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「○○ちゃん、部屋掃除しとくねー。って言 っても、そんなに汚れてなさそうだど……」
日曜の昼、○○は「ちょっと外に出たい」と 言って、ひとりでコンビニに出かけた。 元気そうな声だった。でも、遥楓にはどこか元気に感じられた。
静まり返った○○の部屋は、まるで誰も住ん
でいないみたいに整頓されていた。 ベットもきれいに整えられていて、机の上に は何も置かれていない。
だけど、それが逆に不自然だった。
ふと、ベッドの下に掃除機をかけようとしゃ がんだとき– 奥に小さな箱が見えた。
透明な薬のシートが数枚。そのほとんどが、空だった。そして、丸められた包装紙の中には、飲み残した白い錠剤が一粒だけ。
「…… これ、まさか」
遥楓は手を震わせながら箱の中を覗き込ん だ。
診察券、処方箋のコピー。
その日付は1年以上前のものだった。
病名は書かれていない。でも、どう見ても
ーー 睡眠導入剤。
「なんで、こんなものが…..」
遥楓は、○○の机の引き出しを開けた。 日記のようなノートが、そっと置かれてい た。
普段は絶対に人のものを勝手に見ないように していた。
でもそのときだけは、胸がざわついて、手が 止まらなかった。
――今日、久しぶりに痛くした。
――何も感じなくなればいいと思った。
――海、楽しかった。でも….. バレなくてよか った。
――いなくなりたい。いなくなりたい。いな くなりたい。
ページの端が涙で滲んでいた。
遥楓は膝から崩れ落ちた。
「….. なんで、気づかなかったんだよ…..」
頭を抱えて、声を殺して泣いた。 一緒に暮らしてるのに。毎日、見てるつもりだったのに。
なのに、○○はこんなに苦しんでいた。
すぐにスマホを手に取り、○○に電話をかけ た。
でも、通話は繋がらない。
留守電が流れる。
「○○、…… 今、どこ? ごめん、本当にごめん。何も気づいてなかった。……. お願いだから、帰ってきて。どこでも迎えに行くから。 頼むから、声を聞かせて…..」
自分の声が震えているのが分かった。 この家で、○○を守れると思ってた。 笑わせてやれると思ってた。 でも、全部独りよがりだったんだ。
そのとき–
玄関のドアが、かすかに開く音がした。
遥楓は飛び出すようにリビングへ走った。
そこに立っていた○○の顔は、青白く、足元 がふらついていた。
「○○!」
「…… ただいま…….」
次の瞬間、○○の体が崩れるように倒れた。
遥楓はその小さな体を抱きとめた。
「○○っ!!」
その腕の中で、○○はかすかに震えていた。 冷たい手。焦点の合わない瞳。 遥楓はすぐに救急車を呼んだ。
このとき、彼は心に誓った。 もう二度と、○○をひとりにはしないと。