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その抱擁を優しげに見つめた光影に話し掛けたのは本日の主役の一人、悠亜である。


「あらあら、相変わらず仲が良いわねぇ、長短(ナガチカ)君と美雪ちゃんは! 良かったら家のペジオも仲間に入れてくれるぅ? 駄目かしら?」


「あら、悠亜ちゃん、オメデトね、綺麗よ」


「有難うコユキ姉さん、食べ物は足りてる? 飢えていないでしょうね? ね? 大丈夫?」


着物のせいでやや飢え気味なコユキであったが、本日の主役に要らぬ気遣いをさせない為に、ニッコリ笑顔とサムズアップで返している、一際大きい成長を感じる、感動だ。


美雪との抱擁を中断した長短少年が父の光影を見上げて聞く。


「中庭に出て遊べそうだったでしょ、美雪ちゃんペジオちゃんと行ってきて良い、パパ?」


「ああ、でも庭から出ちゃ駄目だからな、お前が二人をしっかり見守るならいいぞ」


「やった、じゃあペジオちゃんも一緒に、はいっ!」


元気に差し出された長短の手をおずおずと取り、母親の後ろから姿を現したのは二歳児にしては大人びた印象を受ける、端正な顔立ちの男の子である。


この子供が私の長年の友人のリクエストである。

ペジオ・ユウキ、初代の聖王の若かりし日の姿なのだ。


聖王と言うのは、聖女と聖戦士という男女のペアではなく、単独で魔物と戦った孤独な戦士、そのリーダーの事である。

代々、俊敏な動作と鋭い聴覚と嗅覚、更に回復系のスキルを得意としているのが特徴だと言われている、あっ、後ベジタリアンもそうか。


ふむ、特段耳は大きくないようだし、鼻を引くつかせてもいないようだな……

整った顔は兎も角、少し内気な普通の子供にしか見えないな。

あ、ナガチカから生ハムと無花果(いちじく)のカナッペを受け取って…… 食べたぞ……


アイツにこの事を話したら一体どんな顔をするだろうか? 自慢の大きな耳をバタつかせて抗議するかもしれない、ちょっと楽しみになってきた。

人知れずほくそ笑んでいる間に子供たちは中庭に出て行ったようだ。


大人だけ、それも『聖女と愉快な仲間たち』のパーティーメンバーだけになった事で、一気に身内感の強めな会話が始まる。


まずは結城昭だ。


「ちょっと小耳に挟んでは居たんですけど、コユキさん、本当に痩せてるじゃないですか! 大丈夫なんですか?」


光影も続いた。


「ああ、俺も丹波から聞いていたんだが、おいよしお! ちゃんと食べて貰っているんだろうな? もし大変なら俺に言えよ、少し位なら蓄えているからな!」


「僕や悠亜にもね、ですよ?」


どうやら心配させてしまった様だ、そう思った善悪は申し訳なさそうに口にした。


「うん、食べる量自体は減っていない、と言うか増えてるんだけどね、お金も順調に稼ぎ続けているしさ、それは心配には及ばないんだけどね、ね?」


視線を向けられたコユキは堂々とした風情で答える。


「そうよ! 体重だって四百キロを維持してるし大丈夫だわよ、何て言うの? そう、締まってきたのよ、締まって! 切れてる切れてるぅー! 出るとこは出て締まり込む所はしっかり引き締まる…… バルクよバルクっ! ナイスバルクっ! そう言う事なのよ? ノープロブレム! ドントウォーリーなのよっ! コユキ絶好調なのよぉお!」


「んね? でござるらしいのでござるよ」


この言葉に唖然とする悠亜と昭、一人冷静な科学者光影が善悪に言う。


「あ、ああ、それなら良いんだが…… にしても、よしお? 何故今更締まったんだ? 大きい人、いや、コユキさんは?」


善悪は溜息混じりで答える。


「休まないのでござるよ……」


「休まない? って、どういう……」


善悪は光影に真っ直ぐ向き合って真剣な表情で言う。


「どう言うも何もそのまんまの意味でござるよ、眠らないで働き続けているのでござるよ、家の奥さんは…… えっとね、朝は家の畑の世話をマッハで終わらせてご近所の耕作放棄地の再生作業でしょ、んで朝食後から日中はお寺の出店と相談客の応対と仏事の準備や片付けでしょ、昼食夕食の時間を縫って檀家さんの茶畑や水田の見回りや調整、さらに『抵抗者(レジスタンス)』のメンバーへの魔法指導でしょ、夜から朝までは僕チンの寝ている横で何か内職的な作業をし続けた後、朝方には『蛍の光、窓の雪』的に勉強しちゃったりしているのでござるよぉ、もう一年位……」


「ええっ、一年も寝ていないんですかっ! こ、コユキさん?」

堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

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