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――ガキイィイイイィインッ!!!!
ルークとシルヴェスターの剣が、大きな音を立ててぶつかりあった。
そしてそのまま、力の込もった競り合いが始まる。
それに続いてジェラードもシルヴェスターに斬り掛かった。
しかし死角を突いていたにも関わらずあっさりと避けられ、シルヴェスターはルークとの組み合いからも距離を置く。
そして再度、間髪入れずにルークの元へと飛び込み、ルークはシルヴェスターの剣を受け止める。
ジェラードも次の攻撃を加えようとするが、流れるような動きでシルヴェスターはそれを躱していく――
「……まるで、踊っているみたい……ですね」
攻撃のタイミングを見計らうエミリアさんが、静かにそう呟いた。
シルヴェスターを中心に、ルークとジェラードを巻き込んでいる。戦いの流れは、確かに踊りのようにも見えた。
……『演武』と言った方が良いのだろうか。
まるで最初から決まった筋書きを観せられているような、あまりにも調和した戦いが、目の前で繰り広げられている……。
「ふむ……。さすが、この時代の最高峰の英雄。
ルークとジェラードではちときついか……」
不穏なことをグリゼルダが言った。
目の前で繰り広げられている戦いは2対1。人数的には有利のはずなのに、特に有利だという印象はまるで無い。
「あの速さだと、私は参加できませんね……。
デルドフィングを消滅させるにしても、少しは動きが止まってくれないと……」
今戦っているルークとジェラード以外では、ここにはあと5人がいる。
私、エミリアさん、グリゼルダ、リリー、マイヤさんの5人だ。
この中でシルヴェスターを直接足止め出来るだなんて、グリゼルダくらいしか――
「妾もあれは、無理じゃのう」
「え? ……あれ? いけるかと思ったんですけど」
「まぁそこそこは戦えるじゃろうけどな。
しかし妾はこの身体になって以来、他人と連携なんぞしたことが無いんじゃよ。
あの戦いに入っていったとしても、ルークとジェラードの邪魔をしてしまうじゃろ」
……なるほど。慣れや経験が足りないから、あんなスピードの戦いには付いていけない……という意味か。
エミリアさんが攻撃をしないのだって、結局は動きが速すぎるせいだし……。
つまり人数は7対1ではあるが、実質的には2対1。
しかもその時点で互角という、今はそんな状況なのだ。
「――ふむ、面白い。
君たちはなかなかの実力者ですね」
「それはどうも――ぐはっ!?」
戦いの途中、ジェラードがシルヴェスターの蹴りを食らい、大きく吹き飛ばされてしまった。
蹴りの隙を突いてルークが強烈な剣撃を浴びせ掛けるも、シルヴェルターはそれを軽く受け止める。
余裕――というほどでは無いが、十分に余力を残している状態だ。
「君の剣筋には、私に通じるものがありますね」
シルヴェスターは距離を空けて、ルークに語り掛けた。
「ディオボルグ様に修行を付けて頂きましたからね。
あなたもそうなんでしょう?」
「……ほう、あの方を師事したんですか。
なるほど。それなら君は|弟《おとうと》弟子というわけだ」
ディオボルグ――というのは、王都でルークの修行を見てくれたお師匠さんのことだ。
この名前はなかなかに有名で、エミリアさんも最初から知っていたほどだった。
「あなたが真っ当な英雄であれば、私も誇らしかったのですが」
「ふっ。生意気なところは、まさに弟のようだ。
兄のことは、もっと尊敬しなければいけませんよ?」
ルークの皮肉に、シルヴェスターが心を乱される様子はまるで無い。
……しかし今は動きが止まっている。ルークとの間合いも絶妙だ。
私がルークの後ろまでいけば、そこは錬金術の射程範囲。
そこまで行くことができれば、神剣デルトフィングだって消滅させられる……!
シルヴェスターが神器持ちのルークに渡り合えているのは、神剣デルトフィングの存在が大きい。
神器同士がぶつかりあっているのだからそれは当然の話で、つまりどちらかが無くなってしまえば、この戦いの均衡は崩れる。
多少危ない目に遭ったとしても、均衡さえ崩れてしまえば私たちの勝ち――
「シルヴェスター! 提案があるのですがっ!!」
「……ほう?」
突然の私の言葉に、戦いの糸は途切れた。
それを確認してから、私はゆっくりとルークとシルヴァスターの方へと歩いていく。
戦う意思が無いと見せ掛けるため、両手には何も持っていないことを示しながら。
「アイナ様! ここは危険です!」
「良いから良いから、大丈夫だから!」
「しかし……!」
「ふふっ、なかなか肝が据わっていますね?
さすがは|弟《おとうと》弟子のご主人様だ」
シルヴェスターはルークを煽るように話し掛けた。
ルークはまともに取り合わないとは言え、何かあればすぐにでも突っ掛かっていきそうだった。
……少しずつ、私とシルヴェスターの距離は詰まっていく。
もう少し――……一歩、二歩、三歩……。
私はルークの後ろまで辿り着いた。ここなら私の、錬金術の射程範囲――
「――っ!?」
その瞬間、シルヴェスターは後ろに跳ねて、私たちから距離を取った。
「「「!?」」」
突然のことに、私もルークもジェラードも、その驚きを隠せない。
「……お嬢さん、何かを狙っていましたね?
おお、怖い。さすが神器を作る実力者だ。まだまだ隠していることがあるというのですか……」
「何を言っているんですか? そこは話すには遠いですよ?」
「しらばっくれても無駄です。
私にはね、人と違った感覚が備わっているのですよ。君のまわりは、何だか危険だ」
……ちょ、ちょっと待って!? それ、どんな感覚なの!?
「アイナ様、どうしますか……?」
「うぅ、デルトフィングを消しちゃおうと思ったんだけど、無理っぽい……。
ごめん、また時間を稼いでくれる……?」
「かしこまりました!」
そう答えるや、ルークはシルヴェスターに突っ込んでいった。
シルヴェスターはシルヴェスターで、それ以上のことを私に聞いてくることは無かった。
……完全に不発。そして、とっても恥ずかしい……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――その後も戦いは続いていった。
基本的にはルークとシルヴェスターが戦い、サポートとしてジェラードが加わっている。
ジェラードの動きが少し鈍くなったときにはグリゼルダが交代したものの、グリゼルダが最初に言った通り、ルークとの連携は散々なものに終わっていた。
「……はぁ、何とも情けない」
「まぁまぁ。おかげでジェラードさんも、少しは休めましたから!」
私にはそうフォローするのが精一杯だった。
それにしても気になるのは、シルヴェスターの体力だ。
普通に考えれば、こんなにも動きまわっていれば、体力はどんどん削られていく。
ルークは例外的に、神剣アゼルラディアの効果で疲労が癒えていくけど――
……そう考えると、シルヴェスターがこんなにも疲れないというのは不自然なことだった。
「シルヴェスターって、動きが鈍りませんよね……?」
「うむ、人間にしては不自然じゃな。普通であれば、ジェラードのように疲れてくるものじゃし……。
……実はあやつと戦ったとき、少し違和感があったんじゃよ」
「違和感、ですか……?」
「馴染んでいない力がある……という感じかの?
よくは分からなかったんじゃが……」
――そのとき、ルークとシルヴェスターが斬り結んでいた音が止まった。
見れば、ジェラードを含む三人が少しの間を空けて、足を止めて対峙している。
「――うん、実に面白い戦いだ。ただ、そろそろ時間が惜しくなってきましたね。
私としても、半年以上振りの地上なんです。今日くらいは早く休みたいものでね」
「それなら、さっさとやられてくれないかなぁ♪」
シルヴェスターの言葉に、ジェラードが疲れながらも明るく言った。
「私にはやることがあるんですよ。
……しかし私の力では、君たちを倒すことはできないようだ。君たちも同じことでしょう?」
「アイナ様にあなたの目的を伝えれば、内容によっては双方無事で……終わらせることができるでしょう」
「いや、それは無い。……あのお嬢さんが私の目的を聞いたとしても、同調する未来は見えないですね。
それに騙し討ちのようなことを狙う方ですし……、ねぇ?」
……う。
神器を消そうとしたのが、完全に裏目に出てしまった……。
「それなら、どうしようって言うのかな?」
「仕方ありません。私のとっておきを出すことにしましょう」
そう言いながら、シルヴェスターは彼のアイテムボックスから小さな瓶を取り出した。
やはりアイテムボックス持ち……というのは置いておいて、瓶の中にはキラキラとしたものが入っていた。
しかも――
「それはッ!!」
一番驚いたのは、グリゼルダだった。
瓶のまわりには薄っすらと、水色のオーラが漂っていたのだ。
シルヴェスターは胸元に手を入れて、そこからも小さな欠片を取り出した。
……その欠片は、薄っすらとした水色のオーラを纏っているようだった。
「おや。もしかしてそちらの女性、これの正体をご存知でしたか?
まったく、そんな知識をどこで得たのやら……」
「皆の者! あれは『螺旋の迷宮』のダンジョン・コアじゃ!!
砕けてはいるが、まだ力が残っておるから――」
……その瞬間、水色のオーラがシルヴェスターを包み込んだ。
どこからともなく、何かが軋むような音が聞こえてくる……!
「この力、私は完全に取り込むわけにはいかないんですよ。
しかし不完全に取り込むとなれば、化け物のように暴れ狂うしかない……」
「そんな、自暴自棄な!!」
「なに、大丈夫です。君たちを倒し終えて10分もすれば、すぐに元に戻るでしょう。
次に私が気が付いたときには、君たちはもう全滅している――といった寸法ですね。
……それでは、さようなら」
「ちょっと待って!? 私たちに興味があるって言っていたのは――」
「この力を使えば、何事も多少は融通が利くんですよ。
本来はあまり使いたくは無かったのですが、1回も2回も同じことでしょう?
精度は下がるでしょうが、君たちの死体からいろいろと探ることにしますよ」
その言葉を聞いて、背筋に悪寒が走った。
何て気味の悪い言葉――
……そしてシルヴェスターの身体は、徐々に筋肉が膨張していった。
身体に水色のオーラを取り巻かせながら……。
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しめさば
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