テラーノベル
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「……え?」
「だから、別れよう?」
もう一度。
一番聞きたくなかった言葉が、今度ははっきり聞こえた。
「な…なんで……」
「分かるだろ」
「分かんないです」
「このままじゃ、グループが終わる」
テヒョンイヒョンの声が震えている。
「おれたちのせいで、みんなが巻き込まれる」
「でも、まだそんなの何も決まってない」
「決まってからじゃ遅いんだよ…!」
ヒョンが顔を伏せる。
「おれ、怖いんだ」
その言葉に、胸が締めつけられた。
「カメラを見るだけで、あの日のこと思い出す。外に出るのも怖い。誰かがこっちを見てるだけで、また写真撮られるんじゃないかって……」
「テヒョンイヒョン……」
「おれらのせいで、みんなまで追いかけ回されたらどうする?」
ヒョンの目に涙が浮かんだ。
「おれが原因でグループがなくなったら、おれは一生後悔する」
「だから、俺と別れるんですか?」
「……うん」
「それでヒョンは幸せなんですか」
答えが返ってこない。
「俺は嫌だ」
「……グガ」
「絶対嫌だ…!」
声が震えた。
「……」
「写真を撮られるのが怖いなら、マスコミが怖いなら、俺が守ります。グループを守りたいなら、俺だって守る…!」
「…無理だよ」
「無理じゃない」
「おれには無理なんだよ!」
テヒョンイヒョンが初めて声を荒らげた。
その瞬間、俺は何も言えなくなった。
「……ごめん」
ヒョンが泣いた。
「グガ、ごめん」
「……」
「好きだよ」
その言葉が、一番残酷だった。
「好きだから、別れたいんだ」
そんなこと。
言わないでほしかった。
「……俺は」
喉が詰まる。
「俺は、好きだから一緒にいたい」
「……」
「ヒョンが怖いなら、俺が隣にいるってば」
「それが駄目なんだよ…!」
「で、でも!」
「おれの隣にいるジョングギまで傷つくから。おれだけならいいんだ」
「そんな…」
「グガまで悪く言われるのが嫌なんだよ」
「そ、それでもいいです!」
「違う!分かってないよ、お前は…!」
テヒョンイヒョンの声が響いた。
「俺はグガを守りたいんだよ!」
その言葉を聞いた瞬間。
俺の目から涙が落ちた。
馬鹿だ。
俺だって同じなのに。
俺だってヒョンwを守りたい。
なのに、守る方法が違うだけで、どうしてこんなに離れなきゃいけないんだ。
「……分かりました」
やっとそう言った。
ヒョンが顔を上げる。
「分かったから……」
俺は必死に涙を拭った。
「今は、別れるってことにします」
「……グガ」
「でも」
一歩だけ、テヒョンイヒョンに近づく。
「俺は待つから」
「……」
「ヒョンが怖くなくなるまで待つ」
「……やめて」
「やめません」
「……」
「だって、俺はヒョンを愛してるんだ…」
ヒョンは何も言わなかった。
ただ、泣いていた。
俺も泣いた。
それでも抱きしめることはできなかった。
廊下の少し向こうに、監視カメラがある。
どこから誰が見ているか分からない。
だから。
俺たちは、最後まで触れなかった。
その日から、本当に別れたことになった。
仕事では笑った。
メンバーとして普通に話した。
ファンの前では、何も変わらないように振る舞った。
でも。
テヒョンイヒョンと目が合うたび、胸が痛んだ。
俺の大好きな人なのに。
隣にいるのに。
触れられない。
恋人として話せない。
見せかけの笑顔の裏では、こんなにも遠い。
◇◇◇
それからさらに数ヵ月。
マスコミの追及は少しずつ収まっていった。
新しい話題が生まれ、俺たちの記事はいつしか過去のニュースになった。
でも、俺たちは戻れなかった。
テヒョンイヒョンは怖がったままだ。
俺はただ待つことしかできない。
そのうち俺は個人の仕事で海外に行き、話す機会はほぼゼロになった。
そんなある日の夜。
久々のグループ活動を終えて、一人で帰ろうとした俺のスマートフォンが震えた。
『少しだけ、会いたい』
テヒョンイヒョンからだった。
いつもの練習室。
俺が着くと、ヒョンは座っていた。
「……お疲れ」
「お疲れ様です」
「こうやって話すの、すごい久しぶりだね」
「そうですね…」
ヒョンが笑う。
以前より少しだけ、穏やかな顔だった。
「おれ、さ」
「はい」
「最近、カメラを見ても前ほど怖くなくなった」
「……そっか」
「まだ不安は残ってるけど」
ヒョンが俺を見る。
「でも、正直ジョングギと別れたことのほうが、ずっと苦しかったんだ」
胸がいっぱいになった。
「……テヒョンイヒョン」
「ずっと考えてた」
ヒョンはゆっくり息を吐いた。
「グループを守りたい。みんなを守りたい。それは今も変わらない」
「うん」
「でも、だからってジョングガを一人で苦しませるのは、違うのかなと思って」
「……」
「俺、やっぱりグガに隣にいてほしい…なんて、ダメかなぁ…」
涙が出そうになった。
「……本当に?」
「うん」
「また怖くなっても?」
「うん」
「俺が隣にいてもいいの?」
ヒョンは少し笑った。
「もちろん。今まで…ごめんね」
俺はヒョンを抱きしめた。
何ヵ月ぶりか分からない。
最初はヒョンの身体が少し震えた。
でもすぐに、ヒョンの腕が俺の背中に回る。
「……ずっと、こうしたかったです」
「……別れたのに?」
「別れてないですよ」
俺は小さく笑う。
「心の中では、ずっと付き合ってた」
「ふふ、何それ」
「テヒョンイヒョンだって、そうでしょ?」
「……うん」
練習室には誰もいない。
カメラもない。
マイクもない。
他の誰かに答えを求められることもない。
俺たちは、しばらく何も言わずに抱きしめ合った。
世間には、きっとこれからも言えない。
俺たちの恋を、すべて説明できる日が来るかなんて分からない。
それでも
俺はもう、テヒョンイヒョンを離さない。
ヒョンが怖いときは、一緒に怖がる。
ヒョンが逃げたくなったら、一緒に逃げる。
「ヒョン」
「ん?」
「帰ろう」
「うん」
事務所を出るときには、ちゃんと距離を取った。
人の目がある場所では、ただのメンバーに戻る。
今はそれでいい。
誰にも知られなくても。
誰にも祝われなくても。
俺たちが知っている。
俺がヒョンを好きで、
ヒョンも俺を好きだということ。
それだけで、今の俺たちには十分だった。
そしていつか。
このことを隠さなくてもいい日が来たら、
そのときは、両手いっぱいの花束で祝福しよう。
end.
コメント
1件
うわ…読んでて胸がぎゅっとなりました。特に「好きだから別れたいんだ」って台詞、すごく残酷で切なかったです。設定として、アイドルという立場ゆえに「守るために離れる」という選択を迫られる構造が、ちゃんと地続きのリアルさを持っていて惹き込まれました。最後の「いつか隠さなくていい日が来たら花束を」という一文に、希望が詰まっていてじんわりしました。素敵な作品をありがとうございます。
#bts
小鳥遊みや
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