テラーノベル
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雪がまだ降る夜――ザインは宿屋の外に、アリアを連れ出した。
まわりには静寂が広がっており、人影も見えない。
そんな中、街灯の灯りが柔らかく……辺りを照らしていた。
「告白?」
「チガウヨッ!?」
アリアに先手を取られたザインは、変な声を上げてしまった。
確かにこんな、ムードのある雪の夜。大きな何かが控えているタイミングでは――
……そう捉えられても、仕方が無いかもしれない。
「ふーん? それじゃ、何の用かな?」
アリアは心当たりが無いようで、不思議そうに聞いてくる。
一瞬自分が悪いのでは……とも思ってしまうが、ザインは堂々と聞くことにした。
「この街を発ったら……俺たち、どこに行くの?」
「え?」
アリアは短く言葉を発して、考えるように雪空を見上げた。
遥か彼方、空の中心から降り続ける雪が――とても美しかった。
「――……ああ! 目的、まだ言ってなかったっけ!?」
「言ってないよ!?」
「そっかそっか……。
他のふたりには伝えたんだけどね。そっちから聞いてないの?」
「こういうことは、本人の口から聞きたいだろう?」
「ふむ、なるほど。あたしたちは、オルビスを殺しに行くんだよ~」
「ほう、オルビスを……」
あっさり返ってきた答えに、ザインはとりあえず満足した。
満足してから、ようやく頭が理解を始める。
「――……はああぁーっ!!!?」
ザインの大きな声が雪の街に広がった。
反響は無かったものの、とりあえず迷惑行為ではある。
アリアは咄嗟にザインの後ろにまわり、彼の口を両手で押さえ付けていた。
「一応、極秘事項だからね? あたしたち以外には内緒だよ!」
「むぐむぐ……ぷはぁ。
そそそ、そりゃ、そんなこと、誰にも言えねぇよ!?」
「まぁ――」
……アリアは何かを言おうとして、口にするのを止めた。
ザインに言ったら、怒り出してしまうに違いない言葉。
「うん? どうした?」
「……ううん、何でもない。情報屋は、やっぱり行くのを止めても良いよ?」
「ふっ。お前の隣は、俺の特等席だからな!」
「告白?」
「違うっての!!」
「そっかそっか。でも、あたしの目的を聞いたのに――冷静だね?」
「さすがにもう、慣れたからな。一度でも驚けば、それだけで充分だよ」
「ほぉ~。便利な性格ですねぇ」
アリアはザインを、しみじみと眺めた。
ザインとしては、褒められているのか何なのか……正直、よく分からなかった。
「――あ、そうだ。この街はオークションが有名なんだってな」
「うん? ……近くにダンジョンがあるからね。
そこで見つけられたものが、オークションを通して世界に流れていくんだよ」
「ふむ、それも神の加護ってやつか……。
……ところで、何でその……神を殺すの?」
「あたしが、嫌いだから♪」
「えぇ……。いやいや、さすがにそれだけじゃ無いだろ!?」
「ふふふ♪ これ以上は、秘密だよぉ~」
アリアの言葉に、ザインの胸は苦しくなった。
アリアがどれだけのものを抱え込んでいるのかは分からない。
ただ、このままでは――
「アリアちゃんの秘密暴露カード……は、俺、今持ってる?」
「んぁ? ……そうだねぇ、ヴェルガ教の問題も解決したし……。
1枚だけ……ある、かな?」
以前、アリアの口から唐突に出てきた、そのカード。
あのときはその場のノリだったのかもしれないが――
ザインはここで、突然思い出したのだ。
「――ふふふ♪
それで情報屋は、アリアちゃんから何を聞きたいのかな?」
「お前は――……今、不安か?」
想定していなかった質問に、アリアの動きが止まった。
彼女はこれからの――自分が死ぬかもしれない戦いを前に、どんな質問でも答えようとしていた。
それが彼女の人生に関することでも、世界の秘密に関することでも、神の秘密に関することでも――
……しかしザインからの質問は、ただの、気持ちの問題。
アリアは大きめに溜息をついてから――静かに言った。
「――不安だよ。戦いになれば……たぶん、一瞬で結果が出ちゃうから。
ちゃんと上手くいくかな……? 運悪く、何か問題が起きないかな……? もしかして、誰かが死んでしまうかな……?
……少しでも間違えれば、全てがダメになる。……あはは。今さらなんだけど――」
「大丈夫だッ!!」
ザインの大きな声。
アリアの言葉は遮られ、それ以上のことは何も言えなくなる。
……ザインは静かに、アリアを抱きしめた。
冷たい空気が動く中、ザインの静かな温もりがアリアに伝わってくる。
「――これ、告白?」
「違うって言ってるだろッ!!」
……その言葉に、アリアはくすくすと笑った。
それを見て、ザインも少しだけ笑うことができた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――メルヴィナとガルドは、宿屋の食堂にいた。
ザインがアリアを連れて外に行ったので、今はふたりきりだ。
「……ねぇ、ガルド。あなたは……平気?」
「これからの戦い……のことですか?」
ガルドの言葉に、メルヴィナは静かに頷く。
「緊張はしています。ただ、アリアさんも、お嬢さんもいますから」
「……そんなことを言ってると、ザインさんがまた泣くよ?」
「アイツは泣かせてやるくらいが丁度いいんです。
やればできる男なんですから」
「あれ? 結構、認めてるんだ?」
「ふふっ、どうでしょうね……」
ガルドは手元のグラスに口をつけ、強い酒を煽った。
この街に着いてから、そうしていることにメルヴィナは気付いていた。
「――とにかく、お嬢さんのことはオレが守ります。
だから、お嬢さんは自分の役割に集中してください」
「自分の、役割――」
そう呟くと、メルヴィナは視線を下に落とした。
「……私、実は……まだ、どうしていいのか分からないの。
オルビス神を、殺せるとは思えない……。それを手伝っても良いのか、分からない……」
メルヴィナの震える手を、ガルドはそっと握った。
「オレも、神はもう信じておりませんが――
……本当に正しいかどうかは、分かりません。
信じている人がそう言うから……だから、戦うだけです」
「……信じている、人――」
――果たしてアリアは、信じられる人物だろうか。
大好きで、頼りになって、尊敬していて、でも謎が多くて――
……ある意味、自分にとっては神のような存在……でもあるのか。
メルヴィナがそう思い至った瞬間、手から伝わる温もりを感じた。
「――あっ、ガルド!? 手……」
「す、すいません! つい……!」
ガルドは慌てて、自分の手をメルヴィナの手から離した。
そして少しだけ、気まずい空気が流れていく。
「ガルドは……この戦いが終わったら、フィオナ様のところに行くんだよね。
私は、どうしようかな……」
「オルビス神が信用に値する存在なら、大聖堂に復帰するのも――」
「……ふふっ。それならアリアさんみたいに、異端諮問局に入ろうかな?」
「それも良いかもしれませんが……外回りは、かなり大変ですよ?」
「そうなんだ? アリアさんを見ていると、とてもそうは思えないんだよね……」
「ははは。それは確かに……!」
戦いの後のこと――
……そんな話をしながら、ふたりの夜は更けていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――数日後、雪はどうにか止んでいた。
準備はその間に全て整え、心構えも何とか……という状態だ。
「メルちゃん、予習はばっちり?
やっぱりまだー、って言うなら、もう少し滞在しても大丈夫だよ?」
「いえ、もう完璧ですから。この街にいると、いろいろと考えてしまいますし」
そう言うメルヴィナの肩を、アリアは優しく叩いた。
「ところで――旦那の装備、イカしてるなぁ……」
「そうだろう? アリアさんが面倒を見てくれた剣と盾だ。
うむ、惚れ惚れするデキだな」
「……むぅ。俺には何かないのー?」
ザインの言葉に、アリアは軽く答える。
「あるけど、今は渡せないんだよねぇ」
「えっ!? 本当にあるの!?」
「うん。たぶん、使えるはず……なんだけど」
「その不安になるテンション、何なんだよ……!」
「まぁ、使える場所に着いたら渡すね。乞うご期待~♪」
アリアが期待しろと言うのであれば、本当に期待ができるのだろう。
お約束のように、少し不安な要素が入ってはいるが……まぁ、それも今さらだ。
ザインは軽く、拳を握りしめた。
そして4人は、一度だけ街の方を振り返ってから――
人通りのない雪道を、北に向けて歩き始めていった。
#鳴海弦
コメント
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みぅです🤍『ふたりとふたり』第54話、読みました…! アリアに「オルビスを♡♡♡に行く」ってあっさり言われて慌てるザイン、可愛すぎる(笑)でも最後に「不安か?」って聞いて抱きしめるところ、すごくザインらしい優しさだなって思いました。ガルドとメルヴィナの夜の会話も、それぞれの覚悟と不安が伝わってきて胸がぎゅっとなる…。4人それぞれの距離感が、じんわり温かいエピソードでした🌙