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雨の中で踊ろう
梅雨入りした初夏。ジメジメした空気はやっぱり苦手だ。低気圧もあるし髪がまとまらない。ベランダから見える紫陽花は雨の中でも立派に咲き誇ってる。水色だからか頭にふとあいつが浮かぶ
浮気してるあいつはなにしているんだろうか。雨だから水族館とか行ってんのかな
「俺も行きたい」
雨でジメジメしてるからか煙草の火がつかない
カチカチしてたら玄関から疲れきった声が聞こえてきた。軽く返事をしてやっとついた火を消して玄関に向かった
「ほんと疲れたわ…休日出勤とか無理…あの上司ほんま…」
口に手をやりながら会社の愚痴を言う。つらつら嘘並べてバカみたい。バレないとでも思ってるのかな。口触る時は嘘ついてるよね。知ってるよ
初めて会った時から君に恋焦がれてるんだよ。君のことならなんでも知ってる。いつどこで誰となにしてるかなんておちゃのこさいさい
でも君は俺のこと何も知らないね。好きな食べ物とか知んないでしょ、知ってるよ。今年も俺の誕生日忘れてたもんね
「明日も仕事やから夜要らんわ」
タオルを持っていったのにありがとうも無しに言われた一言。
近づくと女物の香水の匂い。嗅ぎなれない匂いは嗚咽が漏れそうなぐらい。君は香水なんてつけないし俺はつけるけどこんなに濃くつけたことはなかった
「うん、わかった頑張ってきてね」
頑張ってきてねホテルに連れ込むの
「行ってくるわー」
こっちの返事も待たずそそくさと部屋を出ていった。俺は都合のいい家政婦かなにか?
まろも、浮気相手も、俺も、この世の人間一人残らず地獄に落ちたらいいのに
*
夢を見た
雨の中、柵の無く、紫陽花が咲き誇る広い橋の上で踊る夢だ。いつかの映画で見た社交ダンスのようで、踊ったことなんてなかったのに何故か踊れている。不思議な感覚だ。相手も──相手は藍白のシャツに瑠璃色のベストを着たまろだ──当然のように踊っている
しかし広いと言っても柵無き橋。不意にまろが足を滑らせ引き込まれるように橋の下に落ちてしまった。悲鳴も抵抗も無く、ただ波と共に流れていくだけだった。
と。
夢だと気付き目覚めた。頭がふわふわして夢だと分かってるのにいつか必ず起きることだと思った。だけど社交ダンスなんて踊りたくないしそもそもまろとなんてまっぴらごめんだ。いや、ダンスなんかじゃなくてただまろが落ちるだけかもしれない
横を見た。隣にいるはずのまろは既にいなかった
まだまだ紫陽花の季節。ジメジメした空気はまだ続くのだろう。世の中にはあじさいの日なるものがあるそうだ。思い切って庭に紫陽花でも植えてみようか
昼。今日も今日とてデートにでも行ったかと思ったが、存外早く帰ってきた
「おかえり、まろ。はやかったね予定あったんじゃないの?」
「なんか無くなったわ。昼ある?お腹すいた」
心做しか少し苛立っているように思えた。女の子にでも振られたのかな(笑) 早速紫陽花の効果がでて嬉しいよ
「そんな急に言われても作ってないよ。あ、俺もまだだしさ折角なら食べに行こ」
久しぶりに2人でご飯を食べて言葉を交わした。でも会社の子ばっかり話してるね。複数人装ってるけどそれ全部同じ子だよね。知ってるよ
〇〇ちゃんだよね、黒髪ロングのポニーテールの子。ケバケバしくて人蹴落としてそうな顔してる子。偏見じゃないよ。ちゃんと調べたから
「俺行きたいとこあるから着いてきてくんない?」
いつかの夢で見たような紫陽花が咲く橋。夢同様、柵も無い
紫陽花綺麗やな、なんてこと言ってなんにも知らないんだね 俺の事
いや知ってても困るけど
じゃあね さよなら。まろが俺を裏切ったときから俺の中でまろは死んでるんだよ
白い紫陽花なんて枯れちゃったね
やっぱり君には青がお似合いだ!
8⁄10