テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
1,081
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「ん、んじゃ、放課後よろしくな…」
糸に言う雲善(うんぜん)。
「う、うん」
糸も雲善もいつもの感じじゃない。家に呼ぶ雲善も、家に呼ばれる糸も緊張している。
それは朝のホームルーム中も授業中もだった。
いつもは朝のホームルーム中、太ももの上でスマホをいじったり、暇で暇で指で遊んだりしているのだが
今日は落ち着かず、スマホをいじっててもどこか緊張してすぐやめて、かといってボーっとしていたら
今日雲善の家に行くんだ…
という思考が巡り、心臓が高鳴りだすので必死に思考を散らした。
授業中も、いつもなら外を見たり、眠くなってきたらウトウトして
後ろの席の嶺杏にイスの座面を下からドンッってされて起きるのだが
…今日はウトウトしないな…
と嶺杏が思うほど、眠くもならなかったし、ふとした瞬間に
今日雲善の家に行くんだ…
と思ってしまうので先生の話を聞いたり、教科書を読んだりしていた。
それは雲善も同じ。いつもなら朝のホームルーム中でも授業中でも
先生が黒板に向かったとき、つまり先生が生徒たちに背を向けたときに
席が近い名良(なら)にちょっかいを出して遊んでいたのだが、今日はそれもない。
名良もいつもの雲善からのちょっかいがなく暇で、授業を聞きながらもペン回しをしたり
教科書に載っている写真や資料集に載っている写真を、無駄に詳細に見たりしていた。
すると視界の先に何かがスッっと入ってきた。そちらを見ると、可愛い付箋が名良の机に貼られていた。
おそらく角度的にヨルコが貼ったものだと思った。
弱めの糊で微かな抵抗を見せる付箋を机から剥がす。その付箋には
雲善くん元気ないみたいだけどどうしたの?
と可愛らしい文字で書かれていた。なので返事を書く。
そして先生の隙を突いてヨルコの机に貼る。返事が返ってきたので読むヨルコ。
知らないけど 今日の女楽国(にょたくに)さんのことで緊張してるんじゃない?
と書かれていた。名良は、別にヨルコを恋愛的に好きとかそういう感情はないはずだが
なぜか、無意識に良い印象を与えようと、なるべく綺麗な字で書いていた。また視界の端に付箋が入ってきた。
なるほどね?
の後に可愛らしいデフォルメされた女の子の顔が「ふむふむ」と頷いている絵が書いてあった。
うまっ
と思う名良。返事を書いてヨルコの机に貼る。
絵うまいんだね
すると名良の視界の端に、白くて綺麗な指が入ってきて指の腹で机をトントンとする。
ヨルコのほうを見ると、ヨルコがお腹の辺りでスマホを出して
先程名良の机をトントンとした右手の人差し指で、今度はスマホの画面を爪の先でカツカツとする。
なので名良も太ももの上、先生からは見えない机の教科書などを入れる部分でスマホを出して画面をつける。
するとヨルコからLIMEが届いていた。
ヨルコ「絵上手かった?」
それに返信してラリーが続いていく。
名良「普通にうまいと思うけど」
「少なくともオレよりはうまいよ」
ヨルコ「やったぁ〜」
天使がジャンプして喜んでいるスタンプ
名良「絵描くの好きなの?」
ヨルコ「嫌いではないよ」
名良「普通にスゴい」
と送ったら数分返事がなく、その代わりにまた机に付箋が貼られた。その付箋を見たら
おそらく名良であろう、めちゃくちゃ可愛くデフォルメした名良らしきキャラクターが
「ドヤァ〜」っとドヤ顔をしているイラストが描いてあった。
うっま
と思う名良だが、まさか自分とは思っていない。
名良「スゴいね。オリジナルのキャラクター?それともマンガかアニメのキャラ?」
と送ると
ヨルコ「紺堂くんだよ」
と返事が返ってきた。
…
今一度付箋を見る名良。
…オレ?
と思う。そのままをヨルコに送る。
名良「可愛すぎない?」
ヨルコ「そお?似てない?」
名良「似てはないでしょ」
ヨルコ「下手だったかな?」
名良「いや、めちゃくちゃ上手くて可愛いけど、オレではなくない?」
ヨルコ「あげるよ」
天使がプレゼントを差し出すスタンプ
名良「ありがとう。ありがたくもらっときます」
牛のキャラクターがお辞儀をしているスタンプ
付箋を剥がし、今一度眺める名良。
いや…可愛いけど…
オレではないだろ。と思う名良。筆箱に貼っておいた。
そんなこんなで4時間目までの授業が終わり、お昼の時間に。お昼の時間もいつもの糸と雲善ではなかった。
いつも糸は嶺杏や恋弁(れんか)、ヨルコにウザ絡m、テンション高めに絡むのだが、今日は違う。
必死にいつも通りにしようとするが、どこか顔には緊張が見られ
テンション高めの絡みも、いつもは次々に話題が展開していくのだが、すぐに止まってしまう。
「どしたん?風邪でも引いた?」
思わず嶺杏が聞く。
「え?いやぁ〜…」
「もしかして糸も緊張してるの?」
とヨルコが聞く。
「緊張?」
「あぁ〜。今日雲善の家に行くってやつ?」
と恋弁が言う。
「あぁ〜。めっちゃ忘れてた。あぁ〜、で緊張してんだ?」
ニヤニヤしながら言う嶺杏。
「しっ!…してない。って言ったら嘘にはなるけど…」
と言う糸に「なんか期待してんのかぁ〜?」と言いたくなるが我慢する嶺杏。
「でも青さんと話するだけでしょ?」
と言う恋弁に、口を尖らせて
「…そうだけどさーぁ〜…」
と言う糸。そしてハッっと気づく。
「え?!?恋弁、雲善のお姉さんのこと知ってるの!?」
「ん?まあ知ってるけど」
「どんな人!?」
前のめりに聞く糸。
「どんな人?」
「怖い!?」
「全然?怖くはないよ」
「そっかぁ〜…」
安心したのかイスの背もたれに寄りかかる糸。
「なに?それで緊張してたの?」
と言う嶺杏。
「まあぁ〜…」
それもあるけど…
と思う糸。たしかに「雲善のお姉さんどんな人だろう」とか「怖い人だったらどうしよう」とか
「「チケットおとなしゅう渡してくれますさかいなぁ〜?(無茶苦茶な関西弁)」とか言われたら
どうしよう」とか思っていたので、恋弁から「怖い人じゃない」と聞けて安心できたのは本当だが
“雲善の家に行く”という大元の緊張は解けず終いだった。
雲善も雲善で変に緊張していた。
「…。雲善どうしたの?」
その様子を見て、思わず小声で風善(ふうぜん)に聞く琴道。
「あれだよ。今日、女楽国さんが家(うち)来るってので、たぶん緊張してるんだと思う」
と風善も小声で返す。
「なるほどね」
納得する琴道。そんなこんなでお昼は終わり、午後からの授業が始まり
糸と雲善からしたら、永遠のような、過ぎてしまえば5分ほどのような午後の授業が終わり
帰りのホームルームが終わった時点で糸も雲善も緊張がピークに達していて
心臓は高鳴りすぎて逆に落ち着いているような
暑くなるどころか、逆に胸の辺りがひんやり感じるほどになっていて
いつもならすぐに立ち上がり、嶺杏の机に座って嶺杏と楽しそうに話しているのだが
今日はすぐ教室飛び出しトイレに行き、鏡で(大したメイクはしていないが)顔を確認し、髪型を整え
戻ってきて自分の席でイスに座ったと思ったらまたトイレに行って
顔を確認したり髪型を整えたりして教室に戻り、いつでも行けるようにスクールバッグを机の上に置いて
大人しく自分の席でイスにちょこんと座っていた。その様子を見て嶺杏は
動画撮っときたいくらいレアだな
と思った。雲善は
「ふぅぅーーぅ〜…」
と思い切り息を吐き、イスから立ち上がった。
「…よしっ」
とスクールバッグを持って、糸の方向に歩き始めた。そして糸の斜め後ろまで行って
「ふぅ〜…」
と息を吐いてから
「…」
話しかけようとするが、一言目が口から出ない。もう一度
「ふぅ…」
今度は目を瞑って、深呼吸で鼻から息を吐くときのように、落ち着かせるように息を鼻から吐く。
よしっ
意を決めて糸に話しかける。
「…女楽国」
話しかけられた糸は、その雲善の一言で、心臓が、今まで忘れていたかのように忙しく動き出した。
「ん、ん?」
「行けるか?」
「行け、ますけども?」
「おう。…じゃ、行くか」
「う、うん…」
緊張した表情の雲善の後ろを、緊張で少し塩らしくなっている糸がついていく。
「じゃ、じゃあまたね?嶺杏ちん、ヨルコ」
ぎこちない挨拶に嶺杏は笑いそうになりながら
「うん。また」
と返す。ヨルコも
「またね」
と返す。
「雲善、顔引き攣ってんぞ」
と名良に言われて「うるせえ」と口パクで言う雲善。
廊下に出ると、窓側の壁に寄りかかって風善と恋弁が話をしていた。
「ふー。帰るぞ」
と雲善が言うと
「あ、ごめん兄ちゃん。今日用事ができちゃって」
と言う風善。
「は!?用事ってなに」
「まあ…。それはいいじゃん」
「はあぁ〜?…じゃあ」
「うん。そーゆーことです」
と爽やか笑顔で言う風善。
「…」
無言で下駄箱へ向かう雲善。
「恋弁またね」
「うん。また」
糸も恋弁に挨拶して雲善の後ろについて下駄箱へと向かう。
下駄箱でローファーに履き替えた糸と雲善は雲善の家に向かって歩く。
クラスの中でもお喋りでお調子者の糸と雲善が揃えば、いつもならうるさくてしょうがないほどなのだが
今の2人は、そよぐ風の音が聞こえるんじゃないか?というほど静か。
「兄ちゃん緊張してたなー」
と呟く風善。
「あんな雲善初めて見たかも」
と言う恋弁。糸と雲善が雲善の家への道を無言で歩く中、恋弁と風善は図書室にいた。
「でもどうしたの?急にテスト勉強だなんて」
「ん?いや、別に急じゃなくない?もうそろテストだし」
「まあそうだけど…。てかふーは私に教わらなくても成績いいでしょ」
と言う恋弁に
「そんなことないよ」
と微笑む風善。そんな風善にドキッっとする恋弁。
恋弁が爽やか風善にトキめいたとき、糸と雲善は雲善の家の前に着いた。
「ここ」
「あ、…そうなんだ?」
玄関のドアを開けて中に入る。すると置くから足音が聞こえてくる。
「おぉ〜。おかえりぃ〜」
青が玄関まで来た。
うわっ。綺麗な人
と思う糸。
「あ、弟がお世話になっておりますー。雲善の姉の青って言います」
笑顔でペコッっと頭を下げる。
「あっ、え、こちらこそお世話になっております。女楽国糸と申します」
と焦って頭を下げる糸。雲善は横で
お世話になってねぇし、お世話もしてねぇ
と思う。
「ささっ。入って入ってぇ〜」
と言う青に促されて、ローファーを脱ぎ、青が用意していたスリッパを履く糸。
雲善もローファーを脱ぎ上がる。着替えるために雲善は自分の部屋へ行く。
「あ、ソファーにでも座っててー」
と言われて
「あ、はい」
とソファーに腰を下ろす糸。リビングには青と糸だけ。青は冷蔵庫を開けて
「あ、飲み物なにがいい?心の紅茶のストレートとりんごジュースと牛乳とー…
鉄分の飲むヨーグルトなんてのもあってー」
と言って、キッチン周辺を見ながら
「あとはーアールグレイ、アップル、レモン、ベリー、ストロベリーとか
ティーバッグで淹れる紅茶もあるけども」
と言う。
「あ、じゃあ、心の紅茶で、お願いします」
と言う糸。
「オッケー」
と言い、心の紅茶ストレートティーをグラスに入れ、半分ほど入れたところで
「あ」
と注ぐのを止める。
「牛乳入れてミルクティーにもできるわ。どうする?」
と言われたので
「あ、じゃあお願いします」
とお願いした。
半分で止めて良かったぁ〜
と思いながら冷蔵庫に心の紅茶ストレートティーを戻し、牛乳を取り出して
心の紅茶ストレートティーを半分ほど入れたグラスに牛乳を入れる。
「はいどーぞー」
と糸の座るソファーの前のローテーブルにグラスを置く青。そして
「甘くしたかったらガムシロ入れてねぇ〜」
とガムシロップ2つを入れた小皿を置いて、スプーンをその小皿に乗せた。
「あ、ありがとうございます」
糸はなにも入れずに
「いただきます」
と呟いて飲む。そしてガムシロップを1つ入れてスプーンでかき回して飲む。
「んでこれもどーぞー」
とショートケーキを出す青。
「あ、すいません。ありがとうございます」
「あ、チョコケーキとか抹茶ケーキ、モンブランなんかもあるけど、ショートケーキでよかった?」
「あ、はい。ありがとうございます」
「よかった」
糸がケーキを一口食べる。
ん。めちゃくちゃ美味しい
と思い
「美味しいです」
と青に伝える糸。
「それはよかったです」
と笑顔で言う青。しかしその後
「…」
「…」
静寂に包まれる。
あのバカ(雲善のこと)なにやってんだよ
と思う青と糸。
「えぇ〜…。糸ちゃん、でいい?」
「あ、はい」
なにか言われる。と思ってかしこまって、背筋を正し、両手を太ももに置く糸。
「あ、いやいや、そんなかしこまんないで。リラックスしていいから」
「あ、はい」
「うちの弟、学校ではどんな感じ?」
と聞いてからすぐ
「そっか。弟っつってもふーもいるか」
と気づく。
「雲善はどんな感じ?糸ちゃん同じクラスなんだよね?」
「あ、はい。…そうですね。…ムードメーカー、的な存在ですかね」
「あぁ〜、家と変わらずうるさい感じだ?」
と青が言い、糸が否定しようとすると
「誰が家でうるさいんだよ」
と着替えた雲善がリビングへ入ってきた。
「鏡鏡」
「うるせぇ」
と言いながら自分のグラスを出して、冷蔵庫からりんごジュースを出してグラスに注ぎ
ダイニングテーブルの、青が座っている正面のイスに座った。そんな雲善に
「なんでこっち座るんだよ。糸ちゃんが寂しそうじゃんか」
と言う青。
「は?じゃあ青姉(あおねえ)が行けばいいだろ」
と言う雲善に
青姉って呼んでるんだ
と思う糸。
「私は今日が初対面」
「いいから本題入れよ」
と雲善に言われて本題に入る青。
「ええぇ〜。まず糸ちゃん」
「はい」
「ご当選、おめでとうございます」
と深々と頭を下げる青。
「あ、えぇ〜。ありがとうございます?」
頭を下げた姿勢のまま、顔だけを糸に向ける青。
「それで…」
と言いながら姿勢を元に戻す青。
「糸ちゃんはぁ〜…。Vipper(ビッパー)さん?」
と青に言われて
「…び、っぱーさん、?」
キョトンとする糸。
「あ、その様子だとVipperさんじゃないんだね?よし、説明してあげよう」
と青の長々した説明が始まって、雲善はスマホをいじって、あくびが出たところでようやく終わった。
「てな感じ」
「なるほど。お姉さんはVipperさんなんですよね?」
「もちのろん!でね?今回糸ちゃんが当たったライブチケットなんだけどね?
さっき説明した中であった、メンバーの私物とかサイン入りのグッズとか
ライブ衣装なんかが“必ず貰える”っていう特別なチケットなのね?」
「あ、そうなんですね」
「そうなの。だから今回のチケットは転売防止のために
当選した端末から別の端末への受け渡しはできない仕様になってるんだよね?」
「たしかに転売する側からしたら高く売れるでしょうね」
「そうなの。でね?糸ちゃんさえよければチケット譲ってほしいんだけどぉ〜…」
人差し指と人差し指をツンツンと合わせる青。
「もちろんいいですよ」
「ほんと!?」
「そもそもお姉さんのお金ー、ですもんね?」
「あ、まあ、そうなんだけど、当てたのは糸ちゃんだし」
「全然全然。そのときはご馳走様でした」
「いやいやいやいや」
「でも、…どうしたらいいんでしょう」
「そこなのよねぇ〜。で、雲善とふーと話してたんだけど
当日糸ちゃんのスマホを借りて。っていうのはどうかなと」
「なるほど」
「どお、かな?」
「いいですよ」
「おぉ〜!糸ちゃん話が早い!」
と言いながらソファーに行って糸の横であれこれ話をする青。それをスマホをいじりながら傍目で見る雲善。
「雲善」
急に名前を呼ばれ、少しビクッっとする雲善。
「な、なに?」
「糸ちゃん、送ってあげて」
と青が言う。
「あ、いいですよ。一人で帰れます」
と言う糸。
「いやいや。放課後に来てもらった上に案外長くなっちゃって外もう暗いし
責任持ってこいつ(雲善)に遅らせるから」
と言う青に
“責任持って”ならお前が行け
と思う雲善。そう思うものの、スマホをポケットに入れて立ち上がる雲善。
それを見て糸も立ち上がる。そしてローテーブルのグラスなんかを持った瞬間
「あ、いいよいいよ置いといて。片しとくから」
と言われて
「あ、すみません」
と言ってスクールバッグを持つ。青も立ち上がり玄関まで見送りに行く。
「んじゃ、ライブ当日はよろしくお願いします」
と頭を下げる青。
「あ、いえ。こちら、こそ?」
と言う糸の後ろで玄関のドアを開ける雲善。
「じゃ、お邪魔しました。ケーキご馳走様でした」
と頭を下げる糸。
「いえいえー。またねぇ〜」
と手を振る青にペコッっと頭を下げて雲善が開けてくれていたドアから出る糸。
ドアが閉まるまで手を振っていた青。手を下げて
「あいつ(雲善)にしちゃー随分大人しい子と仲良くしてんだな」
と呟いた。
「いやぁ〜…。緊張したぁ〜…」
と解放されたように言う糸。
「なんでそんな緊張したんだよ」
「え?そりゃー〜…。ん?うぅ〜ん…。よく考えてみればなんでだろ」
と言う糸に
そういえばオレもなんで緊張してたんだっけ?
と思うほど雲善も今は緊張していなかった。
「てかお姉さんめっちゃ綺麗な人だよね」
「は?どこが」
「えぇ〜?思わない?」
「思わない思わない。ただの変態だから」
なんて他愛ない話を、いつもの糸と雲善に戻った2人でしていると糸の家の前についた。
「んじゃ。送ってくれてさんくすー」
「ん」
「お姉さんによろしく」
「はいはい」
「じゃ、また学校でね!」
と笑顔で手を振る糸に、ときめいた。まではいかないまでも
心がキュンとなるような、なにか動いた気がした雲善。
雲善はその場で視線だけ斜め上を向けて、今の心の動きが一体なんだったのかを一瞬考えたが
「ま、いっか」
と呟き家へと帰っていった。家に帰ると風善も帰っており
「あ、兄ちゃんおかえり。青姉がチェストナッツ(Les joues de Chestnut tombent(レ・ジューン・デ・チェストナッツ・タンブ)の略称)のケーキ買ってきてくれたよ」
とダイニングテーブルにケーキの箱を出して、青と一緒に中を覗いていた。
「知ってる。女楽国に出してたから。賄賂代わりだろ」
「ふーはどれがいい?」
「青姉から選びなよ。高いののわざわざ買ってきたんだから」
「ふーはええ子に育ったなぁ〜」
と言う中、雲善もケーキの箱の中を覗き込み
「オレチョコ貰うわー」
とチョコケーキに手を伸ばした。
「は?今私チョコ選ぶつもりだったんだけど」
「ふーに譲ろうとしてたんだし別にいいだろ」
「よくない。返せ」
「は?同じ顔なのになんでこんなにも扱いが違う?」
「性格全然違うからに決まってんだろ返せ」
「嫌なこった」
と雲善も完全にいつも通りの雲善に戻っていた。