テラーノベル
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⚠︎ 注意 ⚠︎
本作品は、VOCALOIDキャラクターおよび合成音声キャラクターを元にした
二次創作作品です。
また、性別や名前、外見に対する社会的な分類や偏見を題材にした
フィクションです。
以下の要素が含まれます。
・公式設定の大幅な変更
・キャラクターの解釈違い
・性別をめぐる無理解
・当事者への陰口や心ない発言
これらは肯定や推奨を目的としたものではなく、
『性別』という二分法そのものを
風刺的に描くための表現です。
ご自身の体調や気持ちに合わせて、
無理のない範囲でお読みください。
そして、この作品をご覧になってくださった、
『性別』に囚われ、悩んでいる方の気持ちが
少しでも軽くなれば幸いです。
それでもよろしい方は、お進みください。
第1話 重ねて
ノートパソコンを閉じる音が孤独のオフィス内に響く。
次はこの資料を片付けなければ。
小銭を手に取って会社を出て、近くの自動販売機でコーヒーを買う。
1つで200円も。高くなったなぁ。
「わんだほーい!」
「ねぇ流石にえぐいって!」
「真夜中にやばいよ!」
「ちょちょちょ人人人人!」
近くのコンビニでは学生が友達と深夜に買い出しという青春を味わっていた。
補導されないのか、それだけが心配だった。
補導されれば、未来へ飛び立つための翼を痛めつけることと変わりはない。
ボクの翼はボロボロだが、君たち学生の翼は…自由は…。
缶を開け、夜空を見上げながらコーヒーを啜る。
頬にあたる北風が寒いのかなんなのかもわからない。
どうして、なんだろう。
いつから。
嗚呼。
終電の電車に駆け込んで、思わず息を吐く。
白い息が空気に溶け込んでいく。
…もう、直に仮面が取れる。
『テト』として生きられる。
帰ればこの長い赤髪は巻いて。
フリルの服を着て。
日傘を持って。
メイクをして。
と。
思わずニヤけてしまう口を手で隠しながら、去っていく建物を見つめていた。
「重音さん、これもお願いできる?」
「…あ、はい」
翌日もまた出勤。
そろそろ手首が攣りそう。
タイピングしに来ているわけではないのに。
IT企業だ、仕方ない。
ふと時計を見ると、もう正午。
お腹もすいたし、お昼休憩としよう。
「休憩、はいります」
「…どうぞお好きに」
上司の前で一礼してから、会社から出る。
外にあるベンチで持ってきた菓子パンを広げる。
ほろほろと砂糖がこぼれ落ちる、とても甘いパン。
“あの子”におすすめされた店は全部当たりだ。
菓子パンのゴミを捨て、オフィスへ戻る途中、同僚たちの会話が聞こえてきた。
「──未だに下の名前で読んだことないなぁ」
「いやそれはそう。ふつーに?なんか嫌だぁ」
「わざわざ改名するのがね…名前と見た目が合ってない、あ、戸籍か」
「絶対下心あるよね。社員旅行とか暴れるよ絶対──」
耳を傾けてやるもんか。
もう飽きた。なんだよ。
ボクのことを言ってるのはわかってる。
みんなボク以外下の名前で呼び合ってるのもわかってる。
その輪に入らなくてもいい。別に。
ただ。
頬に数粒の涙が落ちる。
慌てて手の甲で拭うが、無駄。
誰もその涙を掬ってはくれない。
何度も言われているはずなのに。
まだ、悔しい。
悲しい。
苦しい。
誰か。
ボクはまだ。
こんなちっぽけな場所以外にも。
ボクの居場所があると信じている。
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