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蒼月
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グリルタ
72
「……勝者、クロード・ヴァルネ!」静寂に包まれていたコロシアムに審判の困惑混じりのアナウンスが響き渡り、ワンテンポ遅れて観客席から地鳴りのような怒号と歓声を混ぜ合わせたどよめきが湧き上がった。
『な、なんだ今の組み手は!?』
『雷鳴のエレナが無詠唱の超高速戦術を使ったのに、一瞬で封じ込められたぞ!』
『嘘だろ……180倍のオッズが、また跳ね飛ばされた……ッ!』
頭上で群衆が大騒ぎする声を聞きながら、俺は膝をついたままの電撃娘にフッと鼻で息を吐きかけた。
「さて、と……これで二回戦突破、本戦ベスト4進出か」
「うう……足が痺れて動かない……。クロードの意地悪……」
「怪我がないならさっさと立ち上がれ。次が詰まってる」
悔しそうに涙目で見上げてくるエレナをその場に残し、俺は外套の襟を立てて、ゆったりとした足取りで選手退場口の地下通路へと向かった。ポケットの中で、窓口から受け取った換金手形がズシリと重い。180倍の払戻金。これでハンスの闇ルートから最新型の光学迷彩と、特殊高圧C4爆薬の追加ロットが余裕で手に入る。
満足感とともに本日何度目かの欠伸を噛み殺した、その時だった。
冷え切った地下通路の奥。
明かりの届かない薄暗がりの中から、**暴力的なまでの「熱量」**がゆらりと立ち昇った。
皮膚が焦げ付くような不快な空気。
俺は足を止め、懐の消音拳銃のグリップへそっと指を滑らせた。
ゆっくりと影の中から姿を現したのは——豪奢な黄金の刺繍が施された外套を纏い、威風堂々たる佇まいで俺を見下ろす男。
双子の兄、ルシアン・ヴァルネだった。
『……見事な小細工だったな、クロード』
ルシアンの低い声が地下通路に響く。
これまでのあいつは、俺のことなど視界にすら入れず、ただの「ハーフの出来損ない」として虫ケラのように無視を決め込んでいた。あいつの瞳に宿っていたのは、絶対的な高みから見下ろす無関心と哀れみだけだったはずだ。
だが——今のあいつの瞳には、明確な**「警戒」**と、獲物を品定めするような刺すような視線が宿っていた。
『カミラの岩石鎧を貫いた不気味な鉛の筒。そして今日の、エレナの生体電流を逆流させた細鋼線……。魔力測定にも引っかからぬゴミ屑だと思っていたが、どうやら人間界の薄汚いドブネズミの技を溜め込んでいたらしいな』
「……何の用だ、ルシアン。次の試合の出番だろ。脳筋エリートらしく、派手な火炎魔法で観客を沸かせてこいよ」
俺が気怠げに言い放つと、ルシアンの周囲の空気が一瞬で赤く灼熱した。
『口の減らない奴だ。……だが、認めざるを得んな。お前はただの出がらしではない。我がヴァルネ家の名を汚す『異端の刃』だ』
ルシアンが一歩、踏み込んでくる。
あいつが纏う絶対的な【熱操作魔法】の圧力が、ビキビキと地下通路の石壁にヒビを入れていく。
『サバイバル予選を姑息に生き残り、本戦で二度の奇跡を起こした。……だがな、クロード。お前のその薄汚い小細工や時間稼ぎが、俺の絶対的な破壊力に通用すると思うなよ。決勝のリングに上がってこい。お前が幼少期から積み上げてきた悪あがきを、その小細工ごと骨も残さず灰にしてやる』
「……フッ」
俺はフードの影で、冷酷に口角を上げた。
かつて屋敷で俺を見下し、「生かしてやる」と嘲笑っていた男が、ついに俺を「倒すべき敵」として意識し始めた。俺の仕掛けた現代兵器と暗殺戦術が、あいつの完璧な自尊心に小さな亀裂を入れ始めた証拠だ。
「熱くなっといてアレだが……決勝で俺と戦いたければ、お前こそ途中で足をすくわれるなよ、ルシアン」
「なにい……?」
「お前が大雑把な火力に酔いしれている間、俺はお前を殺すための準備を、あと百個は積み上げられるんでな」
すれ違いざま、俺は冷ややかに言い捨て、あいつの横を通り過ぎた。
ルシアンの背中から伝わってくる、凄まじい殺意と灼熱の威圧感。
あいつはまだ気づいていない。自分がただの「熱操作の天才」ではなく、その裏でいかに異常な存在に変貌しつつあるのかを。そして、俺があいつの絶対的な破壊力を解体するために、どれほど冷徹に牙を研ぎ続けているかを。
(……待ってろよ、ルシアン)
地下通路を抜け、薄暗い自室へと戻りながら、俺は静かに愛用の拳銃を取り出した。
(お前が信じるその『完璧な天才』の幻想を、本戦のリングで鉛の弾丸とともにぶち破ってやる)
コメント
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第21話、読み終わりました!ルシアンがついにクロードを「敵」として認識し始めたのが熱いですね。魔法と現代兵器の対比が鮮やかで、特に「小細工」という言葉に対するクロードの反応が好きです。決勝での対決が楽しみで仕方ありません。設定の積み上げ方が丁寧で、伏線の効き方も巧み。次話が待ち遠しいです!