テラーノベル
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遥か昔のとある場所での話
「摩訶不思議だ」
この状況を表すのならば普通の不思議では足りないだろう。
言霊を偽っていた「彼奴」が天に堕ちた
本来なら地獄に堕ちたと表現すべきだろう
だが、私にはそうすることができない
なぜなら、彼奴は“皆に愛されてたらしい”
残された人間たちは皆愛おしそうに彼奴のことを話す
その姿を地獄とは言い難いだろう
言霊を偽っていた彼奴が愛されていたという事実を前に、私が“感じたい”思いは故に自由自在だ
奇しき術が転じた先には「まほろば」があるという
まほろばとは、素晴らしい場所、住みやすい場所のことらしい
だとすると私にとってまほろばとはここだろう
なぜならここには「あなたが居る」から
私にはあなたが居るから、今日も生きる痛みを思い知らされる
「愛してるとごめんねの差ってまるで月と太陽ね」とわたしは貴方に問いかけるけれども届かない、届けていない
「また明日会えるからいいや」とわたしは思う
こうやって伝わらない想いを先延ばしにしてしまう
「何一つ学びやしない魂も」とわたしはわたしを責める
貴方をまた思う今世も
私はあなたに奉仕する
私の「こうしたい」とかよりあなたの「こうして欲しい」が聞きたい
奉仕する側という立場上、私心を捨て、力を尽くさなければならないのだから言われたことをやることの方が楽なのだ
こんな言われることを聞くだけの世界が思いの外自分軸だなと思う
このことを思いつくのは想像に難しくないが鈍感なあなたは気づかないだろう
今日も笑顔で私に仕事を任せてくれる
私はあなたに想いを寄せてしまっている
私のあなたが居るからまほろばとなったこの素晴らしい場所は奉仕の場であり、私たちは雇い、雇われの関係なのだ
このような立場だから私は私心を捨てなければならない
もう少し違うところであなたと出会えていれば苦しまずに済んだのだろうか
いや無理だな
彼奴は言霊を偽っても皆に愛された
嘘をつくことに躊躇がない人にとってこの世は「極楽」だろう
そうやって死んだ彼奴を横目に「正直になれない」私はいつか
素直になれて愛嬌もあるあの子に私のまほろばである奉仕の場も私の立場も何もかも色々と遅れては奪われてしまうのだろう
そうわかっていても私はあなたには正直になれない
「愛してると大好きの差ってまるで月と月面ね」とわたしは貴方に問いかけようとするけど言葉が喉につかえてしまう
「呑んだ言葉が芽を出して身体の中にずっと残れば」
わたしは想いを伝えることを諦め大切に身体の中に残した
「この気持ちが伝わればいいのに」
「この気持ちを伝えられればいいのに」
伝え合っていない想いは次第にも行き場を失い恋模様が拗れていくようだった
季節が巡り次の章に入った
貴方が墓標に入ってしまった
結局わたしは想いを伝えられず永遠の別れを迎えてしまった
石になった貴方の歌を口ずさんで歩く
わたしは「ひとりじゃない」と笑う
私は病で死んだ
分厚めの次の本とあなたを残して
あなたが私の歌を口ずさんで歩いている
ひとりの夜も私の歌があれば怖くないとでも言いたげだ
「愛してるよ」「ごめんね」「じゃあね」
生きている時には伝えられなかった言葉たちをあなたに伝えていく
だけどまるで夜の太陽のようにあなたから私は見えなくなってしまった
『クスシキ』神秘的な摩訶不思議な時間の流れで私はあなたと言う大切を見つけた
貴方をまた想う来世も
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