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今すぐ両手で紗理奈の艶やかな真っ黒の髪を、弄べるなら何でもするというのが、直哉の正直な心境だった
紗理奈をここに連れて来た安堵感が、直哉の胸に広がっていた
ここは紗理奈のいた海辺と違って湿気は少なく、日中はカラッとしている
そして「暑さ寒さも彼岸まで」とは、よく言ったものだ、少しづつだが空気に秋の気配が混じっている
山の上はずっと空気がやわらかくて、呼吸がしやすくなるし、早朝や深夜はクーラーなどいらないぐらい涼しい
都会育ちの彼女の家では、24時間室外機と空気清浄機が回っていた、あまり健康によろしくないと直哉は思っていた
人間は日の光を浴び、夜は眠るようになっている
今は青白くてひょろひょろしている彼女でも、お福さんとも気が合いそうだし、きっとこれからどんどん健康的に元気になるだろう
直哉はふー・・・とため息をついた
歩いていても彼女の小さな手をとりたいという、衝動が突き上げてくる、ずっと彼女のどこかしらに触れていたい
しかしもはや気楽に彼女には、触れられなくなっていた、彼女のお腹の中には自分の分身が、密かに生命を宿しているとんでもなく神秘的だ
アリスが妊娠していた時は、まったくの他人事だったし関心が無かった
直哉は必死になって彼女と愛を交わすことを、考えないようにしていた
紗理奈をベッドにいざなって、あらゆることをしてみたかった、彼女は自分の妻になると言ってくれたのだ、その権限は自分にはあるはずだ
彼女の中にゆっくりと身を沈め、時には流れに身を任せ、時には絶頂を引き伸ばしつつ、何度も動きを繰り返す
紗理奈を上に乗せたり、自分が覆いかぶさったりしながら、ぴったりと彼女の中に入ったまま、いつまでも揺れるのだ
彼女の体毛ひとつない、その華奢な体を自分の唇で絶頂を迎えさせ、血流を良くしてあげたい・・・・
直哉はまたいかんいかんっ!と首を振った
今は仕事だ!
自分でも自覚がある、紗理奈と離れたくない一心で、今朝からまったく仕事が出来ていない
そろそろ放牧地の拠点に向かわないと、従業員のみんなに迷惑をかけてしまう
きっと今頃指示待ちの連中が直哉を待っている、遅れて行って従業員達の怒りの表情と、向き合うのはもちろん避けたいが
でもその前に母屋に行ってコーヒーでも・・・喉も渇いたし・・・紗理奈は母屋のどこかにいるはずだ
直哉の全身が紗理奈の傍にいたいと、叫び声をあげていた
結局その葛藤を解決してくれたのは、直哉の尻のポケットに入っているスマホだった
従業員の催促の電話で直哉は事務所を後にし、両方の人差し指を口に入れ、大きく口笛を三回鳴らした
直哉のホイッスルのような口笛は、大きく放牧地に響き、山を反射して木霊が辺りに3回響いた
すると蹄の音を鳴らしてディアボロスが走って来た
そこらへんで遊んでいたのだろう、直哉に生まれた時から育てられて、彼の寵愛を一番に受けている自覚がある彼女は
この牧場を女王のように闊歩している
人間の言う事を聞くのは直哉ただ一人、鞍など一切装着させない
自由な彼女と直哉は愛し合っていた
直哉は笑い声を上げながら走り出した、ディアが直哉の走りにぴったり添うように駆ける
鞍を付けていないディアの鬣を、直哉が掴んで飛び乗った
「B拠点へ!」
直哉は叫んだ、行き先を告げれば後は振り落とされないように、バランスを取るだけだった
ディアは直哉の行きたい所、何処へでも連れて行ってくれる、そこから二人(一匹と一人)は風になった
直哉はディアの背中に乗って思った、数か月前なら自分には人を愛する才能が、ないのだと開き直っていただろう
しかし、一人の女性の登場でその考えは根底から覆された
紗理奈を守り、すべてを与えてあげたい、魂の奥底から彼女とお腹の子を、幸せにしてやりたいと思うこの気持ちは、愛以外の何物でもない
これまでの人生で覚えた経験のない感情だ
ただそれを口に出すタイミングがさっぱり、わからない
直哉は考えるのをやめた、もしかすると思っているだけで良くて、わざわざ口に出す必要もないのかもしれない
きっとそうに違いないと思うことにした
紗理奈が母屋の応接室に入ると茶髪で肩までの、ボブカットに大きなアーモンド色の瞳をした、快活そうな女性がお福と一緒にいた
その女性が紗理奈を見た途端、弾けたように嬉しそうに立ち上がった
「ああ!!やっと会えたわ!サリー!なんだか幻のポケモンを見つけた気分!はやくここへきてお話しましょう!」
・・・サ・・・サリー?( ˙࿁˙ )
女性の横でお福がクスクス笑っている
「もう!アリスお嬢様ったら、サリー様がびっくりなさってますわよ!まずは自己紹介からされないと 」
サリー様・・・( ˙࿁˙ )ポカーン
自分がそんなあだ名で呼ばれているのに、初めは驚いたが彼女がすぐにナオのお兄さんの奥さんだとわかった、彼女も何度かテレビで見たことがある、初めて彼のお義姉さんに会うんだから、しっかりご挨拶せねば―
「あ・・あの・・・初めまして・・私は― 」
「どんなに私があなたに会いたかったかわかる?あなたのおかげで今ナオ君とっても幸せそうだわ、今朝なんか5センチ浮いてたわよ、それでね!それでね!庭に転がってる優斗の三輪車をジーッと見て(こんなのに乗れるのは何歳ぐらいからかな?)って私に聞いてくるのよぉ~ 」
キャハハハとアリスが机をバンバン叩く、ブーッと横でお福が口元を抑えて吹き出している、この二人が大の仲良しなのは誰の目にもあきらかだ
思わず紗理奈の緊張は解け、おかしくて笑ってしまった
彼のお兄さんの奥さんのアリスさんは、この島の人間ではなく、日本で随一の宝石商の娘さんだ
その事は島の人間なら誰でも知っている、紗理奈でさえも聞き及んでいる、彼女は有名人だ
そしてしばらく接してみてわかった事だが、義理の姉になるこの人の性格は、とっても明るくてあっけらかんとしている
なぜかこの島の人間特有の、紗理奈の二人の姉のように噂話が好きで、陰気な他人の目を気にして生きているような、感じはまったくなかった
数分と話しただけで紗理奈はアリスが大好きになった、彼女は人好きの世話好きで善の塊だ
実の姉二人よりも、よっぽど気が合うに違いないと、紗理奈は一瞬で自覚した
「結婚してうちの家族の一員になるなんて、けっこう大変でしょ?みんな個性が強いから、でもこれだけは言わせて!ナオ君があなたを紹介してくれるのを私、ずっと待ってたのよサリー!ようこそ成宮家へ!あなたが家族になるなんて本当に嬉しいわ!」
「まぁ・・・こちらこそ!色々至らないですけど・・・よろしくお願いします」
ずっと孤独だった紗理奈は嬉しくて泣きそうになった、すると途端にお福とアリスが紗理奈を前にモジモジしだした
「あの~・・・それでね?サリー・・・身内になったよしみで、お願いがるんだけどぉ~・・」
だんだん「サリー」呼びに慣れて来た、紗理奈は手を祈りのポーズでアリスに言う
「まぁ!何でもおっしゃってください!ええ!なんでも!」
エへへへ「あなたの本にサインして欲しいの(アリスちゃんへ)って出来れば入れてくれたら、嬉しいなぁ~なんて・・・」
「あ・・あたくしは(お福ちゃん)・・・」
そう言って二人は紗理奈の著書とマッキー(黒)をサッと差し出した、恥ずかしそうに照れている二人の態度に、紗理奈はマッキーを握りしめ大声で笑った
ああ・・・おかしい・・・こんなに笑ったのはいつぶりだろう、紗理奈はとても嬉しくなって言った
「もちろん喜んでサインさせて頂きますわ、読んで下さってるなんて驚きました!」
「嬉しいっ!じつはまだあるのだけどいい?これはレオ君のママでしょ?お母様でしょ?あと貞子さんからも頼まれてて~ナオ君があなたと仲良しなのは島中で有名で・・・」
「まぁ!アリスお嬢様!サリー様が大変ですよ!あの~・・できればあたくしの主人の分も・・・あと橋本養鶏所の奥さんもサリー様のファンだって・・・」
紗理奈の前にドサッと積み上げられた本を、置かれて紗理奈はまた大爆笑して言った
クスクス「まとめて持ってきて!」
姉の千秋も言ってたけど、直哉と自分の事はそんなに有名だったんだと改めて驚いた
そこへバターンと大砲のように応接室のドアが、開きパンドラの箱を開けた時のような、騒々しさと共にアリスの子供4人が入って来た
紗理奈はそこからずっと笑いっぱなしだった