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ヴァルヘッドが轟音を上げて発進しようとする瞬間、ラビが腰に手を当てて大声を張り上げた。
「心配すんな! 後方支援は全部あたしが仕切る! 怪我人も補給も迷子も、ぜーんぶ引き受けてやるから、あんたらは前だけ見て突っ走りな!」
その声には、いつもの茶化す調子と同時に、仲間を後ろから支える確かな自負が滲んでいた。
吠える獣のごとき轟きと共に、ヴァルヘッドは檻を破った猛獣のように戦場へと解き放たれた。
砂煙を巻き上げながら正門を突き破り、侵略者を迎え撃つため前線へと駆け出す。
敵に雇われた傭兵たちが怒号と銃声を撒き散らしながら前線を押し上げ、その最後方、戦場の結末を見届けるかのように、黒い突撃車は悠然と控えていた。
ヴァルヘッドは戦場を切り裂くように疾駆した。
ハンドルを握るカイの両腕には、無駄な力みも迷いもない。
かつての荒削りさは影を潜め、今の彼には研ぎ澄まされた鋭さと冷静さが宿っていた。
敵が榴弾を撃ち込めば、彼はギリギリのタイミングで車体を傾け、爆風を後方に受け流す。
敵車両が前を塞ごうと車線を変えれば、カイは瞬時にアクセルを踏み抜き、わずかな隙間を縫って滑り込む。
その一連の動きは激しさの中にも淀みなく、まるで流水の如く流麗だった。
重装甲の巨体が、大地を滑る獣のごとき俊敏さを帯びて動く。
振動も衝撃も彼の手綱のもとでは制御され、戦場の荒波を自在に駆け抜けていく。
それは確かに、カイという男が二か月で掴み取った「進化」の証だった。
レナはヴァルヘッドのボンネットに立ち、全身で巨大な荷電粒子砲を抱え込んだ。
かつての体では到底扱えなかったであろう重量が、いまや逞しく鍛え上げられた腕と肩に吸い付くように馴染んでいる。
銃身の内部に収束する光が青白く脈動し、低く唸るような振動が車体全体を共鳴させた。
「――撃つ!」
次の瞬間、砲口から奔った閃光は、ただの光線ではなかった。
空気を裂き、砂を弾き飛ばし、まるで神雷を凝縮したかのような破壊の奔流だった。
閃光が走った軌跡の先で、敵の突撃車両は装甲ごと粉砕され、爆炎と共に四散する。
衝撃波が周囲の瓦礫や兵士を吹き飛ばし、地面に深く焼き付く黒い線が残った。
「なっ……!?」
敵兵たちは恐怖に声を上げる間もなく、次弾が収束する。
レナの指が再びトリガーを引く。
轟音と閃光が連続して奔り、車両の群れが次々と焼き払われていく。
粒子砲の咆哮は、ただ破壊するだけではない。
音そのものが戦場を圧倒し、味方と敵の心臓を震わせる。
――強化されたレナの荷電粒子砲は、もはや一撃で戦局を覆す「決戦兵器」へと進化していたのだ。
ヴァルヘッドのフレームは厚い装甲で覆われ、その重量によりレナの強化された荷電粒子砲の衝撃を受けても微動だにしなかった。先ほど撃ち放たれた青白い光が敵の車列を一瞬で灰に変えても、ヴァルヘッドは揺るぎもせず、地を掴む巨獣のように不動の存在感を誇示していた。
「……いい車ね」
レナは短く言い、粒子砲を肩に担ぎながら微笑を漏らした。
その声には、まるで新たな相棒を見出したかのような響きが宿っていた。
荷台の上でボリスは、巨躯に似合う重機関銃をがっしりと抱え込んでいた。
「弾種変更、対装甲弾だ!」
彼が叫ぶと、自動で弾帯が滑らかに切り替わり、火を噴いた銃口から鋼鉄を穿つ光跡が走る。
通常弾では人影を薙ぎ倒し、焼夷弾では車両を火柱ごと爆散させ、徹甲弾では装甲を貫き、敵兵ごと地面に縫い止めた。
轟音と硝煙が渦巻く中、彼の射撃は機械のように正確で、周囲の雑兵たちは次々と地に伏していった。
二つの獣が、砂塵と轟音を挟んで睨み合う。
吹き荒れる砂塵が視界を奪い、焦げた装甲片が風に舞う。
その中で、二台の車両はまるで戦場に生き残った捕食者同士のように、距離を保ちながら相手を見据えていた。
クロエの視線がレナを射抜いた。二か月前の彼女とはまるで別人の姿――厚みを増した腕と肩、膨張した軍服の縫い目。クロエの唇がわずかに動く。
「…あなた………大きくなっ……」
一瞬の逡巡の後、彼女は咳払いをして言い換えた。
「……車が、大きくなったわね」
だが、次の瞬間。
ハンドルを握るライルが無骨に吐き捨てた。
「……なんだお前。だいぶ肥えたな」
その一言に、場の空気が凍りつく。
クロエは下を向いて舌打ちをし、カイとボリスは同時に顔を引きつらせ「やばい」と小さく呟いた。
レナは静かに一歩踏み出し、粒子砲を構え直す。
その瞳には揺るぎない炎が燃えていた。そして、戦場の喧噪を圧するほど低く強い声で言い放った。
「――お前を……殺す」
その言葉が、次なる戦場の幕開けを告げる号砲となった。