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世界には魔法の階級がある。上からS・A・B・C。
ほとんどの人間はB止まり。Aでも十分に天才扱い。
そしてSは、地球上にほとんど存在しない。
そんな中、魔法名門校「アスファル 学園」に、十年ぶりのSランクが現れた。
その名は千田京平。
入学式の日、校庭の空気が震えた。
京平が無意識に放った魔力が、空の雲を割ったからだ。
「……やっぱり桁違いだな」
少し離れた場所でそれを見ていたのは、Aランクの優等生谷津翼。
冷静沈着、成績優秀。怒ることも滅多にない。
だがその瞳は、珍しく強い興味を宿していた。
「無自覚であれは反則だろ……」
一方、同じくAランク市川優は、隣で腕を組んでいた。
「ぼーっとしてるだけであれとか、ムカつくんだけど」
そう言いながらも、視線は逸らせない。
京平はというと――
「え? なんかした?」
天然だった。
京平は、全ての魔法を扱える。
火・水・風・土・光・闇。
補助魔法、治癒魔法、召喚魔法、禁術さえ。
しかも運動神経抜群。
ダンスも歌も絵も、何でも完璧。
だが。
「え、翼くんと優くんって仲良ええな!」
にこっと笑う。
鈍感。
自分が二人からどう見られているかなんて、まるで気づいていない。
ある日の実技試験。
三人は合同任務を組まされた。
内容は、暴走した魔獣の鎮圧。
「京平は後ろでいい。俺と優が前出る」
翼が淡々と指示を出す。
「無理すんなよ、S様」
優は少し挑発的に笑う。
だが戦闘が始まった瞬間、状況は一変した。
魔獣が想定以上に強い。
「くっ……!」
優の腕に傷が走る。
「優!」
京平の魔力が爆発する。
金色の魔法陣が幾重にも展開し、空間ごと魔獣を拘束。
圧倒的な力。
それでも京平は、震えていた。
「ごめん、守れんかった……」
自分を責めるその顔に、翼の理性が揺らぐ。
「……守られてるのは俺たちの方だ」
優が京平の顎をくい、と持ち上げた。
「お前、ほんと自覚ねぇな」
距離が、近い。
「え、な、なに……?」
真っ赤になる京平。
翼が優の手を軽く払う。
「触りすぎ」
「は? そっちこそ」
静かな火花が散る。
京平は混乱するばかり。
「二人とも仲良くしてよ……?」
無自覚に泣きそうな顔をする。
その顔は凶器だ。
翼は深く息を吐いた。
「……京平。俺はお前が好きだ」
静かな告白。
「は!? 抜け駆けすんな!」
優が京平の肩を抱き寄せる。
「俺もだ。選べ」
「えぇぇえ!?」
完全に思考停止。
Sランク。最強。万能。
でも恋愛だけは最弱。
その夜、寮の屋上。
京平は星を見上げていた。
「なんで俺なんだろ……」
そこへ翼が隣に立つ。
「優しいからだ」
少し遅れて優も来る。
「強いくせに、俺らより泣きそうな顔するから」
京平は目を瞬かせる。
二人は同時に言った。
「守りたいんだよ」
沈黙。
そして。
京平は、困ったように笑った。
「……二人とも、ずるいわ」
その頬に、翼が触れる。
優が後ろから抱きしめる。
Sランクの魔力が、夜空に淡く揺れる。
けれど今震えているのは、世界最強の魔法使いの心だった。
三人の関係は、まだ始まったばかり。
アスファル学園・実践演習区域。
「今日は植物型魔獣の討伐だ。油断するな」
翼が冷静に言う。
「植物系って動き遅いんだろ? 余裕じゃん」
優が肩を回す。
京平は少し笑った。
「でも森の魔力、ちょっと変だよ」
その言葉が終わるより早く
地面が、爆ぜた。
ズルリ、と触手が土の中から飛び出す。
「京平!!」
最初に狙われたのはSランク。
無意識に溢れる強大な魔力に、魔獣が反応したのだ。
一瞬。
本当に一瞬の隙だった。
足首を掴まれ、次の瞬間には全身が宙へ吊り上げられる。
「ッ、え……!?」
絡みつく触手。
腕。胴。首元。
ぎり、と締め上げる。
「京平!!」
優が跳ぶが、別の触手が行く手を阻む。
翼は即座に詠唱。
「ッ風刃!」
鋭い刃が蔓を切り裂く。
だが、再生が早い。
京平の体がさらに高く引き上げられる。
「……ッ、や……(泣」
首元に巻きついた蔓が、わずかに締まる。
呼吸が、浅くなる。
「はッヒュッ」
空気が入らない。
視界が揺れる。
不意打ち。
首を固定され、詠唱ができない。
「くそ……!」
優の声が、珍しく荒れる。
「翼、同時に行くぞ!」
「ああ」
二人の魔力が重なる。
優は身体強化で一気に跳躍。
翼は精密な氷魔法で再生核を狙う。
「京平、目閉じるな!」
優の叫び。
京平の意識が遠のきかける。
(……だめ、だ……)
みんなを守るはずなのに。
体が動かない。
その瞬間。
翼の氷槍が、魔獣の核を正確に貫いた。
同時に優が蔓を力任せに引きちぎる。
バキン、と音がして拘束が解ける。
落ちる京平を、優が受け止めた。
「京平!」
「…ヒュッ、はッ」
空気が肺に流れ込む。
激しく咳き込む京平の背を、翼が支える。
「大丈夫だ。もうない」
優の腕は、無意識に強く抱きしめていた。
「……ごめん、俺……」
かすれた声。
「謝るな」
翼の声は低い。
「お前が悪いわけじゃない」
優が京平の額に触れる。
「不意打ちで捕まるとか…」
その指は、わずかに震えていた。
京平はそれに気づく。
「……怖かった?」
優が聞く。
京平は少しだけ、正直にうなずいた。
その瞬間、二人の空気が変わる。
「もう二度と、あんな顔させない」
翼の静かな宣言。
「守られる側になれよ、たまには」
優が言う。
Sランク。
最強。
けれど今、二人の腕の中で呼吸を整えているのは、ただの高校一年生だった。
京平は小さく笑う。
「……頼っても、えぇ?」
その言葉に、二人は同時に答える。
「当たり前」
森のざわめきが静まる。
三人の距離は、前より少しだけ近くなっていた。
主は力尽きた