。
思っていたより、ずっと。
「……寒い?」
俺が聞くと、
Qnは少し考えてから、首を横に振る。
「……違う」
「じゃあ?」
「……近い方が、落ち着く」
心臓が、一段うるさくなった。
「……それ言うの、ずるくない?」
「言わせたのMnだし」
小さく返す声が、
妙に素直で、困る。
少し迷ってから、
俺は、そっと腕を伸ばした。
抱きしめる、というより、
包む、に近い。
力は入れてない。
逃げようと思えば、すぐ逃げられる距離。
Qnは、一瞬だけ体をこわばらせて、
すぐに、力を抜いた。
俺の胸元に、額が触れる。
——匂いがする。
石鹸と、
少しだけ、Qn自身の匂い。
「……」
Qnの呼吸が、少しずつ整っていくのが分かる。
「……Mn」
眠りに落ちる直前の、曖昧な声。
「なに」
「……今日、ありがと」
それだけ言って、
Qnは、完全に力を抜いた。
穏やかな寝息。
俺の腕の中で。
その姿は、とてもか弱くて
「……かわいい」
完全に無意識だった。
言った瞬間、
自分で自分に驚く。
やばい。
思ったより、深く来てる。
この距離で、
この弱さを見せられて。
正直に言えば。
「……無茶苦茶にしてぇ」
そんな考えが、
一瞬、頭をよぎった。
触れて、確かめて、
自分だけのものだって、錯覚したくなる。
最低だ。
俺は、目を閉じて、深く息を吸った。
違う。
今じゃない。
今それをやったら、
Qnを守る側じゃなくなる。
ゆっくり、
ほんの数センチだけ、距離を取る。
それでも、腕は離さない。
「……これ以上近づいたら」
心の中で、静かに思う。
「俺、好きになる」
もう、なりかけてる自覚があるからこそ、
怖かった。
だから、この夜は、
ここまで。
Qnの寝息を聞きながら、
俺は、朝が来るのを待った。
少し離れなきゃいけない理由が、
はっきりしてしまった夜だった。
朝の光は、思っていたより優しかった。
カーテンの隙間から差し込む光が、
部屋の空気を少しだけ現実に引き戻す。
俺は、先に目を覚ました。
腕の中には、まだ眠っているQn。
呼吸は穏やかで、昨夜よりずっと安定している。
……ちゃんと寝れたみたいだ。
それだけで、胸の奥が少し軽くなる。
でも同時に、
昨夜の距離を思い出して、
意識が一気に現実に戻る。
近すぎた。
俺は、そっと腕を外して、
Qnを起こさないように体を離した。
その数分後。
「……おはよ」
背中越しに、掠れた声。
振り返ると、
Qnが目を擦りながら起き上がっていた。
「おはよう」
いつも通りの声を、意識して作る。
少し、距離がある。
でも、冷たくはない。
その微妙な温度差を、
Qnも感じ取ったらしく、
一瞬だけ表情が揺れた。
「……帰る?」
不安が、ほんの少し滲む。
「いや」
俺は即答した。
「今日は、一緒に行く」
「……どこに」
分かっているくせに、
分からないふりをする声。
「事務所」
Qnは、少し黙ってから、
小さく息を吸った。
「……怒られる?」
「多分」
正直に言う。
「でも」
少しだけ、言葉を選ぶ。
「ちゃんと話せば、大丈夫」
Qnは、しばらく床を見つめて、
それから、ほんの小さく頷いた。
「……うん」
その素直さが、
昨日までと全然違って見えた。
事務所までの道。
並んで歩いているのに、
肩は触れない距離。
近づきすぎないように、
でも、置いていかないように。
信号待ちの間、
Qnがぽつりと呟く。
「……逃げてた」
否定しない。
「でも、戻ってきた」
それでいい。
事務所のドアを開けた瞬間、
中の空気が、わずかに張りつめた。
Dzが、最初に気づく。
「……Qn」
声が、少しだけ驚いている。
Bnは椅子にもたれたまま、
こっちを見て目を見開く。
Orは、はっとした顔で立ち上がり、
…俺は、一歩後ろに下がった。
ここからは、Qnの番だ。
Qnは、一度だけ深く息を吸って、
全員を見回した。
「……ごめん」
最初の言葉は、それだった。
「俺、勝手に追い詰められて」
「勝手に背負って」
「勝手に、いなくなろうとした」
視線を落としながら、
言葉を探すように続ける。
「誰も悪くなかった」
「なのに、全部、ぶつけた」
沈黙。
誰も、すぐには口を挟まない。
「……正直」
Qnの声が、少し震える。
「期待とか、言葉とか」
「全部、平気なふりしてたけど」
「全然、平気じゃなかった」
「でも」
顔を上げる。
「言えなかった」
「言ったら、迷惑だと思ってた」
Orが、先に声を出した。
「……迷惑じゃない」
少し、泣きそうな声。
「Qnが何抱えてたか、わかってなかった」
「Qnに言われた言葉、ちょっと引っ張ったりしたけど」
「でも」
拳を握る。
「一番つらかったの、Qnだよね」
Bnが、頭を掻く。
「……俺の言い方も悪かったな」
「軽く言ったつもりだった」
「ちゃんと見てなかった」
Dzは、しばらく黙ってから、
ゆっくり口を開いた。
「リーダーとして」
「一番、気づくべきだった」
視線が、Qnをまっすぐ捉える。
「守れなくて、ごめん」
その一言で、
Qnの肩が、わずかに震えた。
「……俺」
声が詰まる。
「dzl社、好きで」
「みんなと、やりたくて」
「それなのに」
言葉が続かない。
Bnが、軽く笑う。
「戻ってきたなら、それでいいだろ」
「背負いがちなのは、今さらだしな」
Orも、笑う。
「また、5人でやろうよ」
Dzが、頷く。
「Qn」
「無理な時は、無理って言え」
「一人で背負うな」
Qnは、何度も頷いた。
「……うん」
「ありがとう」
その声は、
昨日までのトゲを、ほとんど失っていた。
俺は、その様子を、少し離れた場所から見ていた。
ちゃんと、戻れた。
戻す場所は、ここだった。
Qnが、俺の方を見る。
目が合って、
小さく、照れたように笑った。
―大丈夫だ。
少なくとも、
今は。
俺は、もう一歩だけ、距離を取る。
好きになる前に。
いや、もうなってるからこそ。
それでも、
Qnがこの場所で笑えるなら。
それで、いい。
Qn視点
仲直りしたはずだった。
事務所の空気は元に戻って、
通話も、配信も、笑い声も、ちゃんとある。
なのに。
Mnだけが、少し遠かった。
最初は気のせいだと思った。
昨日までが近すぎただけで、
これが普通の距離なんだ、と。
でも、違った。
以前なら、隣に来ていた場面で、
Mnは一歩、後ろにいる。
目が合いそうになると、
わざと視線を逸らされる。
冗談を振っても、
軽く返して、深追いしない。
「……あれ?」
胸の奥に、小さな違和感が残る。
通話中。
Mnは、いつも通り明るい。
みんなを笑わせて、場を回している。
俺以外に。
俺が話すと、
相槌は打つ。
でも、被せてこない。
以前なら、
からかってきたところで、
綺麗に距離を取られる。
「……」
気にするな。
そう言い聞かせる。
Mnは、俺を気遣ってるだけだ。
距離を置いてくれてるだけ。
分かってる。
分かってる、はずなのに。
胸が、ちくっと痛む。
気づけば、
俺は無意識にMnを探していた。
通話の画面。
事務所の中。
移動中の背中。
視界の端に、
必ずMnが入ってくる。
入ってこないと、
それはそれで、落ち着かない。
「……なんで俺、見てんだ」
自分で自分にツッコミを入れる。
ただの癖だ。
そういうことにしておく。
ある日、
事務所で作業をしていた時。
椅子を引く音がして、
反射的に顔を上げた。
Mnだった。
一瞬、視線が合う。
すぐ、逸らされる。
「……」
何も言われないまま、
少し離れた席に座るMn。
胸の奥が、
じわっと冷える。
俺、何かした?
昨日?
今朝?
それとも、あの夜?
考え始めて、
嫌な思考に繋がりそうになって、
慌てて止める。
「考えすぎ」
そう言い聞かせる。
でも。
帰り道。
BnとOrが前を歩いて、
俺とMnは、自然と後ろになる。
以前なら、
Mnが何かふざけて話しかけてきた。
今日は、来ない。
沈黙が、妙に長い。
「……」
何か言おうとして、
言葉が出てこない。
Mnが、先に口を開く。
「じゃ、俺こっちだから」
それだけ。
軽く手を振って、
さっさと歩いていく。
「……あ、うん」
返事が、少し遅れた。
背中を見送りながら、
胸の奥が、きゅっと縮む。
置いていかれた、みたいだ。
そんなはず、ないのに。
夜。
ベッドに横になっても、
目が冴えて眠れない。
思い出すのは、
Mnの声、距離、視線。
あの夜の、
腕の温度。
匂い。
「……」
顔が、少し熱くなる。
「違う」
すぐに否定する。
あれは、弱ってた俺に対する、
気遣いだ。
深い意味なんて、ない。
……ない、はずだ。
でも、
もしそうなら。
なんで今、
こんなに距離を取られてる?
なんで俺は、
それがこんなに、引っかかる?
答えは出ない。
出ないまま、
胸の奥に、
小さな傷みだけが残る。
それはまだ、
恋と呼ぶには、あまりに曖昧で。
でも確実に、
俺の中で、何かが始まっている感覚だった。
二人きりになるのは、偶然だった。
事務所での作業が一段落して、
BnとOrが先に帰り、
Dzは電話を取りに別室へ行った。
残ったのは、俺とMn。
一瞬、空気が止まる。
気まずい沈黙。
最近、慣れてしまったはずの距離。
……でも。
今は、無理だった。
「……Mn」
呼んだ声は、思ったより小さかった。
Mnが、少しだけ驚いたように振り向く。
「なに」
いつも通りの声。
それが、逆に苦しい。
「最近さ」
言葉を選ぶ。
選びすぎて、喉が詰まる。
「……なんか、距離ある気がして」
Mnの表情が、一瞬だけ固まった。
「気のせいじゃない?」
即答。
でも、目が合わない。
「……そう?」
笑おうとして、失敗する。
「俺が、変に気にしてるだけならいいんだけど」
「……」
沈黙。
それだけで、胸が苦しくなる。
「……なあ」
声が震え始める。
「俺、何かした?」
「……してない」
少し、間があった。
その“間”で、
何かを隠してるのが分かってしまった。
「じゃあ」
堪えていたものが、
一気に溢れた。
「なんで避けるの?」
声が、裏返る。
「俺のこと、見るのも嫌?」
「話すのも、面倒?」
「……なんで」
気づいた時には、
視界が滲んでいた。
「なんで、あの夜のあとから……」
言葉が、続かない。
涙が、止まらない。
「……俺、戻ってきたのに」
「ちゃんと話したのに」
「それでも、距離取られるの、きつい……!」
肩が震える。
声が、壊れる。
「……置いてかないでよ」
Mnが、完全に固まった。
「Qn……」
名前を呼ぶ声が、焦っている。
「違う」
「避けてるわけじゃ―っ」
「じゃあ、なに!」
涙越しに、睨む。
「理由、教えてよ……」
その場で、これ以上は無理だった。
この部屋の外にはスタッフがいる。
このまま崩れるのは、最悪だ。
Mnは、一瞬だけ迷ってから、
俺の腕を掴んだ。
「……来い」
強くはない。
でも、逃げられない力。
「帰る」
「……どこ」
「俺んち」
外の空気は、冷たかった。
俺は、ほとんど引きずられるみたいに歩いた。
途中で、
Mnが何度も様子を窺う。
でも、何も言わない。
言えない。
涙は、歩いている間も止まらなかった。
家に着いて、
ドアが閉まった瞬間。
張り詰めていたものが、
完全に切れた。
「……っ」
声にならない嗚咽。
Mnは、俺をソファに座らせて、
少し距離を取る。
逃げない。
でも、触れない。
「……ごめん」
最初に出たのは、その言葉だった。
「泣かせるつもり、なかった」
「……じゃあ、なんで」
俺は顔を覆ったまま言う。
「理由、言ってよ……」
しばらく、沈黙。
長い沈黙。
やっと、Mnが息を吸う音。
「……俺さ」
声が、低い。
「お前のこと、守るつもりだった」
「守る?」
「距離、置けば」
「これ以上、踏み込まなければ」
言葉が、途切れる。
「……好きになる前に、止められると思った」
その一言で、
頭が真っ白になった。
「……へ?」
顔を上げる。
Mnは、視線を逸らしたまま続ける。
「もう、遅かったけどな」
乾いた笑い。
「抱きしめた夜から」
「お前が、俺の匂いで眠った時から」
「可愛いって、口に出した瞬間から」
「……完全に、アウトだった」
胸が、どくん、と鳴る。
「だから」
Mnは、拳を握る。
「距離取った」
「お前が弱ってる時に」
「これ以上、好きになったら」
「俺、守れなくなると思った」
「……無茶苦茶にしたいって思った」
正直すぎる言葉に、
息が詰まる。
「そんな自分、最低だろ」
自嘲気味に笑う。
「だから、逃げた」
「避けた」
「傷つけるって、分かってたのに」
俺は、何も言えなかった。
頭の中で、
Mnの言葉が反響する。
好き。
距離。
守る。
逃げた。
全部、繋がって、
やっと理解できた。
「……Mn」
声が、まだ震える。
「俺」
少し、間を置いてから言う。
「避けられる方が、もっとつらかった」
Mnが、はっとこちらを見る。
「だって」
「ずっと、視界に入ってくるし」
「Mnのこと、考える時間増えたのに」
「いなくなられるの、嫌だった」
涙が、また溢れる。
今まではっきりしなかった胸のざわめき。
これは
「俺だって、Mnのこと」
“両想い”だって。
「好き、なのに」
Mnは、深く息を吐いて、
ゆっくり近づいてくる。
「……ごめん」
今度は、さっきより静かな声。
「逃げ方、間違えた」
俺は、何も返せず、
ただ、そこに座っていた。
夜は、まだ長い。
でも、この夜で、
すれ違いは、やっと言葉になった。
心臓の音が、やけに大きい。
「……」
Mnは少しだけ、姿勢を正す。
さっきまでの勢いが、嘘みたいに消えている。
「……なあ」
声が、珍しく真面目だった。
俺が顔を上げると、
Mnは一度、視線を逸らしてから、
意を決したようにこっちを見る。
「改めて、言わせて」
胸が、きゅっと鳴る。
「俺」
一瞬、言葉に詰まって、
それでも逃げずに続ける。
「Qnのことが、好きです」
「……っ」
「守りたいし」
「一緒にいたいし」
「曖昧なまま、触れたくない」
少しだけ、耳が赤い。
「……付き合ってください」
静かな部屋に、
その言葉が落ちた。
一拍。
二拍。
頭が、真っ白になる。
「……っ」
顔が、一気に熱くなるのが分かる。
Mnが、不安そうにこちらを見る。
その表情が、
やけに可愛く見えてしまって。
「はい…っ、俺も」
「…好き」
小さく、でもはっきり言った。
言い切った瞬間、
耳まで真っ赤になる。
「……っ」
顔を覆いたくなる。
Mnは、数秒固まったあと。
「……っ、まじで?」
声が裏返る。
「今、はいって言った?」
「……言った」
目を逸らしたまま、
小さく答える。
「……さっきだって、言ってたし」
次の瞬間。
「……っ!」
Mnが、また距離を詰めてくる。
さっきより、近い。
近すぎる。
「ち、ちょ―」
「彼氏になったから」
言い訳みたいに言う。
「これくらい、いいだろ」
「よくない……!」
顔が熱い。
近い。
近い。
呼吸が、ぶつかる。
「……顔、赤」
Mnが、笑いを堪えてる。
「そっちもだろ……!」
「……否定できねえ」
新しい距離感にドキドキする。
距離の取り方が、分からない。
少し離れると、
寂しい。
近づくと、
照れすぎて無理。
「……付き合うって」
俺が小さく言う。
「こんな、急に距離縮まるもの?」
「知らねえよ」
Mnが、困ったように笑う。
「初めてだし」
「……俺も」
一瞬、沈黙。
それが、嫌じゃない。
「……なあ」
Mnが、少しだけ声を落とす。
「手、繋いでいい?」
心臓が、跳ねる。
「……聞かないで、いい」
そう言いながら、
そっと手を差し出す。
指先が、触れる。
絡める瞬間、
二人同時に息を止めた。
「……っ」
「……っ」
また、気恥ずかしさを感じる。
「……慣れるまで」
俺が言う。
「時間、かかりそう」
Mnが、柔らかく笑う。
「それでいい」
「ゆっくりで」
繋いだ手が、温かい。
さっきまでの不安も、
すれ違いも、
全部、遠くなった。
今はただ。
付き合った、という事実と。
近すぎる距離に、
どうしていいか分からない二人がいるだけだった。
付き合った翌日。
正直、ほとんど眠れなかった。
目を閉じるたび、
昨日の言葉と距離と温度が蘇る。
「……」
起き上がって、深呼吸。
冷静になれ。
いつも通りだ。
そう思ってた。
事務所のドアを開けるまでは。
「おはよー」
先に来ていたMnが、振り返る。
たったそれだけ。
なのに。
「……っ」
視線が合った瞬間、
昨日の全部がフラッシュバックする。
近い。
近い気がする。
距離は同じなのに、
意味が違いすぎる。
「……お、おはよう」
声が若干裏返る。
Mnも、一瞬だけ固まった。
「あ、ああ」
目を逸らす。
二人して、不自然になる。
「……?」
既にBnが怪訝そうな顔をしている。
「なんだお前ら、今日」
Orも首を傾げる。
「妙に静かじゃない?」
「気のせい」
俺とMn、ほぼ同時。
被った。
「……」
空気が、気まずい。
作業中。
椅子に座る位置。
以前なら、
Mnは自然に隣に来ていた。
今日は。
一席、空ける。
……のに。
肘が、当たる。
「……っ」
一瞬触れただけで、
心臓が跳ねる。
Mnも、ビクッとする。
「あ、わり……」
「い、いや……」
声、小さい。
Bnが、完全に不審そうな顔をする。
「……お前ら、なんか隠してない?」
「隠してない」
即答する。
「即答すぎw」
Dzが、にやっと笑う。
「昨日、二人で帰ってなかった?」
「……」
沈黙。
「……あ」
Orが、ゆっくり笑う。
「なるほどね〜」
「な、なにが……」
「距離感、完全に…ね?」
Mnが、俺を見る。
俺は、見ない。
見たら恥ずかしさで爆発する。
休憩時間の自販機前。
偶然、二人きりになる。
「……」
沈黙が重い。
昨日までなら、
Mnが何か言ってた。
でも今は。
「……なあ」
Mnが、小声で言う。
「昨日のこと」
「言わない」
即座に遮る。
「事務所では……」
「分かってる」
Mnも、声を落とす。
「我慢してる」
「……俺も、だし」
言った瞬間、
顔が熱くなる。
「……顔赤」
「言うな」
「可愛い」
「言うなって!」
自販機の音が、やけに大きい。
数日経っても、
慣れる気配はなかった。
むしろ、悪化してる。
Mnは、我慢してる。
分かる。
でも、ふとした瞬間に漏れる。
肩が触れた時、
一瞬だけ腰に添えられる手。
物を渡す時、
指が絡みそうになる距離。
「……」
意識しない方が無理だ。
「Qn」
突然、呼ばれる。
「なに」
「顔、疲れてる」
そう言って、
無意識に額に手を伸ばしてくる。
「……っ!」
反射的に後ずさる。
Mnも、はっとして手を引く。
「……ごめん」
小さな声。
「……癖で」
「……ここ事務所」
「……努力する」
その目は我慢しているのが伝わった。
決定的だったのは、配信後。
片付けで、
俺が少し遅れた。
事務所の奥。
「……Qn」
Mnが、周りを確認してから、近づいてくる。
「ちょっとだけ」
「ここ、事務所……」
「一瞬」
声が低い。
次の瞬間、
手首を掴まれた。
引き寄せられて、
距離がゼロになる。
「……っ!」
「無理」
囁く声。
「我慢、限界」
「……Mn……」
その時。
「はい、完全にアウト」
Bnの声。
「やっぱりか」
Dzが笑う。
「分かりやすすぎ」
Orが、にこにこ。
「おめでとう?」
「……」
真っ赤になるのがわかる。
Mnは固まっている。
「……えっと」
Mnが、観念したように言う。
「……付き合ってます」
一拍。
「知ってた」
Bnは即答。
「距離感で分かる」
「Qn、視線わかりやすすぎ」
Orは追撃。
「Mn、は触りたがりすぎだしね〜」
Dzは爆笑。
「なるほどねぇ」
「……すみません」
俺が小さく言う。
「別に謝ることじゃない」
Bnが肩をすくめる。
「仲良いのは、悪くない」
Orが、にやっとする。
「でも、仕事中は控えめにね?」
Mnが、俺を見る。
「……努力します」
帰り道。
並んで歩く。
手は、繋がない。
でも、距離は近い。
「……なあ」
Mnが言う。
「俺ら、バレるの早すぎじゃね」
「Mnが悪い」
即答する。
「触ろうとするから」
「彼氏だし?」
「言い訳」
笑い合う。
少しずつ、
距離の取り方を覚えていく。
でも。
完全には、慣れない。
それが、嫌じゃない。
「……好きだよ」
小さく言われる。
「……知ってる」
顔、また赤くなる。
その日の夜、Mnの部屋に来ていた。
Mnの部屋は、静かだった。
ドアが閉まった瞬間、
外の世界と切り離されたみたいに音が消える。
「……どうぞ」
そう言われて入った部屋は、
前と同じでMnらしくて、少し散らかっていて、でも落ち着く。
ベッドの端に腰を下ろした瞬間、
ふわっと匂いがした。
洗剤と、Mnそのものが混ざったような匂い。
「……」
Qnは、無意識に息を吸ってしまう。
「……匂い、する?」
Mnが気まずそうに聞く。
「……する」
正直に答えると、
Mnが一瞬だけ固まってから、小さく笑った。
「……嫌じゃないなら、いいや」
その距離が、近い。
「……なあ」
Mnが、少しだけ真面目な声になる。
「触れていい?」
ちゃんと、聞いてくる。
Qnは一瞬だけ迷って、
小さく頷いた。
「……うん」
次の瞬間。
唇に、柔らかい感触。
深くない。
触れるだけ。
確かめるみたいな、キス。
「……」
離れる。
すぐ、また触れる。
額に。
頬に。
唇の端に。
一つ一つが、軽くて、優しい。
急がない。
奪わない。
「……大丈夫?」
合間に、ちゃんと聞く。
Qnは、顔を赤くしたまま、
でも逃げない。
「……大丈夫」
声が小さい。
それを聞いて、
Mnはまた、そっとキスを落とす。
その度に、
胸の奥が温かくなる。
怖くない。
不安もない。
ただ、
「一緒にいる」という実感だけが積もっていく。
「……幸せ?」
ふいに聞かれる。
Qnは、一瞬驚いてから、
小さく笑う。
「……うん」
ベッドの匂いに包まれて、
Mnの存在が近くて。
「……今、すごく」
その言葉に、
Mnは安心したように息を吐く。
「よかった」
それ以上、何もしない。
ただ、近くにいて、
同じ空気を吸う。
それだけで、
十分だった。
これで完結、?になります!!
本当にリクエストありがとうー!!
リクエストのくすぐり描写、少なくなってごめん!
健全な交際、って感じのはず…です!!
書くとしてもディープキスまでかなーとか思ってたけど触れるだけのキスまでになっちゃった。
ここからディープキスの場面だけ書こうかな
嫌な人は飛ばしちゃってください!
Mn視点
ベッドに座ったQnは、
少し緊張しているのが分かった。
肩が強張ってて、
でも逃げない。
……それだけで、胸がいっぱいになる。
「……触れていい?」
聞く声が、思ったより真剣になった。
頷くのを見て、
やっと息ができた気がした。
唇に触れた瞬間。
軽い。
本当に、触れただけ。
それなのに。
ちゃんと、俺の恋人なんだ。
その実感が、遅れて胸に落ちてくる。
一度離れて、
反応を確かめる。
目が合う。
赤い。
でも、嫌そうじゃない。
「……大丈夫?」
聞くと、小さく頷く。
それが嬉しくて。
また、そっとキスを落とす。
今度は、ほんの少し長く。
深くしない。
欲張らない。
額に。
頬に。
唇の端に。
場所を変えるたびに、
Qnが小さく息を吸うのが分かる。
その反応ひとつひとつが、
全部、大事で。
「……」
可愛い、って言いそうになるのを、
必死で飲み込む。
今は、言葉より、
この距離を守りたい。
ベッドの匂いに包まれて、
Qnが少しずつ力を抜いていく。
肩が下がって、
呼吸が揃ってくる。
ああ、って思う。
怖がらせてない。
急がせてない。
ちゃんと、一緒にいられてる。
また、軽くキスを落とす。
回数は多いのに、
どれも浅い。
それでいい。
「……幸せ?」
思わず、聞いてしまった。
答えを聞くのが、
少し怖かった。
でも。
「……うん、今すごく」
その一言で、
胸の奥がじんわり熱くなる。
キスを落とすたびに、
Qnの反応が、少しずつ変わっていく。
呼吸が浅くなって、
唇がわずかに開いて、
視線が、どこか絡まるようになる。
……それが、だめだった。
「……」
一度、唇を離す。
でも、距離は取れない。
近すぎて、
息が混じる。
Qnの匂いが、
余計に思考を鈍らせる。
恋人だから。
成人だから。
同意もある。
分かってる。
分かってるのに。
「……Qn」
名前を呼ぶ声が、
さっきより低くなっているのが自分でも分かる。
視線が合う。
逃げない。
むしろ、
少しだけ近づいてくる。
それだけで、
胸の奥が一気に熱くなる。
「……いい?」
何が、とは言わない。
でも、意味は通じている。
Qnは、一瞬だけ息を吸って、
小さく頷いた。
その仕草が、
信じられないほど、愛しい。
手が、自然と伸びる。
触れるのは、肩。
さっきより、確かに近い。
優しく。
でも、もう“確かめる”触れ方じゃない。
「……」
Qnの体が、わずかに強張って、
すぐに力が抜ける。
受け入れられている、という実感。
Qnの頭を抱え、腰を抱くようにしてぎゅっと抱きしめる
キスをする。
今度は、
今までより、深く。
舌が絡まりQnが浅く息をしようとする。
「ん…っ、ぁ……はっ、」
真っ赤になっているのは
息ができないからなのか、
恥ずかしさからか
真偽はわからないが、
少なくとも拒んでいないことが
俺にとっては大きな喜びだった。
貪るように、喰いつくように
Qnと舌を絡める。
「……んぁ…、っ、……ぁ、」
深く、濃く
互いの唾液が絡まる音が小さく響く。
「…っ、んぅ、…っぁ…M、n…っ//」
息が苦しくなってきたのか、
もぞっと動き
手で俺に小さく合図をするようにして
こちらを見る。
身長差から必然的に上目遣いになり
余計に俺を煽っているようで
俺は止められなかった。
浅く、淡く、小さく
喘ぐように必死に息を吸うQnの姿は
俺の理性を壊そうとしているかのようだった。
でも、境界線は、
もう目の前だった。
離れようとして、
離れられない。
理性が、
必死に警鐘を鳴らす。
戻れなくなるぞ、と。
嫌がられたら、きっと立ち直れない。
Qnの心情でも、
まだきっと”する”には早いんじゃないだろうか。
でも同時に、
この人を欲しいと思う気持ちも、
はっきり存在している。
「……」
額を、そっと重ねる。
唇じゃない。
一瞬の、逃げ道。
呼吸を整えるための距離。
「……大丈夫?」
声が、掠れる。
Qnは、少し赤い顔で、
でも、はっきり答える。
「……うん」
その一言で、
覚悟が揺れた。
そんな日のこんな夜のことだった。
そしてここからは
俺らだけの秘密だ。
ディープ描写、どう?
なんか、物足りないけど技量がねぇや…
ここまでで勘弁してください!
ごめんね
よければ、ハートコメント
よろしくお願いします!!
それでは、また
コメント
20件
最高最高最高!
やっぱこむさますごい神作書きますねぇ・・・尊タヒ・・・
うぁ…あーーーーー…(語彙力死 ありがとうございます…(死