昔昔、ある所に、一つの大きな穴があったとさ。
その穴は何でも叶えてくれる穴だとさ。
何でも叶えてくれるその穴は神が作った穴だとさ。
『…って、いうお話が昔からあるんですよ〜』
『へーそうなんだな』
『もう少し興味を持って頂けませんか⁈』
日本はプクッと頬を膨らまし、そう告げる。
俺はそんな日本を軽くあしらって、
『コーラ買ってくる』
とだけ言って日本を置いてその場を去った。
ガコンッ
音を立てて出てきたコーラを手に取り口に運ぶ。
口に入るシュワッとした味が俺は好きだ。
先程の日本の言っていた昔話。
興味がない訳ではない。もっと言えば知っていた。
俺が自身で調べた訳では無いが、昔、ある男に教えてもらった事がある。
まぁ、教えてくれたソイツはもういないけど
俺は勢いよく飲み干したコーラの缶をゴミ箱に放り込んだ。
『この前のお話なんですけど、その穴はこの会社の…』
『この会社の裏にある山のふもとにあるんだろ?』
俺は日本が言うより先に口を開いた。
そんな俺に、日本は目を見開く。
日本に昔話を聞かされて早2週間が過ぎた。
正直、流石にもう昔話をしないだろうと思っていた。
『何故穴がある所をご存知なんですか?』
日本は分からないとばかりに首を傾げる。
『…昔知人も同じ話をしていたんだ』
俺はそう言い苦虫を潰す。
…少し、辛い気持ちになったのは気にしないでおこう。
『そうなんですね』
日本のそう応える声が、遠く、静かに消えるように聞こえた。
『…おしっ、行くか』
俺は自室のベッドから飛び起き、家を出た。
今は夜の10時。周りは暗く、灯りも街灯頼り。
そんな中、俺はある場所に向かう。
向かった場所は今朝、日本と話していた会社の裏にある山だ。
…何故行くのか。それはとてもと言っても言い表せない程に、後悔をしている事が一つだけ俺にはあるから。
『はぁっはぁっ…マジであるし…』
真っ暗な中、俺は何とか山のふもとに例の穴を発見し、ゆっくりと近づく。
俺も正直な話。穴を見るのは今回が初めてだった。
だからか予想に反して結構な穴の大きさに肝を冷やす。
だがそんなモタモタして時間を潰す暇などこれっぽっちもないからと、ポケットに手を入れ中にあるものを取り出す。
それは薄汚れて所々破けてしまっているお守りだった。
俺はそれを穴に放り投げた。
…日本はこの穴の昔話を深くまで知らない。
俺は息を大きく吸う。
この穴の話には続きがある。
それは、この穴に願い事を言えば、もうこの世にはいない者を呼び出す事も何でも出来るという事だ。
またその為には生前、その者が大事に持っていたものを穴に放り投げないといけないという事。
『ー…日帝に会いたい』
大きく息を吸った割には小さく願い事を呟いた。
本当にこんな簡単な事で叶うだろうか?
…だが、そんな俺の不信感は分もたたずに崩れ去った。
『…日帝?』
気が付けば俺の前に日帝が立っていた。
目が日帝を捉えた瞬間、目から涙が溢れそうになった。
俺は日帝に近付き強く、強く抱きしめた。
『日帝…!すまない日帝…』
俺は縋るようにそう言った。
だが日帝は何も答えない。その上体温すら感じられなかった。
…ああ本当に。
『俺もそっちに行っても良いか…?』
俺はポツリとそう溢す。
『日帝といれるなら俺…なんでもするからさ…』
これは口だけの言葉じゃない。
正真正銘、俺の本心だ。
俺は日帝に懇願するように溢した。
そう溢した瞬間、日帝の口の口角が少し上がったのを、俺は気付かなかった。
end
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