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場面が変わり、見慣れた部屋の中に移動する。
入り口付近に付属される長机に綺麗に並べられた飲料類。
青年が慣れた手つきでそれらを操作すると同時に、『彼』は疲れ切った様子で奥に配置された大きな机へと顎を打った。
「傲慢で、我儘で?その上に幼いぃ〜?」
どうやら彼は先程、うちの総統はこんな人だと紹介した文が気に入らなかったらしい。
青年は淹れ終えたコーヒーを二つのカップに注ぎながら笑う。
「でも本当のことでしょ?」
夏の暑さをかき消すような、青く、綺麗な珍しいカップを机の上に置く彼。
『彼』は目の前に置かれたカップに目も向けず、中央にあるフカフカのソファに腰を掛ける青年をジト目で追っていた。
ふてくされたように盛大に膨らませた頬は、青年に気が付かれることはないと悟り萎んでいく。
「それにしても言い過ぎなんじゃない?てかこの毒々しいカップ何?こんなのあった?」
「ああ、珍しいカップだよねそれ。レウさんが置いてくれたのかな?」
あぁ、思い出した。
「へぇ〜、なんか飲む気失せる色ね」
『彼』がカップに口を付ける。
「総統様のイメージカラーでもあるんだけどね?」
ゴクッ
__ガシャン
ゆっくりと瞼を開けると、いい匂いがした。
まだ動かしにくい胴体を起こしながらいい香りのする方へと視線をやると、湯気の立つスープがそこにはあった。
木製のお盆にちんまりと置かれたそれは、どうにも色合いが合っていなく、変な感じがした。
足元から小さな寝息が聞こえる。
視線を向ければ、赤色の彼がすやすやと眠っていた。
彼の目の下には大きな隈が出来ていることに気がつくと同時に、自分の血に塗れた服が変えられていることにも気がつく。
彼のことだ。
元総統様と勘違いをしてしまった挙句、幹部が酷い仕打ちをしてしまった客人への少しのお詫びとして看病してくれたのだろう。
彼はとても…優しいから。
「あ」
声がした方へと視線を向けると、紫色の綺麗な瞳と目が合った。
無意識に撫でていた赤毛から慌てて手を離す。
白衣姿の彼を最後に見たのが、多分前世の僕の最後だっただろうか。どうにも思い出せない。
無線機に手を当てようとする紫色の彼。
「…えーっと…、」
近くで揺れていたIDケースを掴んでいたらしい。
困り果てた彼の顔を見たのはいつぶりだろう。
とてつもなく嬉しくなる。
「どうしたの…?手離せる…?」
首締まっちゃうからさ、と笑顔で言う彼をもっと困らせたくて、更に目一杯下へと引っ張ってみる。
勢いよく下に引っ張ってしまったからか、はたまた強く頭に振動がいったせいか、うなだれて何も話さなくなってしまう目の前の彼。
ゆっくりと無線機に手を伸ばす。
「…運営全員しゅーご〜」
比喩として、あくまで比喩として、彼の口が耳まで裂けたように見えたのは、気の所為だろうか…?
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