キスって本当に味するのかな。
え、するんだとしたらキスする前に食べるもの超重要じゃん…。
そんなことを考えながら、俺はイチゴダイフクを黙々と食べる。
この後にアイツと唇を交わらせるのだとしたら、イチゴダイフクの味?それとも、素材の味…例えば、小麦粉だったりする?
そんなことを俺が考えているのは、今日が五月二十三日、キスの日だから。
…キスの味から想像するのは、なんかズレてるかな。
そんなことは置いておいて、俺はふと、相棒のことを思い出した。
「たまにはゆっくり遊んでくれたっていいのに…」
一応とはいえ付き合ってるんだし?
アイツは…マリキンは、今日も今日とて朝から夕方までバイトをいれている。俺は相棒兼恋人にちょっとした愚痴を漏らして、はあとため息をついた。
「俺よりバイト!?もう、マリキンの薄情者!」なんて言いたい。
…言いたいけど、そんなこと言ったら女々しいな、なんてあしらわれるだろうか。それとも、重いとか言われる?
俺が少し…、いや、かなり?彼に対して重い何かを持っているのは、何となく自覚している。
その理由は俺にあるから、自業自得なんだけど。
まぁそんなこんなで、あんな台詞を言えるわけが無かった。
彼は、ただの友人程度の付き合いと思ってるかもしれないしね…。
今日はいつ帰るかを聞くのを忘れたので、俺は時計を時折チラチラと見る。
「…17時、か」
そろそろ帰ってくるんじゃないか、なんて淡い期待を寄せる。
いつもは寂しくないのに、こういう時は変に寂しいものだ。
とりあえず、そんな寂しさを埋めるために、あと少し残っているイチゴダイフクをもそもそと食べながら、愛しい彼?良い友人?の帰りを待った。
そんなことをしていた、だいたい一分後。
「ただいまー。フサキンいるか?」
愛しい彼!…の声が聞こえた。
もういいや、俺の中では愛しいの!!
アイツがどう思ってるかは分からないけどさ…。
そう思いつつ、俺はダイフクの最後の一欠片を口詰め、玄関へと走る。
「おはへひー!…コホン!おかえりー!」
「お前…イチゴダイフク食ってる?」
「食ってた、の間違い」
「結局食ってんのな。まぁいい」
彼がそう言うと、何やら腰らへんに上手く隠れていたであろう紙袋を俺に渡してきた。
「ほれ、土産」
そうやって俺の目の前に、ロリショタヘブンパフェを差し出す。
わあ、甘味だ!しかも俺に!!
「……え、俺に?」
「え、逆に誰に?」
…俺よりバイト!?って思ってたのが笑えてくるな…。
いや、これで機嫌直す俺が単純なだけかもだけど。
中に見える、ラッピングされた箱。わざわざマリキンが装飾するよう頼んでくれたのだろうか。
もし、これを食べた後にキスをしたら――。
「プリン味のキスってこと…?」
「え、キス?」
「っ」
やっべ、声に出てた。…やらかした。
ここはもう、足掻いても、隠しても仕方ない。
言ってしまおう。これで重いとか思われてもいいや。
「いや、実はさ――」
俺は、さっきまで考えていたこと、思っていたこと、全てマリキンにぶちまけた。
するとどうだ。彼は大笑いし始めた!
「お前、そんなことで…w」
うわぁ、余計恥ずかしい!…というか、あれ?
これは重いって思われてない感じだな?
「重くなんてねーよ」
「むしろ可愛い」
「かわ!!?!?!?!!」
意味不明な叫びを上げてしまった。余計恥ずかしいのパート二。
「で、今のキスはイチゴダイフク?」
「え?あ、まぁ…、理論上は?」
「キスに理論??」
ダメだ、動揺して変なことしか言えない。
あわあわとしていると、マリキンが俺を見て一言。
「じゃあ俺はサラダ味ってことか」
「あ、サラダ食べたんだ…」
「おう」
恐らく、昼ご飯で食べたんだろう。
いや、昼ご飯がサラダって…。
もっとこう、昼ご飯はまともなの食べなさいよ!!なんて変な母性?が芽生えて、そう言いそうになるのをグッと堪える。
じゃあ何?イチゴダイフクとサラダの味が混ざるの?
「…混ざったらヤダな」
「サラダとイチゴダイフクが?」
「あー、うん」
「じゃ、やってみるか」
「!?」
やってみるか、って言いながらもう臨戦態勢どころか、本番…。つまり、優しく抱き締められて唇を重ね合わされていた。
その瞬間、恥ずかしさと嬉しさで頭がいっぱいになった。
わざわざ優しく抱きしめてくるのもマリキンのたらしポイントが高いよね。
こんなの――。
「…ん。どうだ?」
「…味、しません」
カタコト気味に、俺はそう返す。
「なんだよ、しないのか」
普段よりずっとニヤニヤとしているマリキンに、そう返された。
味なんて、するわけないじゃないか。
いや、強いて言うなら。
…めちゃくちゃ、甘いんだろうなぁ。
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