わたしは人を焼いたことが、ある。
いや、正しく申しますと、人であったものが焼けるのを、ただ見ていた、というのが事実でございます。
わたしは何もしておりません。ただ、ただ、そこに立っていた。それだけなのです。
名もなき人夫でした。
死体を運び、穴を掘り、黙って埋めるだけの、つまらぬ暮らしでした。
酒も、女も、夢も、ありません。生きるというより、腐らぬように保っていただけでございます。
あの日――
土の下から、細い手が出ていたのです。白く、細く、まるで死人のように。いや、死人でございました。
けれど、その死体には、札がついておりました。金の札で、裏にはこう書かれていたのです。
「触レル者、死罪」
わたしは、読めなかったのです。愚かでしょう?笑ってやってください。
それからのことは、夢の中にいたようなもので。
屋敷に引きずられ、役人の前に立たされ、問われました。
「貴様、喰ったな?」
何を、でしょう。
わたしは、ただ埋めようとしただけなのです。泥をかけて、見なかったことにしようと。
けれど、もう――遅かった。
名が与えられました。
「人鬼・喰屍郎」
それはまるで、悪意のある冗談のように思えました。
拷問が始まりました。
指は落とされ、眼は潰され、舌は抜かれ、耳も鼻も失いました。
けれど、なぜでしょうね、死ねなかったのです。
生きていたのです。
わたしは、もう人間ではなくなっておりました。
ただの、“罪”という物語に仕立てあげられた、肉の標本だったのです。
そして最後に、
江戸城前の広場にて、火が灯されました。
わたしは、焼かれました。生きたまま、焼かれました。
煙の中で、わたしは見ました。
子どもが、笑っておりました。
「こわーい」「人鬼だー」
坊や。わたしは、鬼ではありません。
ただ、少しばかり、運が悪かっただけなのです。
――口が、開きました。
けれど、何も出ませんでした。
喉が焼けて、声はすでにどこか遠くへ行ってしまっていたのでしょう。
でも、もし言えたなら。
「オレは……ただ、埋めてただけなんだ」
きっと、そう言ったと思うのです。
火だけが、やさしかった。
コメント
5件
何かもう胸糞悪すぎて好き"!!!!!! 口角 再び宇宙への旅に...(?)