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彼女は知っていた。
ヒソカの愛は、刃のように鋭く、決して優しくはないことを。
「君は僕のもの♠」
あの夜、彼がそう言ったとき。
薄暗い路地裏、血の匂いと雨の音。彼女は目を逸らさずに笑っていた。
「……へぇ、勝手に所有しないでくれる?」
声は震えていなかった。
本当は怖かったのに、口調だけは平然を装った。
ヒソカは、にやりと唇をつり上げる。
「その口調、いいねぇ……ゾクゾクする♣」
狂気。
それが最初の印象だった。
だが彼のそれはただの異常ではなかった。
鋭く、的確に、彼女の内側を抉るように食い込んでくる。
彼女は逃げようとした。何度も、何度も。
けれど、逃げれば逃げるほど、彼は嬉しそうに言った。
「もっと見せてよ、君の本音♥」
「見せないわよ。……見せたら、壊されるって分かってるから」
「壊したいわけじゃないよ? 僕は、愛してるんだ。君が僕を殺すその日まで、僕は君を愛しているよ♠」
彼女は息を呑んだ。
その言葉がどれほど異常で、どれほど真実か、分かってしまったから。
「……ねえ、ヒソカ。それって、殺されたいって意味?」
「うーん……違うかなぁ。殺される可能性ごと愛してるってだけさ♥」
くすくすと笑うその姿に、背筋が冷たくなる。
けれど不思議と、彼女の胸は痛くなかった。
この人の中にいる自分が、確かに誰かとして存在しているその事実だけが、妙に心地よかった。
「バカじゃないの。私、はあんたなんか絶対に殺さない」
「うれしいなあ♣ でも、いつか殺してくれてもいいよ?」
「……そうなったら、あんたは笑って死ぬんでしょ」
「うん。すっごく幸せそうにね♥」
彼女は笑った。
呆れるように、諦めたように。
「……最低。ほんとに、最低」
でも、その最低を捨てきれないのは、自分だ。
彼が近づくたびに息が詰まって、
笑うたびに鼓動が狂って、
名前を呼ばれるたび、全身が熱を持つ。
「どうして、あんたなのよ……」
ぽつりと呟いた彼女の言葉に、ヒソカは静かに言った。
「それはね、君が……とっても楽しい子だから♠」
愛している。殺したい。壊したい。手放せない。
ヒソカの好きは、彼女を血で染める甘い毒。
けれどその毒の味を、一度覚えてしまったら、もう戻れない。
「その日が来るまで。」
「うん?」
彼女は、ゆっくりとヒソカに微笑んだ。
「……せいぜい私を楽しませて。じゃなきゃ、すぐ飽きて殺すかもよ?」
ヒソカは喉を鳴らして笑った。
「ゾクゾクするねぇ……♡ 君のそういうところ、大好きだよ」
そして彼女は思う。
この男を、きっと私は殺せない。
でもきっと、殺したいほどに、愛してる。
そんな狂気の中で、彼女は生きている。
ヒソカの掌の上で、咲く毒の花のように。