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今日の放課後は、初めてメインの担当を任せてもらった文化祭パンフレットの作成日。
お昼休みのとき、廊下で偶然先輩とすれ違った。
🩷「あ、お疲れ。放課後、よろしくね」
いつも通り穏やかに微笑んでくれた先輩。だけど、その声は低く、いつもより元気がないように聞こえた。
そのときは気のせいだと思っていたけど、 放課後印刷室へ向かうと、その違和感は確信に変わった。
🩷「あ、お疲れ様。待ってたよ」
先輩は先に席に着いて、印刷機のセッティングを始めていた。
だけど、振り返った先輩の顔色は驚くほど青白い。
いつもなら真っ直ぐに私を見る優しい瞳が、今は室内の蛍光灯の光を眩しがるように、細められていた。
作業が始まって一時間。ガタガタガタ、と印刷機が規則的な重低音を響かせる中、私は先輩の様子がずっと気になっていた。
いつもなら誰よりも手際よくプリントを束ねる先輩の手元が、さっきから何度も止まっている。
🩵「先輩、大丈夫ですか? ちょっと顔色が悪いですけど……」
私が心配になって声をかけると、先輩はハッとしたように顔を上げ、すぐにいつもの頼もしい笑顔を作った。
🩷「ん?……あぁ、大丈夫大丈夫。ちょっと寝不足なだけだから、気にしないで」
そう言って、先輩はまた書類に目を落とした。だけど、その直後。
先輩は小さく「……っ」と息を呑み、机に両手をついて激しく顔をしかめた。
こめかみを指で強く押さえる手が、微かに震えている。限界なのは明らかだった。
雨が降りそうな重い気圧のせいか、印刷機の激しい駆動音と、逃げ場のない眩しい白い光が、先輩の偏頭痛を極限まで悪化させているんだ。
🩵 「先輩……?」🩵が一歩近づいたとき、先輩の手から、持っていたプリントの束がガタガタと床に滑り落ちた。それと同時に、先輩の膝から力が抜け、体が大きく傾いた。
🩵「先輩……っ! 危ない!」倒れそうになった先輩の体を両腕で受け止めた。
いつもは大きくて頼もしい先輩の体が、今は私の肩にずっしりと重く預けられている。
先輩は、ぎゅっと目を瞑り、荒い息を繰り返していた。
🩷「……ごめん。ちょっと、……頭が、割れそう……」
いつも優しい先輩の声が、今は消え入りそうなほど弱々しい。私は先輩を支えたまま、ゆっくりと床にしゃがみ込ませた。
そして、壁のスイッチに手を伸ばしてパチッと印刷室の蛍光灯を消した。
🩵は自分の上着を脱いで、先輩の目元を覆うようにかけた。
🩵「光、眩しかったですよね。私がやっとくので、落ち着くまでここでじっとしててください」暗闇を作ると、先輩の荒かった呼吸が少しだけ落ち着いた。
私は先輩の隣に座りをして、熱を持った先輩のこめかみに、そっと自分の冷たい手のひらを当てた。先輩は小さくビクッとしたけれど、すぐに心地よさそうに力を抜いて、私の手に自分の手を重ねた。
🩷 「……冷たくて、気持ちいい。ありがとう……」先輩は膝を抱えたまま、薄暗い印刷室の壁に背中を預けた。少し痛みが和らいだのか、先輩がふっと小さく息を吐き出して、上着の隙間から私を見つめた。
その瞳は、いつもの『完璧な委員長』じゃなくて、どこか心細そうな一人の男の子の表情をしていた。
🩷「……情けないな。本当は、僕が🩵をサポートしなきゃいけないのに」
🩵「そんなことないです。先輩、ずっと一人で抱え込んで頑張りすぎですよ」
🩷「……今回さ、🩵が初めてメインの担当だったから。……頼りない先輩で、ごめんね」
消えそうな声でこぼされた本音。
いつも一歩先を歩いている先輩が、自分のために無理をしてくれていたんだと知って、胸の奥がぎゅっと締め付けられるように熱くなった。
🩵「謝らないでください。先輩が全部一人で完璧にやる姿が見たいんじゃありません。だから、私にも頼ってほしかったんです」
🩵「迷惑なんて思うわけないじゃないですか…。もっと私を頼ってくれないと、後輩としての立場がないです」
先輩は少し驚いたあと、「ふふっ」と愛おしそうに小さく笑った。
🩷「一本取られたな……。じゃあ、これからはしんどい時は真っ先に君に言うよ」
🩵が小さく頷くと、先輩は「よし、約束ね」と満足そうに目を細めた。
それから、少し楽になったのかスッと立ち上がると、私の頭をぽんぽんと叩いた。
🩷「じゃ、約束通り、残りの仕事は全部🩵のね。僕はそこで大人しく座って、作業を見つめておくから」
先輩は私の席にちょこんと座り、私がプリントを揃えてホチキスを留める姿を、じっと見守ってくれた。
🩵 薄暗い校舎を出ると、外はすっかり綺麗な夕焼け空に染まっていた。校門へと続く道を、並んで歩く。
🩵 「明日からは絶対に無理しないでくださいね。ちょっとでもしんどいと思ったら、すぐ私にアイコンタクト送るんですよ?」🩷 「アイコンタクト?(笑)」
🩵 「そうです。そしたら『あ、先輩が弱ってるな』って暗い部屋に連れ出しますから」
🩷 「ふふ、それは心強いな」
先輩は楽しそうに声を上げて笑った。
夕日に照らされた先輩の横顔を見ながら、私は「明日はもっと先輩を支えよう」と心の中でそっと思うのだった。
夕焼け色の約束
翌朝、学校へ向かう廊下で、私はいつもより早く登校する先輩の姿を見つけた。
🩵「先輩、おはようございます」と声をかけると、先輩はいつものように
🩷「あ、おはよう」と穏やかに微笑んでくれた。
だけど、その笑顔はどこか無理をしているように見えた。
朝の眩しい太陽の光が窓から差し込むたびに、先輩は小さく眉をひそめて、光を避けるように下を向いてしまう。昨日の激しい頭痛のピークこそ脱したものの、まだ頭の奥にずっしりとした重みが残っているんだ。
私たちはただの先輩と後輩として、そのままそれぞれの教室へと別れた。
そして放課後。
委員会の定例会のために集まった教室で、私は自分の席に座りながら、黒板の前に立つ先輩をじっと見つめていた。
🩷「――よし、今日の連絡は以上。各自、作業に移って」
先輩の通る声が教室に響き、他の委員たちがガタガタと席を立ち始める。先輩もみんなに配るための分厚い資料の束を持ち上げようとした、そのときだった。
資料が手元からバサバサと机に落ちた。急に動いたせいで頭の奥がズキリと痛んだのか、先輩の体がぐらりと大きくよろめく。
すぐ近くにあった教卓に慌てて手をついて、先輩はぎゅっと目を瞑り、こめかみを強く押さえた。
「委員長? 大丈夫ですか?」と近くにいた他の委員が心配そうに声をかける。
🩷「あ、うん、大丈夫。ちょっと立ちくらみしただけだから、みんなは作業進めてて」先輩は無理に笑顔を作って周りを安心させようとする。
だけど、教卓を握る先輩の指先は微かに震えていて、呼吸も少し浅くなっていた。
夕方になって疲れが出てきたせいで、頭痛の余韻が酷くぶり返してきているのはだろう。
そのとき、先輩がハッとこちらを振り返り、私とまっすぐに目が合った。先輩は私に向けて、他の人には絶対に気づかれないような絶妙な角度で、すがるような、ちょっと困ったような、健気なアイコンタクトを送ってきた。
昨日の帰り道に交わした約束を、先輩は限界の中でちゃんと覚えていてくれたんだ
🩵はすぐ自分の席を立ち、まっすぐに先輩の元へと歩いて行った。
🩵「先輩、お疲れ様です。今日の書類チェックと資料配り、私が全部やります。先輩はあっちの、蛍光灯の光が当たらない席で、大人しく座っててください 」
他のみんなには聞こえないくらいの小さな声で、指示を出す。
すると先輩は、痛みに耐えながらも嬉しそうに目元を緩めて、私にだけ見えるように小さくウインクしてみせた。
🩷 「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて頼っちゃおうかな。……本当に、🩵がいてくれてよかった」
先輩の少し熱を持った低い声が、私の耳元に優しく届く。
いつもなら指示を出す側の完璧な先輩が、体調が悪くて私にだけこうして素直に甘えてくれるのが、たまらなく愛おしかった。
先輩は大人しく指示に従って教室の隅の席に座り、机に両腕を枕にして突っ伏した。眩しい光を遮るようにギュッと目を閉じている先輩の横顔は、気の毒なくらい痛みに耐えている表情をしていた。私は他の委員にテキパキと指示を出しながら、先輩が少しでも休めるように早足で仕事を片付けていった。
一時間後。
「お疲れ様でしたー」と、最後の委員が教室を出て行き、ガタリと扉が閉まる。教室には、私と先輩の2人きりになった。
🩵 「先輩、みんな帰りましたよ。大丈夫ですか……?」そっと近づいて声をかけると、先輩はゆっくりと頭を持ち上げた。
だけど、その瞬間にまた酷いめまいが襲ったのか、先輩は「うっ……」と短く呻いて、自分の額を私の肩のあたりに、すとん、と預けてきた。
🩵「……あ、先輩……っ?」
🩷 「ごめん、ちょっとだけこうさせて……。急に頭がガンガンしてきて、動けない……」
先輩の吐き出す息が、昨日みたいに熱を帯びていて、私の制服の肩越しにじんわりと伝ってくる。周りに人がいる間、ずっと気を張って痛みに耐えていたんだ。
完璧な先輩が、2人きりになった瞬間に見せてくれた、本当の限界の姿。
🩵はそっと手を伸ばし、先輩の髪を優しく撫でた。
頭痛の余韻に苦しむ先輩を、今度は私がしっかりと支えてあげる。夕暮れの静かな教室で、2人だけの特別な時間が、ゆっくりと流れていった。
END
コメント
7件
わあ、もう…胸がぎゅっとなりました😢💙 完璧な先輩が、限界を超えて倒れそうになる姿が本当に切なくて。でも、「一本取られたな」って笑って、🩵にだけ甘えるようになるその流れ、すごく好きです。 あと、翌日のアイコンタクトの約束をちゃんと覚えててくれたところが…もう、健気すぎて泣けます。 最後に2人きりで、先輩が🩵の肩に額を預けるシーン、言葉はいらない優しさが詰まってて、何度も読み返したくなりました🌇 素敵なお話をありがとうございます🩵