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ディオンに会えないまま、また一ヶ月が過ぎてしまった。
明日の夜、城で舞踏会が開かれる。
シルヴィには行くと伝えたが、正直リディアは出席するか悩んでいた。今こんな状況下で舞踏会などに出れば針の筵になるのは目に見えている。
リディアは、深いため息を吐く。
本音を言えば出席などしたくない。だが欠席したらしたで、また何を言われるか分からない。どちらに転がっても事態が好転するのは難しいだろう。
別に何か悪い事をした訳でもないのに……まるで今の自分は罪人か何かの様だ。
(私が悪いの?)
最近では自分の所為でディオンまで悪く言われている。ふとあの日、叔父から言われた言葉を思い出した。
『リディア、お前はグリエット家の人間ではない。何時迄も屋敷にいられたらディオンも迷惑だろう。それくらい分からんのか』
『やはり子爵家などの下級貴族者の女の娘だな。頭も悪い。母親も、未婚で子を孕む様な碌でもない人間だ。よく似ている』
あの時は頭にきて言い返したが、今思えば叔父の言う通りかも知れない……。
事実、自分の所為でディオンに迷惑を掛けている。周囲もリディアが子爵の血筋だと分かり、嘲笑っている。誰もが叔父の様に考えているのだと思い知らされた。
(私はグリエット家に、居てはいけないのかな……)
『リディア、聞いて頂戴。何時か……必ず貴女には、困難に立ち向かわなければならない日が来るわ。それは必然であり避ける事は出来ないの。でもね、この先何があろうとも、貴女は貴女よ。自分を見失ってはいけないわ。何者にも屈する事の無い強い意志と誇りを捨てないで……大丈夫、だって貴女はあの人の血を引いてるんだもの』
懐かしい夢を見た。
あれは、母が亡くなる少し前の事。あの時は、まだ幼いリディアは半分も理解出来なかった。
だが意味は分からなくとも、不思議と言葉だけは覚えていた。今ならあの頃より母の言っていた意味は分かる。
ただ……分からない事も多い。
まるで予言の様な言葉。何故母は、自分が困難に立ち向かう事を必然だと断言したのか。あの人……つまり自分の本当の父親だが、それは一体誰なのか……。
(私はどうしたらいいの……お母様……)
憂いを帯びた、だが強い眼差しの母が微笑む姿が見えた。
リディアはゆっくりと瞼を開けた。床に膝をつき、ベッドに突っ伏している。どうやら寝てしまった様だ。
「お母、さま……?」
寝惚け眼で窓の外を見遣ると、日差しが差し込み眩しかった。
ゆっくりと身体を起こし立ち上がる。窓辺へ歩いて行くと、窓を開けた。朝の爽やかな空気が風と共に部屋へと流れて込み心地が良い。
「お母様、私……」
母は、聡明で優しくて強い人だった。厳格な父にも決して臆する事なく、血の繋がりなど関係なく兄にも自分にも分け隔て無く接していた母。
ーー今の自分とは似ても似つかない。
莫迦で弱くて自分の事で精一杯で、誰かを気遣うなんて到底出来そうにない。こんな娘を母が見たら、情けなく思うだろう。怒るだろうか、悲しむだろうか、それとも見放すだろうか……。
「ねぇ、お母様……」
ーー私もいつかお母様の様になれますか……?