テラーノベル
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A. ペット
飼い慣らすか、飼い殺すか。
目の前の男の生死は俺が自由に決められる。
「ただいま。」
パレトでまんまと音鳴が捕まり、利確が済んでいたこともあって芋づる式に吊られてしまった。
もちろん警察は俺を疑い、個別に取調室まで連れていかれた。
「青井らだおの行方を知らないか。」
厳ついサングラスの下で目を吊り上げるミンドリー。もちろん知らないと答え、ヘリを落としてそのまま逃げたと告げればあからさまに肩を落とす署員たち。
その後も追求されたが、これが俺一人の犯行でメンバーの誰にも知られていなかった事と、機転を利かせたケインのアリバイ捏造によって事なきを得、あっさり帰ることが出来た。
「ありゃ、寝てるわコイツ。」
地下の冷たい部屋のすみっこに小さくなって彼はいた。
手錠と鍵があるだけのゆるゆる監禁とはいえ、この状況下でよくもまあ眠れるもんだ。大方娯楽も何もないから体力温存でもしようと思ったんかね。
まあ、好都合なんだけれど。
ーーーーー
「薬ぃ?なによ珍しいじゃない。」
「ちょっといい獲物が手に入ったんで…もちろん対価はお支払いします。」
「ふーん…ま、いいよ。どんなのが欲しいんだ。」
長い事情聴取の末にプリズンは免除となり、解放された俺はホットドッグを売っていた。
本当にたまたま、偶然お客としてやってきたウェスカーを見て、思いついてしまった。
空の悪魔を堕としたい。
「そうですね。じゃあ……、」
ウェスカーに貰った薬は2種類。1つは筋弛緩剤で、もう1つは抗不安薬。
「筋弛緩剤は何となく分かるんだけど…抗不安薬なんて何に使うんだ?」
そう言って首をかしげるウェスカーを半笑いで受け流した。知る人間なんて居なくていい。
ーーーーー
ヘルメットのツノを有難く持ち手にさせていただき、細い注射器を首筋に打ち込む。これは筋弛緩剤の方。暴れられたら面倒だからなのと、体の自由が利かないのって怖いだろうから。
ぷつ、と肌に針が通る。
「……ぅ…?……は?」
「おっと、動くなよー。」
「え……ちょ、なに、」
痛みで目を覚ましたがもう遅い。薬液は確実に体内へと入った。
やめろ、と小さく呟いて青井が俺の手を掴む。が、微塵も力が入っておらず、ずるりと雪崩落ちてしまう。流石アンブレラ製、即効性が高い。
「……なにッ、した……。」
「おクスリ。動き回れないよーにね。」
「…んなこと、しなくても……。」
「逃げないって?そんなの信じらんないからな~。」
注射器をしまって見下ろせば、黙ってこちらを睨み返してくる。
「……すぐ、けいさつが、くるぞ…。」
「あは、もう舌まわんない?大丈夫だよここ俺以外誰も使わないから。見つかんない見つかんない。」
「………………。」
「まあまたちょっとお留守番しててよ。お仕事してくるからさ。」
無理やりヘルメットを脱がして放り投げ、ぐしゃぐしゃ頭を撫でる。そのまま髪を掴んで引き寄せ、渾身の低い声で凄む。
「おともだちが助けに来るといいね……?」
「…………くそ、やろ……。」
「あははは!じゃ行ってくるからね~。」
ああほんと、怖いおじさんに捕まっちゃって、可哀想に。
ーーーーー
体が動かない。
無理やりに掴まれた髪はズキズキ痛むのに、指すら動かせない。
なんでこんなことになったんだっけ。ヘリバトルの挑発に乗ったのが、間違いだったのか。
身代金の要求とか、されているんだろうか。また迷惑をかけてしまった。
じわ、と目の前が滲んで、嗚咽が漏れる。
最初にアイツがここを出て、どのくらいの時間が経ったのか分からない。窓もなければ時計もない。疲労に身を任せて眠ってしまったのが仇となった。
「どり……、こう、て……。」
一抹の思いを乗せて同期の名を呼ぶ。答えは無い。
表面張力が決壊し、涙が零れた。泣く。止まらない。怖い。誰か。
繋がれた両手がまともに動くようになる頃には、目頭は熱を持ち、引き攣った声によって喉を痛めていた。
まだ何もされていないのに、…そりゃ、ヘリを落とされている時点でP殺であることは明白だが…あの男に対する恐怖がべったりと張り付いて、先の見えない監禁状態に吐き気がする。
いけない。落ち着かなきゃ。
犯人の言うことを鵜呑みにするのもどうかと思うが、アイツは「悪いようにはしない」と言った。殺されたり、痛いことはされないと思おう。そうでなければ、気が狂いそうだ。
ぐるぐると考え込んでいれば薬の効果が切れ始める。踏ん張りの利かない足に出来る限りの力を込め、壁に合わせた背中を上に。よろけながらもやっとの思いで立ち上がる。せめて逃げ道を探りたい。
鉄製の階段は一段が高く、何度か踏み外しそうになる。手すりを掴むのに邪魔で手袋を投げ捨てた。
スタッシュの埋め込まれた壁に手を突いて登りきり、目の前の、たった1枚の扉に絶望する。鍵はかかっている。ノブをぶっ壊せないかと思ったけど、武器もなければ薬を打たれた今、小動物を抱えられるくらいの力しか出ない。
「だれか、誰かいませんかー!!すみませーん!!誰かー!!」
扉を叩く。
「助けて!閉じ込められてるんです!!誰か!!」
ノブを回す。
「だれかッ……誰か、」
壁を背に、崩れ落ちる。ぐるぐると目の前が回って、そのまま俺は意識を失った。
ーーーーー
「空の悪魔は眠り姫だねえ。」
大型をふたつ回して帰ってみれば、今度は扉の前で力尽きていた。逃走を図ったが筋弛緩剤が仕事をしたのだろう。
抱きかかえて定位置に戻してやって、涙の跡を見て頃合だと判断する。
今度は抗不安薬の出番だ。砕いた錠剤をペットボトルの水に混ぜる。
「青井さーん。おら起きろー。」
雑に頬を叩いてやれば低く唸って目を開ける。
「おはよー。喉乾いたでしょ、お水飲もーね。」
「ぅ、え…?ぁ、あ゙ッ、ごふッ、ん゙っ…、」
意識の覚醒を待たずにペットボトルの口を押し込み飲ませる。あーあ、噎せてる、かわいそ。
「…ぇ゙ほッ!げほっ、お゙え…っ、」
「ん、ちゃんと飲めてえらいね。」
「はー…はー…、っう、…?」
噎せた衝撃ではっきりした彼の意識は、薬によってまたぐわりと溶ける。
瞳が揺れて蕩けた。ほんとにアンブレラ様様だよ。
吊り橋効果という程でもないが、まあ、不安でぐちゃぐちゃになったとこにこいつは効くだろうなと思ったまで。案の定青井は理性も自我もふわふわのとろとろにして、虚ろな目で俺を見る。
「怖かったよね。えらいよ。よく頑張りました。」
「ぁ…?ぅあ…、ん…、」
ご褒美のキャンデーを散りばめて、偽物の愛情で不安を埋めてやる。
鳥籠はもう無い。空の悪魔は堕ちた。
「…青井さん。」
「ぅん……?」
「俺と来てくれる?」
「………、」
この羽は、俺のものになった。
「…はい。」
ーーーーー
ここは俺の秘密の隠れ家。
仲間にも明かしていない特別な家。
うっかり壊してしまった彼を置いておくのに丁度いい場所。
「青井くん。おいで。」
「…ぁい。」
ほら、とっても幸せそう。
頭を撫でると猫のように擦り寄ってくるし、待てを命じれば犬のように従順に座り込む。
「…ン…ぅ、う、あ、」
「あれ、薬抜けてきた?ちょっと待っててねー。」
時たま戻ってきちゃうから、継ぎ足し継ぎ足し薬で脳みそを溶かしてやらなきゃいけないのは少し面倒だ。こういうのなんて言うんだっけ、秘伝のタレ?みたいだね。
「あう…っ、あ、ひ、っひ、…っ、」
「怖くないよー、ほら、あーんして。」
「ん…ん…、っん…、」
警察は3日前に捜索を切り上げたらしい。
それ即ち俺の勝ちってこと。
「あ、そーだ!今度首輪買ってあげるよ。」
「……?……んぅ…、」
「ふは、そうだね。ピンクかやっぱ。」
染め上げて、飼い慣らして、飼い殺す。
「いやあ、上手くいくもんだなあ。ね、青井くん。」
ペットは最後まで、責任もって飼ってやろうね。
コメント
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好きすぎる
📡さん最高です!そのクズっぷり大好き!!