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「中国の背中見て育った奴はみんな我の兄弟アル。」
切れ長の瞳をきらりと光らせ、柳の枝のように細い指をピンと立てながら中国さんはそう言った。
「『中国の背中』って……共産党推しの人のことですか?」
先日のアメリカさんの顔が頭をよぎる。
「毛沢東は我々の偉大なる父親です。」
「突然のプロパガンダ。」
学校で習うんアルよ、と中国さんはほんの少し眉を顰めた。
「お久しぶりです、中国さん。」
「久々ネ。我、最近ちょっと忙しかったヨ。」
「そうでしょうね。既読つかないのでなんとなく察してました。」
「アイヤー…残業なんて懲り懲りネ。お前は大人になったら残業するんじゃねぇアルよ。」
まぁ日本人には無理か、と哀れみの眼差しを向けられる。
「よく眠れる動画送りましょうか。」
「猫アルか?」
「パンダです。」
我ん家のやつ、と中国さんは笑った。
「そういえば国宝展に行って曜変天目見てきました。」
まずそうな名前アルな、という呟きに思わず笑ってしまった。
「中国原産のお茶碗ですよ。」
「へー。染め付けアルか?」
「いえ、茶色いお茶碗なんですけど、光の加減で虹色に光るんです。」
「ふーん…でも聞いたことないヨ。」
「なぜか中国にはもうないそうです。現存しているのが世界で日本国内の3点だけだそうで。」
「金印は一回失くすくせにそれは残ってるんアルか。」
もっともなツッコミである。
「あ、そういえば我、今年の春節日本旅行したヨ。」
「何それ知らん。」
和歌山行ってきたヨ、と嬉しそうに報告し、中国さんはパンダの顔がプリントされたキャップを被った。
「日本行って中国出身のパンダ見てきたんですか?」
「国宝展行って中国出身の茶碗見てきたんデスか?」
お互いのもっともなツッコミに笑い合う。
「うわっ!きめぇアル!!」
「何が。」
曜変天目、今ググったアルよ、と中国さんが唇の端を痙攣させながら言った。
「目ん玉茶碗アル!!こりゃ中国人失くすネ!!」
よくこんなきめぇの残してたアルなぁ、と中国さんがメガネを拭く。
「そういや最近メガネなしだとモニターが霞んで見えるんアルよ。」
「老眼ですか。」
「お前もすぐわかるヨ。」
丁寧に拭いたメガネをなぜか雑に放ったのを見届け、再び口を開く。
「実物はキモくなかったですよ。」
「阿?…曜変天目アルか?」
頷く。
「はい。多分、特徴を前面に押し出すために光量上げて撮ってるんだと思うんです。」
それで乱反射して目ん玉茶碗になるんアルね、と納得したように頷いた。
あっ、と中国さんが薄い瞼を見開く。
「実物と違うといえば!」
突然の大声に、耳がキンと軋む。
「パンダ!パンダアル!!!」
「何ですか……」
バン、という音と共に画面が縦に揺れた。
「日本は何でもかわいくしすぎネ!おかげで我はアドベンチャーなワールドに現金根こそぎ持ってかれたヨ…!!」
「…来日して中国にかえるパンダに魅せられた中国人の末路…。」
(終)