テラーノベル
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星導ショウの部屋は、いつも少しだけ現実味がない。棚に並んだ怪しげな鑑定品の数々。低く流れるジャズ。そして、その中心で「ふふっ」と楽しそうに古書を捲る彼。
「……あ、起きましたか?俺さん」
ソファでうたた寝していた俺に気づき、星導が顔を上げる。その整った顔立ちに、相変わらず現実感のなさを感じて少し気後れする。
「変な顔。俺の顔に何か付いています?」
「いや、そうじゃなくて。……ただ、本当に信じられなくて」
俺の言葉に、彼は少しだけ意外そうに目を丸くした。それから、スッと音もなく隣に移動してきて、俺の額に冷たい指先をあてた。
「何を今更。俺はいつだって、あなたの目の前にいますよ?」
少し冷えた指先とは対照的に、彼の眼差しはひどく熱を帯びているように見える。
星導はそのまま、俺の肩に頭を預けてきた。
彼が時折見せる、この真っ直ぐな好意に、俺はいつも翻弄されてしまう。
「今日、良いですか?」
「…..断っても、離してくれないだろ」
「流石、俺のことをよく分かってますね」
彼は満足げに微笑むと、俺の手に自分の手を重ねた。そのまま顔を近づけたり首に頭を預けたりと甘えてくるように焦らしてくる。
「…..星導。さっきからわざとやってるだろ」
俺はソファに座る星導を押し込むようにして、その顔を覗き込んだ。
星導は驚く風でもなく、流れるような動作で俺の首筋に腕を回してくる。
「何のことですか?」
いつもの涼しい顔。余裕たっぷりの微笑み。
それが今の俺には、どうしようもなくもどかしい。
俺の心臓はさっきからうるさいくらいに跳ねているのに、この男はいつも通り、すべてを見透かしたような目をしている。
こいつの余裕、……どうしたら崩せる?
強引に彼の両手首を掴んで、ソファの背に固定する。
「おや…..。今日の俺さんは、いつになく強引ですね。俺を力づくでどうにかしようとしてます?乱暴だなぁ、」
軽口を叩く星導だが、至近距離で見つめると、その瞳の奥がわずかに揺れているのがわかった。
俺は構わず顔を近づけ言い返す。
「……悪いのは、そうやって俺を試すようなこと言うお前だろ」
「…..つ」
その瞬間、星導の喉が小さく鳴った。
俺の体温がダイレクトに伝わっているせいか、彼の肌が、じわりと淡い赤色に染まっていく。
「……ふふ、あはは。……参りましたね。まさか、物理的に封じられるとは思いませんでした」
星導はまだ余裕を装って笑おうとしているが、その声は少しだけ震えている。
固定した彼の手首からは、速まった鼓動が伝わってきた。
「星導、心臓……すごい速いぞ。これでも余裕だって言うのか?」
「…..それは、……その。俺さんの体温が、少し高いんじゃないですか?」
視線を逸らし、誤魔化すように唇を噛む星導。
さっきまでの余裕はどこへやら、今の彼は、俺の熱に当てられて逃げ場をなくした一人の男だった。
「逃がさないから。……星導の、見たことない顔、もっと見るまで」
俺がさらに深く踏み込むと、星導は諦めたようにふっと息を吐き、熱い視線で俺を見返してきた。
「…..いいですよ。……壊れるくらい、あなたの好きにしてください。……俺さん」
手首を固定されたまま、星導は逃げるのをやめた。
それどころか、潤んだ瞳でじっと俺を見つめ、挑発するように唇を震わせる。
「……どうしたんですか? そんなに熱い目で見て。……早く、してほしいんでしょう?」
その余裕の仮面を、俺は剥ぎ取るように彼の唇を塞いだ。
「んつ、……ふ、…..つ」
深く、互いの輪郭を確かめるような深いキス。星導の鼻から漏れる吐息が、甘い熱を帯びて俺の肺を満たす。
強引に舌を割り込ませれば、彼は一瞬驚いたように身を強張らせたが、すぐに抗うのをやめ、力なく俺に全てを委ねた。
絡まる舌先から、彼の甘い香りが全身に回る。
俺の余裕のなさはもう限界だった。星導のシャツのボタンを指先で乱暴に弾き、その肌に直接触れる。
「あ、…..つ、待って、…..俺、さん…..」
「待たない。」
もう、全部貰ってやる、そんな思いで星導の首筋に顔を埋め、吸い付くように痕をつけていく。
彼は身悶えし、固定されていた手首が、今度は俺の背中に回って、爪が立つほど強く縋り付いてきた。
「……あ、……すごい、熱……。中まで……入ってくる…….」
余裕のあったあの声は、もうどこにもない。
喘ぎ、震え、ただ一人の男として俺を求める。
「……ねえ、星導。今、どんな気分だ?」
わざと意地悪く問いかけると、星導は涙の浮かんだ目で俺を見上げ、なんとか余裕を保とうと、台詞っぽいようなことを掠れた声で囁いた。
「……そんなの、…..言うまでもない……つ。俺が、今……世界で一番、あなたに…..狂わされてること、くらい……つ」
その言葉が引き金だった。
俺は彼の腰を引き寄せ、逃げ場のないソファの角へとさらに追い詰める。
「…..全部、俺に頂戴。星導の全部」
「、……つ。あ……あなたの好きに、して……俺を、壊してみてくださいよ……つ」
星導の腕が、俺の首を強く抱きしめる。
ただ、互いの肌が擦れる音と、重なり合う熱い呼吸だけが、暗い部屋の中に響き渡っていた。
「……はあ、つ、…あ……」
星導の口から、形にならない吐息がこぼれる。
首筋から鎖骨にかけて、俺がつけた赤い痕が、彼の肌の上でひどく淫らに浮き上がっていた。
「星導、ここ……弱いんだな。ビクビクしてる」
「…..つ、そんなこと、指摘…..しないでください……。卑怯、ですよ……」
彼は顔を背けようとするが、俺はそれを許さない。
顎をくいと持ち上げ、無理やり視線を合わせる。彼の瞳は潤み、焦点がわずかに定まっていない。いつも理知的なその瞳が、今は快楽と困惑に支配されている。
俺の指が、彼のシャツの隙間から滑り込み、熱を持った肌を直接なぞる。
腹筋が硬く波打ち、星導は逃げるように腰を浮かせたが、俺はそれを力強く抑え込んだ。
「あ、っ……!そこ……つ、触るの、だめ…っ」
「だめじゃないだろ。……星導、自分でも気づいてないくらい、声出してるぞ」
「……く、……う、っ…..」
星導はもはや反論する余裕もなく、俺の肩に額を押し当てて震えている。
耳元で聞こえる、彼の速すぎる鼓動。
俺がさらに指を深く、彼が最も敏感に反応する場所へと這わせると、星導は弾かれたように背を反らせた。
「……あ、……ああっ!……俺、さん、……まって、…..もう、頭が…..つ」
「待たない。……星導の、見たことないところ、全部貰うって言っただろ?」
俺は彼の首元を甘噛みし、そのまま、より深い場所へと手を伸ばした。
星導の指先が俺の背中に食い込み、震える吐息が首筋にかかる。
「…….つ、……ずるい、人…………、もっと、……あなたで、俺を……めちゃくちゃにして、…つ」
彼はもう、自分から俺を求めていた。
理性という名の薄い皮膜は完全に破れ、そこにあるのは、ただ愛されたくて震える一人の男の熱だけだった。
「…..全部、見せて。星導」
俺が彼を完全に組み敷き、さらに奥へと踏み込もうとしたとき、星導は全てを受け入れるように、熱い涙を一粒こぼして、俺を強く抱きしめ返した。
もはや言葉は意味を成さなかった。
重なり合う肌の隙間から、逃げ場のない熱気が立ち上る。
「……あ、つ、……ああっ……!」
星導の声が、高い密度を帯びて部屋に響く。
俺に組み敷かれ、シーツを強く掴む彼の指先は白く強張っているが、その瞳は恍惚とした熱に浮かされていた。
俺が突き動かすたびに、彼の身体は大きく跳ね、しなやかな曲線を描いて俺を迎え入れる。
「星導…..お前、……俺のこと、好きすぎるだろ」
「……つ、う、うるさ、……い……つ。……俺さんの、せい、でしょう……?」
余裕を気取っていた唇は、今や喘ぎを吐き出すためだけに開かれている。
俺の動きに合わせて溢れる、彼の甘い蜜のような吐息。
俺は彼の腰を強く掴み、逃がさないようにさらに深く、最深部へと自身の熱を叩きつける。
「……つ!あ、ああぁ、っ……!……だめ、……
こ、これ、以上……つ、壊れる……つ!」
壊れればいい。……俺以外、何も考えられないようにしてやる。
俺が彼の首筋を強く吸い上げると、星導は最後の一線を越えたように、ビクンと大きく身体を震わせた。
彼の意識が完全に飛び、視界が真っ白に染まっていくのがわかる。
俺もまた、彼から伝わるあまりの熱量に耐えきれず、叫びたいほどの衝動とともに、彼の中へすべてを吐き出した。
「……あ、……つ、あ……」
星導の腕が、俺の背中に回る。
二人の荒い呼吸だけが重なり、混ざり合い、夜の静寂の中に溶けていった。
どれくらいの時間が経っただろうか。
汗で張り付いた前髪を、俺は優しく指で掻き上げた。
星導はまだ放心したように、天井を見つめて肩で息をしている。
「……星導?大丈夫か?」
声をかけると、彼はゆっくりと俺の方へ首を向けた。
その類はまだ火照り、目尻は赤く滲んでいる。
「…..最悪、ですよ。…..あんなに……無様に、乱されるなんて…….」
そう言いながらも、彼は自分から俺の胸元に顔を埋めてきた。
少しだけ汗ばんだ肌の触れ合いが、先ほどまでの激しさを思い出させて、俺の心臓がまた小さく跳ねる。
「……でも、嫌じゃなかったんだろ」
「…..意地悪ですね。…..俺さんだってあんなに、……求めていたのに……」
星導は少しだけ顔を上げ、俺の顎を指先でなぞった。その手つきは、いつものしなやかさを取り戻しつつあったが、向けられる視線は、先ほどまでよりずっと湿度が高い。
「俺さん。……あなたのせいで、俺の余裕の基準が、完全に壊されてしまいました」
「それ、なんか嬉しいな。……また、壊してやろうか?」
「……今は、……勘弁してください。……このままでいたいです」
彼は俺の腕の中にすっぽりと収まり、満足げに目を閉じた。
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