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席に戻りますと、誰かが座っておりました。
見ると、少年が置いていった蜜柑を頬張る女性が居ました。
「あ、すみません。お腹が空いていて……。」
「良いんですよ。どうぞ食べてください。」
そう促すと、また蜜柑の皮を剥き、四房ほど一気に口に入れました。
「言い忘れてましたが、相乗り失礼致します。」
取って付けたように言う女性を見ていると、なんだか笑えてきました。
挨拶すら忘れてしまうほどの食い意地なんて、見たことがなかったからです。
外を覗きますと、そこには虹が架かっていました。
空気中の水分によって星の光が屈折したものらしい、とさっき商人が話していたことを思い出しました。
「蜜柑も良いですが、外も美しいですよ。」
そう声を掛けますが、女性は生返事をするだけでちらりとも外を見ません。
それもまた面白く、つい声を上げて笑ってしまいました。
「すべて食べてしまうとはね。」
「すみません。美味しくて。」
「いやいや、人が食べているところを見るのは楽しいものです。」
それにしても、十以上もあった蜜柑を平らげてしまうなんて、相当お腹が空いていたのでしょう。
「そういえば、貴方はこの列車が何処へ行くかご存知ですか。」
そう言いますと、照れ臭そうな女性の表情が引き締まりました。
「その話をするのなら、私の人生に乗ってもらわねばなりません。」
頷くなど反応をするより早く、我々を幻灯が包み込みました。
※虹の仕組みについてはフィクションです。星の光から虹が生まれることはありません。