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翌日もレオナルドは魔族討伐に向かった。ルークも同行を申し出てきたが、今回は拒否する。
「子ども連れで戦場に行くわけにはいかん」
「でも……!」
必死に食い下がるルークの姿に苦笑しながら、レオナルドは「次回な」と約束した。
結果的にはこれが良かった。今日の相手はオークの群れ。大型の魔物に対して幼いルークを連れていくのは危険すぎる。
「殿下!こちらです!」
部隊長の案内で進むと、谷間で四匹のオークが暴れている現場に遭遇した。通常より一回り大きい個体ばかりだ。
「準備は良いか」
言いながら剣を抜く。レオナルド専用の大剣グラム。漆黒の刀身が太陽光を受けて鈍く輝く。
「突撃!」
号令一下、騎士たちが突進していく。オーク達も雄叫びを上げて迎え撃つ。
最初の一撃で一体の首を刎ねた。続けざまに二体目を屠る。肉を裂く感触。骨を砕く音。全てが鮮明に伝わり、脳内麻薬が放出されていく。
『もっと!もっと寄越せ!』
頭の中の声が大きくなる。気づけば単独行動になっていた。部隊長からの指示も届いていない。
「止めろ!これ以上深入りするのは危険だ!」
誰かの叫びが耳に入ってきたが、
「グガァアッ!!」
巨大なオークが突進してきた。体格で倍以上の差がある相手。
『来るぞ!避けろ!』
警告に従わず正面から受け止める。盾代わりに構えた剣が悲鳴を上げた。衝撃で足元が沈む。
「殿下!?」
周囲が騒然となる中、レオナルドは不敵に笑った。
「面白い……」
体重を乗せて押し返すと同時に剣を引き、膝関節を斬り付ける。バランスを崩したオークの腹部へ跳躍し、渾身の一撃。断末魔と共に倒れ伏す巨体。地響きのような音とともに土煙が上がる。
「殿下!」
部隊長が駆け寄る。
「あまり無茶をされては……」
「平気だ」
汗を拭いながら答える。
「次はどこだ?」
その言葉に部隊全体が緊張した。狂気的な戦闘欲求。これがレオナルドという人物である。
翌日。昼過ぎになってようやく王宮に戻れた。傷の手当てもそこそこに自室へ戻ろうとした矢先。
「お疲れ様です」
廊下で声を掛けられた。振り返るとルークが立っている。
「また来たのか」
呆れたように言うが、内心では嬉しく思っている自分に驚く。
「今日は何をしてた?」
試しに尋ねてみる。
「訓練です。あと勉強も」
「そうか」
他愛無い会話。これが何故か心地よい。レオナルドにとって他人との接触は最小限に抑えられてきた。特に貴族とは接点がなかった。だからか、余計に新鮮に感じる。
「レオナルド様は……いつも戦ってるんですか?」
唐突な質問。どう答えるべきか迷う。
「まあそうだな」
簡潔に答えると、「凄いですね」と純粋な称賛の目を向けられた。
「凄くない」
思わず否定してしまう。
「義務を果たしてるだけだ」
「それでも……尊敬します」
ルークの目が輝いている。眩しいくらいだ。
『騙されるな。油断させるためだ』
頭の中の声が忠告する。だが今は聞き流す。
「ところで、よくここに来られるな。門番は何も言わないのか?」
「時々怒られますけど……」
恥ずかしそうに笑うルーク。その笑顔が妙に引っかかる。
「怒られないほうが可笑しいだろう」
呆れつつも微笑む自分に驚く。
「だって気になるから」
真剣な表情で言うルーク。その言葉にドキリとする。気になる?何が?
「レオナルド様のことが」
付け加えられた一言に困惑する。どういう意味だ?
「私は……普通じゃないからな」
自嘲気味に呟く。
「そんなことないです!」
勢いよく否定される。
「カッコ良くて強いですし!皆が言うほど怖くないです!!」
熱っぽく語る姿に圧倒された。頭の中では警報が鳴り響いている。コイツは異常者だ。だが身体は別の反応を示していた。
「ありがとう」
礼を言う自分に一番驚いた。まさか感謝の言葉を述べる日が来るとは。
「またお話できますか?」
同じ質問を繰り返すルーク。その誠実さが好印象を与える。悪くない。むしろ楽しい。
「明日も戦場かも知れんな」
含み笑いで返すと、「待ってます!」と元気な返事が返ってくる。
別れてからしばらく歩いても胸の鼓動が収まらない。初めて知った感情に戸惑いながら自室へ戻った。
その晩はなかなか寝付けなかった。ベッドの中で考え込む。
ルークという少年。ゲームでは単なるライバルキャラだった。なのに実際に会話すると魅力的に感じるのは何故だ?
『罠だ』
『偽りの優しさだ』
頭の中の声は警戒心を煽ってくる。それでも……。
「不思議な奴だ」
月明かりに照らされた窓の外を見つめながら思う。明日も会えるだろうか?もし会えたら何を話そう?想像するだけで口角が上がる。