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早速アリシアはモーヴへ伝言した。ミーアが青い絵の具を欲しがっていることを。モーヴはミーアという名にあからさまに顔を歪め、絵の具ならばと承諾した。なぜあの子に構うの?モーヴから問いかけられる。それは純粋な疑問なのだろう。どうしてあの化け物に話しかけるのか。
「あの子は一人の女の子です。もっとコミュニケーションを取るべきですわ」
アリシアは言葉強めにそう言った。モーヴは息を漏らし、肩を落とした。
「あれは人間じゃないの。目の前で電池の切れたおもちゃが動くところを見たのは事実よ。それに本人が世界とやらから出るのを嫌がっているじゃない。いいこと?アリシア。あれに構うのはやめなさい」
目をしっかりと見られる。目線が合う。それは警告だった。そして揺るぎない命令。アリシアは少し慄く。なぜそこまで少女を嫌うのか。恐ろしく思うのか。あの子に友達ができればきっと、運命は正しい方向へ動き出すはずだ。アリシアには根拠のない確信に似た自信があった。
「とにかく、青い絵の具は用意します。けれどこれで最後よ。むやみに近づかないこと、良いですね?」
「…わかりました。モーヴシスター」
不承不承に頷く。モーヴはそれから口を固く閉じ、歩いて行ってしまった。アリシアは俯く。それは悔しさからくる行動だった。悔しい。なにも、わかってくれなかった。頑なに嫌う意味とは。遠ざける意味とは。アリシアにはまだ理解できなかった。
「ミーア、おまたせ。絵の具を持ってきたわ。開けてちょうだい」
軽いはずの重たい扉がゆっくりと開く。ミーアはベッドに座っていた。
「ありがとう」
「ミーア、あなたは化け物なんかじゃないわ。モーヴシスターの事は気にしなくていいの。あなたの生きたいようにしなさい」
ミーアはアリシアを見上げる。
「あなたの顔はここの人たちよりすこしだけまともね」
「それはどういう意味?」
「すすが舞っていないの。渦が巻いていないの。あのシスターは顔は見えないし、声も何言っているかよくわからないのよ」
ミーアはいつも笑ってる。今も。ここが嫌いと言ったあの時も笑っていた。口が弧を描き、大きな目を大きく見開いて。
「ねえ、あなたは夢を見たことがある?」
突然の問いに一瞬戸惑うも、体制を整えミーアに体を向く。
「ええ、あるわよ。楽しい夢から、悪魔まで、たくさん。ミーアはどんな夢を見るの?」
「夢は話すのよ。いろんなひとがいて、いろんなひとの話を聞くの。オニを知っている?」
「オニ?」
「ニホンにいるのよ。それはひとのようだけど、綺麗な空の色だけど、わたしと同じ化け物かもね」
「ミーア」
アリシアは息を呑む。
「あなたは化け物なんかじゃないわ」
そして強く否定した。
「可愛らしい女の子なの。みんなと同じ、子どもなの」
小さな肩を掴み、微かに揺らす。
「化け物にならないで。あなたの世界はそこじゃない」
ミーア。
「それはなぐさめ?」
「え?」
「それはほめ言葉?」
「そんなんじゃ」
「それは」
屈辱的だわ。