フェラルーシアです。ティナに連れられて遂に地球へとやってきました。アードの時もそうでしたが、開拓船で生まれ育った身としては大地に足をつける瞬間は感動します。壁の無い何処までも広がる世界、そして青空はそれだけでワクワクさせてくれますから。
そして現地機関の異星人対策室の皆さんから心からの歓待を受けました。ティナから話は聞いていましたし、アリアを通じて観察していましたが本当に好い人ばかりです。地球人を調べる過程で警戒心を強めていた私としては、嬉しい誤算でした。彼らとなら仲良くなれそうな気がします。
それ以外に助かったことは、服装についてです。地球の服装は多種多様で文化の違いもあり、非常に興味深いものです。履き物もアードやリーフに似たようなものはありましたが公的な場ではあまり推奨されず、あの革で足を包み込むような形の履き物が一般的とされているのを知った時は絶望しましたね。
今の履き物でさえ長時間履いていると落ち着かないのに、あの靴と呼ばれる履き物を履こうものなら終始イライラしてしまったかもしれません。
リーフ人は足を圧迫されるのを嫌うと言われていますが、否定は出来ません。その通りです。両親も可能な限り裸足で過ごしていましたし、私もそれは変わりません。
ティナが足フェチ天国とか呟いていましたけど、意味は分かりません。
さて、異星人対策室で歓迎会を開いて貰い地球の食べ物に接した私は感動しっぱなしでした。ティナが持ち帰ってくれたのは保存食の類いでしたからね。それでも充分すぎるくらい美味しかったのに、新鮮な食材を惜しみ無く使った料理の美味しいこと。ついつい食べることに夢中になってしまったのは恥ずかしい思い出です……。
陽が暮れて夜の町並みを満喫した私達は、そのままティナのために用意された部屋で過ごすことにしました。そこでティナは地球のネットワークに接続して、私との写真を流していましたが……何をしていたのかな?
アリアの話だと私の存在をインターネット上に公開してしまったのだとか。私については明日現地政府が公表することになっていた筈なので、つまりこれはティナのいつものうっかりだと判断できます。
私個人としては見ていて微笑ましいのですが、急遽準備を進めていた現地人の皆さんの苦労を考えると……うん、今度リーフに伝わる栄養ドリンクを差し入れしよう。ティナがお世話になってるんだし、お詫びしておいた方がいいと思う。
その晩はそのままティナと一緒に眠った。ティナが居ないとあの日を……悪夢を見ることが多いから、できるだけ一緒に寝たいって想いは秘密です。
翌日、疲れきった笑顔を浮かべるジョンさんにティナが平伏して謝っていたので私も謝罪した。土下座と言って地球で最も格式高い謝罪する姿勢なのだとか。よく分からないけど私も真似してみたら、ジョンさんがスゴい顔をしていた。
そのままティナは地球各国の首脳と会談に臨み、私は合衆国大統領のハリソンさんとの面会に臨んだ。
「フェラルーシアです。親しい人からはフェルと呼ばれています」
「合衆国大統領のハリソンだよ。それなら私もフェル嬢とお呼びして良いかな?」
「はい、もちろんです」
地球最大の国家元首、ティナにとっても大切な後ろ楯ですからね。私も仲良くしないと。
堅苦しい挨拶の後は軽い雑談を交わしました。ただ、私の生い立ちなどを話したら凄く場の雰囲気が沈んでしまいましたが。お葬式みたいに。
聞かれたから正直に答えましたけど、楽しい話題ではありませんよね。ちょっと反省です。
「でも、今は毎日が楽しくて。これもティナのお陰です」
「それは良かった。いや、君もティナ嬢に救われたんだ。その点で私達は同じだね」
「はい、同じです」
ハリソンさんは笑顔だ。確かに奇妙な共通点はある。警戒しすぎたかな……?
そのまま穏やかにハリソンさん達とお話をしていたんですが……。
『マスターフェル、緊急事態です。ティナが現地犯罪者集団と交戦を開始しました』
突如としてアリアから信じられない報告が入ったんです。ティナは別室で会談をしている筈なのに!
でも、じっとはしていられない!
「フェル嬢!?」
「ごめんなさい!ティナのところへ行きます!」
ハリソンさん達が驚く中、私は窓から外へ飛び出した。二対の羽根を目一杯広げて一気に大空へと舞い上がる。
何処までも広がる青空、広大な陸地は感動するくらい綺麗でしたが、今はそんな余裕はありません。アリアの導きに従って全力で空を飛びます。
リーフ人はアード人に比べて飛行速度が遅い。普段は気になりませんが、今はこの遅さに焦りと苛立ちを感じます。
現地上空に到達すると、倒れているティナを発見。周囲にたくさんの地球人が居ます……撮影してる人が居る。
『ティナの周りに居るのは現地医療技術保有者です。携帯端末で撮影を行っているのは、所謂野次馬かと』
……ティナは見世物じゃない!
「アリア!」
『畏まりました。周辺のネットワークを妨害。撮影者についてはピンポイントハッキングを実施。映像を削除します』
「あっ、あれ?電源が切れた!?」
「なんだよ!?配信の途中なのに!」
「スマホが壊れた!?」
「ふざけんなよ!」
ふざけてるのは貴方達ですよ!でも、今は我慢。
地面に降り立った私に周囲の視線が一気に集中するのを感じながら、倒れているティナへ駆け寄った。
「ティナ!」
「わっ!?君は!?」
「羽根がある!?」
医療関係者さん達を驚かせちゃいました。でもこの地球人達はティナを助けようとしてくれている。感謝です。
「ありがとうございます。アリア、状態は?」
しゃがみこんでアリアにティナをスキャンさせる。医療関係者さん達は道を開けてくれた。
『マナ欠乏症の症状が現れています。意識レベル低下を確認しました。速やかな休息を推奨します』
「分かった」
「その、聞きたいことたくさんあるが君はティナ嬢の仲間かな?」
「はい、友達です。ティナを診てくれてありがとうございます」
「いや、我々にはなにも出来なかった。ただ安静にするしか……」
「彼女には皆が救われたんだ」
「ただ、我々と身体構造が異なるだろうし下手なことは出来なくてな……」
よく見ると、ティナは地面ではなくマットの上に寝かせて貰っている。出来ることをしてくれたんですね。
「ティナ嬢は大丈夫だろうか?撃たれたように見えたのだが」
そこへ近寄ってきた……警察官?さんが話し掛けてくれた。
……は?
「ティナが……撃たれた……?」
『あの地球人です』
アリアが示した先には、今まさに連行されている地球人の一人が居る。
それを認識した瞬間考えるより先に身体が動いてしまいました。
突如としてアスファルトの地面を砕くほどの勢いで大地を蹴ったフェルは犯罪者達へ急接近し、握り拳を振り抜いた。
その手がティナを撃とうとした男へ届く直前、飛び込んだジョンが受け止めた。凄まじい衝撃波が周辺を襲い、燦然と輝く虹色のアフロを跡形もなく吹き飛ばしてしまう。
だが彼はそれを気にせず、むしろフェルを気遣うように声をあげる。
「ダメだ、フェル!そんなことをすればティナの頑張りが全て台無しになってしまうよ!落ち着くんだ!」
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