ある日の朝、目が覚めると同時に激しい頭痛を感じた。頭が割れそうな痛みだ。「うっ……」私は頭を抑えながら起き上がる。頭痛薬を取りにリビングに向かう。「あら、おはよう深雪……どうしたの?」母は心配そうに私に聞いてきた。「……いえ……ちょっと頭が痛くて……」私は作り笑顔で答えると自分の部屋に戻った。頭痛は一向に治らないどころか強くなっていく一方だった。
学校に着き教室に入る。すると私の元に美月さんがやって来た。「……深雪ちゃん、大丈夫?顔色悪いよ?」彼女は私の顔を覗き込むようにして言った。「……はい、大丈夫ですよ」私はこの頭痛の原因が分かる。二日酔いだ。昨日むしゃくしゃしていたせいで思い切り呑んでしましまったのだ。「無理しないでね…」美月さんは心配そうな表情で私を見つめた。「はい、ありがとうございます」私は作り笑顔で答えた。
授業中も頭が痛いのであまり集中できない。私の隣では田中くんが寝ていた。ふと前を見ると先生が怖い顔をして彼を見ていた。彼はビクッとして起きると急いで教科書を読み始めた。その様子を見て私はクスッと笑った。
放課後、私は一人で帰り道を歩いていた。しかし頭痛のせいで足取りが重い。なんとか家に着いた。さっきから頭痛が激しくなる度に『鬱』が強まっていく。私は部屋の天井にイヤホンを引っ掛けた。そしてスマホを開く。そしてSNSに一文投稿する。『ワイヤレスイヤホンじゃ首は吊れないね…』と。そして天井から掛けたイヤホンで輪っかを作る。私は椅子に乗って首を輪っかに通す。そして椅子から脚を離す。「うっ…」首を圧迫される感覚がやって来る。そしてじわじわと視界がぼやける。瞬間、イヤホンのコードが切れた。ドサッという音を立てて私は床に落ちた。「なんで…死ねないの…っ!」私は一人呟いた。すると部屋にお母さんが駆け込んできた。「深雪!何してるの!?凄い音がしたけど…」お母さんは部屋を見渡す。そして千切れたイヤホンを見つめる。そして「深雪!ちょっと首見せなさいっ!」お母さんは半ば強引に私の首を見る。私の首にはくっきりとイヤホンのコードの跡が残っていたと思う。多分それを見たお母さんが私の頬を叩いた。「深雪!何馬鹿なことやってるの!!」お母さんは泣きそうになりながらそう言って私に抱きついた。「お母さん…」私は弱々しい声でお母さんに言う。「もうこんなことしないで……お願いだから……」お母さんは私の頭を撫でながらそう言った。「……はい、ごめんなさい」私はそう言って静かに泣いた。私の喉を空気が掴むかの様な圧迫感を感じた。「うっ…お、お母さん…」「深雪!大丈夫!?顔色酷いわよ!?」お母さんは急いでゴミ箱を持って来てくれた。私はそれに吐いた。お母さんは優しく私の背中を摩っていた。「ゲホッ」私は咳が出た瞬間、吐瀉物に混じって血を吐いた。そこで私の意思は闇へ堕ちた。最後に聞いたのは「みゆきっ!?」と私を支えたお母さんの声だった。次に目を覚ますと見知らぬ天井だった。身体の中の肉塊が悲鳴をあげている様だった。「あ、深雪さん?分かりますか?」看護師らしき人が私に聞いて来た。「はい…ゴホッ…」また咳と一緒に血が出た。「深雪さん、ここは病院ですよ。あなたのお母さんから連絡があって急いで来たんです」彼女は私の手を握りながら言う。「あの……私……」私が言いかけると看護師さんは優しく微笑むと言った。「大丈夫ですよ、ゆっくりで良いので話してくださいね」私は深呼吸すると話し始めた。「……はい、実は私『鬱』なんです……それで最近ずっと死にたいって思ってて……それで昨日もお酒呑んでたんですけど全然酔えなくて……それでイライラして首を吊ろうとしたらイヤホンのコードが切れて……そしたらお母さんが部屋に来て怒って首吊りを止められてしまって……」私は震える声で話した。「そうですか、辛かったですよね……」彼女は優しく微笑んでくれた。その笑顔を見た瞬間、私の中の何かが崩れ去った。「うぅっ……うあぁぁぁんっ!」私は大きな声で泣いた。すると看護師さんは私を抱きしめると頭を優しく撫でてくれた。「大丈夫ですよ、深雪さん」彼女の声は優しかった。そして私はそのまま泣き続けた。
私が目を覚ましたのはあれから1週間経った頃だった。どうやらあの後、私は1週間も眠っていたらしい。目を覚ました時、隣にはお母さんがいた。「……お母さん……」私は涙声でお母さんを呼ぶとお母さんは「深雪……っ!」と言いながら私に抱きついた。「深雪……ごめんね……辛かったよね……苦しかったよね……」お母さんは泣きながら私を抱きしめた。私も泣いた。お母さんの胸の中で泣いたのだ。
数日後美月さんがお見舞いにきてくれた。
「深雪ちゃん!大丈夫?」美月さんは私の手を握りながら言う。「はい……大丈夫です……」私は作り笑顔で返す。しかし彼女にはバレていたようだ。「……ねぇ深雪ちゃん、もし何かあったら相談してね」彼女は優しく微笑んで言った。「……ありがとうございます」私もまた微笑み返した。
退院したその日の夜、私は自分の部屋の天井を見つめていた。するとスマホが振動した。画面を見るとフォロワー数が表示されていた。そこには『6,258人』と表示されていた。そしてフォロワーのアイコンには『いいね』が二つ付いていた。それは私と美月さんが一緒に映った写真だった。
「……ふふっ」私は思わず笑ってしまった。そしてスマホを枕の下に入れると眠りについた。
私は憂鬱な気分だった。なぜなら今日は金曜日だからだ。「はぁ……」私は教室に入り自分の席に着くと大きな溜め息をついた。すると後ろから肩を叩かれた。振り向くとそこには田中くんがいた。「よう深雪ちゃん!おはよう!」彼は元気に挨拶した。「あ、おはようございます……」私は作り笑顔で返した。すると彼は不思議そうな顔で私を見た。「……深雪ちゃん、なんか元気ない?」彼は心配そうに言う。「……いえ……大丈夫です」私はまた笑顔を作ると前を向いた。しかし彼はまだ心配そうな顔をしていた。
放課後、私は一人で帰り道を歩いていた。すると後ろから誰かが走ってくる音が聞こえた。振り返るとそこには佐藤さんが立っていた。彼女は私の前まで来ると立ち止まった。そして深呼吸をしてから言った。「……ねぇ深雪さん、今日一緒に帰らない?」私は少し驚いたが「はい……いいですよ」と答えた。
帰り道、私達は並んで歩いていた。すると彼女が私に質問してきた。「……ねぇ深雪さん、最近何かあった?」彼女は心配そうに私を見つめる。しかし私には答える気力が無かったので適当に答えた。「……いえ……特に何も……」私は作り笑顔で返す。すると佐藤さんは私の手を強く握った。「嘘つかないで!絶対何か隠してるでしょ!」彼女の目は真剣だった。私はその目を見ると思わず目を逸らした。そして「ごめんなさい……」とだけ言った。
「私で良ければ相談に乗るよ……?」彼女は私に言う。「……いえ、本当に大丈夫ですから……」私は作り笑顔で答える。すると彼女は私の手を引っ張った。「……お願い!話してみて!」彼女の目は悲しそうだった。その目を見ると罪悪感でいっぱいになった。「……分かりました……お話しします……」私は俯きながら答えた。
学校に着くと私達は屋上へ向かった。屋上には誰もいなかったので安心して話すことができると思ったからだ。「あの……実は最近『鬱』が酷くなってて……それで……」私は震えた声で話す。すると彼女は私の手を握った。「辛かったよね……苦しかったよね……」彼女の目は潤んでいた。「……はい、でも大丈夫です……私にはお母さんも居ますし友達もいますから」私は作り笑顔で答える。しかし彼女には見抜かれていたようだ。
「深雪ちゃん、もう隠さなくていいよ……本当は死にたいんでしょ?」彼女は悲しそうな瞳で私を見つめた。その瞬間、私の中の何かが崩れ去ったのを感じた。そして自分の本音を吐き出した。「……はい……死にたいです……!でも……死ぬ勇気が無いんです……!」私は泣きながら言った。すると彼女は私を抱きしめた。「……大丈夫、私がいるよ」彼女の声は優しかった。「だから……もう泣かないで……深雪ちゃん、どんなに辛くても私たちは生きるしか無いだよ」
それから数日後、私はまた首を吊ろうとした。しかし今度は輪っかを作る前にお母さんに止められた。そしてお母さんは私に抱きついて泣いた。「ごめんね深雪……気づいてあげられなくて……」お母さんは私の頭を撫でながら言う。「いえ……大丈夫ですから」私は作り笑顔で返す。するとお母さんは私を抱きしめながら言った。「……深雪、死んだら許さないからね」
「……はい……分かってます」私は小さく呟いた。
その夜、私は自室の天井をまた見つめていた。するとスマホが振動した。画面を見るとフォロワー数が表示されていた。そこには『7,390人』と表示されていた。そしてフォロワーのアイコンには『いいね』が五つ付いていた。「ふふっ……」私は思わず笑いを溢すと同時に涙も溢れた……
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