──夜風が心地よい。
シオン・ヴェルナーは高層ビルのテラスでワイングラスを傾け、月を見上げていた。
街は静かで、統括組織の監視の目を逃れたこの隠れ家では、彼の逃亡者としての肩書きがまるで嘘のように思えた。
「逃げ続ける人生も悪くないな」
独り言のように呟き、ゆっくりとグラスを回す。琥珀色の液体が揺れ、グラスの中で踊る。
彼は数ヶ月前、組織を離反した。正式な手続きを踏んだわけではない。
当然、今や組織の手配書には彼の名が載り、数々の追手が彼を仕留めるために動いている。だが、シオンに焦りはなかった。
「まるで貴族気取りだな」
低く、皮肉めいた声が聞こえた。振り向くと、黒いコートを羽織った男がこちらを睨んでいる。ギフターのならず者たちの一人、カインだ。
「何か文句でも?」
「逃亡者らしく身を潜めてりゃいいものを。ワインなんか嗜んでいる場合か?」
「逃亡者だからといって、全てを失うわけではないさ」シオンは肩をすくめた。
「それに、どうせこの世界は私を殺したがっているのだ。最後の晩餐には少々早いが、楽しまない理由はないだろう?」
カインは舌打ちした。「お前みたいな奴が、いちばん厄介なんだよ。いざって時に逃げそうだからな」
シオンは微笑んだ。「安心しろ、私は戦うよ。だが、優雅さは忘れない主義でね」
その時、遠くで爆発音が響いた。夜の静寂を破る轟音。統括組織の追っ手だろう。
シオンはグラスをテーブルに置くと、ゆっくりと立ち上がった。
「さて、狩る者と狩られる者──今宵はどちらになるか?」
そして彼は、静かに「奈落の鎖」を発動させた。闇に溶けるような黒い鎖が、彼の腕からゆっくりと現れる。
「行こうか、カイン」
彼は優雅に笑いながら、戦場へと足を踏み出した。
──逃亡貴族の夜は、まだ終わらない。
作者から雑談ルーム
「これは前日譚です。呪術でいうところの0みたいな?(((5話ぐらいやってそっから参加型始めます」
コメント
2件
5話から…!!参加予約です!!(
5話くらいからね...了解!! てなわけで参加!!!!!!!!!(((((は?