テラーノベル
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照明の落とし気味の居酒屋の片隅
金曜日の夜の喧騒から少し切り離されたその半個室のテーブルの上には、空いたグラスと、すっかりぬるくなったビールのジョッキが乱雑に置かれている
河村「……ねぇ、みんなさぁ」
呂律の回っていない声の主は、河村だった
普段の動画で見せる飄々とした知的な面影や、冷徹なまでにロジカルな思考の片鱗はどこへやら、髪は少し乱れ、眼鏡は鼻梁をわずかにズリ下がっている
頬はいつになく真っ赤に染まり、視線はどこか遠くを彷徨っていた
完全に酔っ払って、べろべろの状態だった
河村「俺なんてさぁ、所詮は、ただの文字のパズルをこねくり回してるだけの人間なの。……わかってるの。頭いいふうに見せてるけど、中身なんか空っぽ。空虚。誰も俺の本質なんて見てないし、もし見られたって、あまりのつまらなさにがっかりされるだけなの」
普段は内に秘めているはずの思考が、アルコールの力と、ここ数週間のハードスケジュールによる蓄積疲労によって、堰を切ったように溢れ出していく
とめどなく湧き上がる自虐と卑屈な言葉
河村は机に肘をつき、額を手のひらに乗せて、深く、深くため息をついた
河村「クイズだってさぁ、いつまでも面白がってもらえるわけないじゃん。いつか飽きられる。その時、俺に何が残るの? …何もないの。俺が明日突然消えたって、QuizKnockはびくともしない。……いや、むしろ、俺みたいな面倒くさい理屈をこねる奴がいない方が、動画も組織も、もっとスムーズに回るまであるよね。あはは、なんなんだよ俺って。いなくてもいい存在じゃん、最初からさぁ……」
乾いた笑い声を上げながら、河村は自分の世界に閉じこもっていく
その底なしのネガティブ発言と、あからさまな体調の悪さに、隣に座っていた須貝が苦笑いしながらグラスを置いた
須貝「おいおい河村、どうしたんだよ急に。神が泣き言なんて、珍しいじゃんか」
河村「泣いてねえし……! 事実だし……! 須貝さんみたいにさ、まっすぐ生きてて、周りを明るくできる人間とは、根っこの構造が違うんだよ……」
河村は机に突っ伏しそうになりながら、潤んだ目でぶんぶんとかぶりを振る
対面から、伊沢拓司がじっとその様子を見つめ、やれやれと小さく息を吐いた
伊沢は河村のグラスの中身が完全に空になっていることを確認し、メニューを閉じる
伊沢「飲みすぎたな、完全にキャパオーバーだ。体調ももともとちょっと悪かったろ、今日。顔色、最初からあんまり良くなかったぞ」
河村「伊沢ぁ……お前はいいよな、いつも中心にいて、みんなを引っ張って、キラキラしててさ。俺みたいな、日陰でジメジメしてる陰気臭いやつとは住む世界が違うんだよ。お前は、星見て死にたくなったことないだろ?…俺の言葉なんて、誰の心にも届かないんだ……」
いつもなら「そんなことない」と飄々とかわすはずの男が、ここまで明確に弱音を吐くのは珍しい
それだけ心身ともに追い詰められていたのだろう
ふくら「はいはい、ネガティブ大爆発タイム終了。ほら、お水飲んで」
ふくらPが、いつの間にか店員にお願いしていた冷たいお冷やの入ったグラスを、スッと河村の前に差し出す
しかし河村はグラスを受け取ろうともせず、ぐにゃりと曲がった、どこか悲しげな笑顔で呟いた
河村「水なんて飲んだってさ、汚れた根性は綺麗になんないよ……。あーあ、もう全部投げ出して、どこか遠くの、誰も俺を知らない海の底にでも沈んで消えちゃいたいなぁ。そうすれば、誰も俺に期待しないし、俺も誰も裏切らなくて済むのに……」
徹底的な自己否定
その様子を少し離れた席から見つめていた山本祥彰が、呆れたような、しかしどこか温かみのある優しい苦笑いを浮かべて、河村の背中をポンポンと叩いた
山本「消えるとか言わないでください。海に沈んだら、次に面白い企画やパズルのネタ、誰が出すんですか。俺たちが困るでしょ、純粋に。河村さんの頭の中がないと、QuizKnockの面白さが半分減っちゃいますよ」
河村「……俺の代わりなんて、いくらでもいるもん…もっと若くて、もっと優秀で、もっと素直な奴がさぁ……」
伊沢「いないよ」
すかさず、しかし強い調子で言い切ったのは伊沢だった
真剣なまなざしで、突っ伏しかけている河村の目を覗き込む
伊沢「河村が作るあの変な問題、河村が不意に発する斜め上の視点、あれは河村拓哉っていう人間にしか作れないの。お前がそれを一番分かってないだろ。お前がいないQuizKnockなんて、俺は想像もつかないし、そんなの全然面白くない」
須貝「そうそう。酔うとすぐそうやって殻に閉じこもるんだから、困るんだよなー」
須貝が豪快に笑い飛ばしながら、河村の肩をがしっと抱きすくめる
その大きな手の温もりと、言葉の端々から伝わる絶対的な信頼に、河村は一瞬だけ言葉を詰まらせた
ふくら「体調悪いのに無理して付き合わせた俺たちも悪かったね。ほら、もう帰るよ。立つよ」
ふくらPが優しく声をかけ、山本と両側からそっと河村の腕を支えて立ち上がらせる
アルコールと疲労で膝が笑っている河村は、驚くほど素直に二人に体重を預けた
伊沢と須貝が手際よく荷物と伝票をまとめ、ヨロヨロと足元のおぼつかない河村の体を、しっかりとみんなで支え上げる
河村「……みんな、優しい…? いつもみんなを困らせてばかりなのに……」
須貝「困らされてねえよ! ありがたく支えられとけ!」
須貝のからっとした声が響く
店を出ると、夜の冷たい風が5人を包み込んだ
少しだけ正気を取り戻した河村は、メンバーの肩にすがりながら、ぶつぶつと小さく文句を言いつつも、その表情はどこか安心したように緩んでいた
家路につくタクシーの中で、河村はすっかり眠りこけてしまった
その寝顔を見つめながら、ふくらPは「明日、絶対に本人は恥ずかしがるよね」と小さく笑う
伊沢も「盛大にいじってやるか、それとも優しくスルーするか、明日の河村の態度次第だな」と楽しそうに返した
ネガティブの底に落ちてしまっても、必ず引き上げてくれる仲間がいる。ぶつぶつと言い訳を重ねる神と、それを当然のように支える仲間たちの、ある静かな夜の出来事だった
@ mn .
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コメント
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うわ、癖にぶっ刺さった!!
朝ちゃんと見れなかった〜、もったいねぇ〜 マジで、最高、好き、可愛い、好き()
最高すぎないか? 初めて読んだけど、神だ、 言葉遣いが綺麗すぎ 神にはやはりこうなっていて欲しい()