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nk視点




食堂できんとき君に会った日、俺は久々に自分の家に帰ってきた。1Kの狭い部屋に入れば生温い空気が肌に触れる。

梅雨が明けもうすぐ夏が来る、そんな季節に差し掛かったことをこんな瞬間に感じるとは。


持っていた荷物を適当に床に放り、側にあったベッドに身を投げる。暑さに溶けて、深く沈んでしまいそうになりながら独り言をこぼした。



nk   「…はぁぁ、……おれ何やってんだろ、まじで………。」



うつ伏せから寝返りを打って天井を見上げる。

何を見るわけでもなく、ただぼーっと今日あったことを思い出していく。片手に持ったスマホを視界に映し、メッセージアプリを開けば、今日出会った“きんとき”と名乗った青年のアカウントが目に入る。




nk   「………誰だよ、お前……、。」




思わず声を掛けてしまった。



あの時ぶるーくに話した、綺麗な黒髪に左目下の泣きぼくろ。青空と桜をバックにさらさらと髪を揺らす様子はまさしく、





ーー俺の、創作物の中の話だった。





咄嗟に言い放った、自分への“嘘”のはずだったのに。


彼を見たあの瞬間、まるで本当に自分の作品に入り込んだかのような感覚。

想像していた映像が目の前に再生されたような感覚に陥った。




大学に入って“あいつ”と出会ってから、自分の気持ちに蓋をしたくて書き始めた物語だった。


主人公の想い人には、真逆の髪色に性格を。

話し方も、年齢も。

表情に、容姿すら。


忘れたくて、

自分の気持ちに見て見ぬ振りをしたくて。


そしていつか、軽々しいこの気持ちが廃れていくのを待っていた。


それでも今日、“あいつ”の“本命”を見てそんなことは無駄だったんだと気づく。




nk   「……スマイル君、綺麗な顔してたな〜…、」


「…ありゃあ、敵わないかぁ……、っ、」




“彼”のあの笑顔を引き出したのは、1年間一緒にいた俺じゃ無かった。




“あいつ”が好きになって欲しくて、必死になった相手は俺なんかじゃ無かった。




“きりやん”が本気で好きになったのは、俺じゃ無かった。



nk   「…そりゃそっか。おれ、なーんにもしてないもんなぁ………。なんも…、」



大学に入り、きりやんと出会って好きになったとき、彼がゲイだって聞いて嬉しくて仕方なかった。初めて男を好きになってから、好きになった人の恋愛対象が同じだったことなんて、一度も無かったから。


でも、だから好きになってもらう方法が分からなかった。その結果、彼が本気にならないであろう男の子を紹介して、自分が居心地の良い居場所になる事でしか彼を自分に引き止めることができなかった。


ぽっとでの奴のくせに!


なんて面倒くさいことは言わない。

言わないけど、


nk   「また、…だめだったなぁ、」


もう数えるのもやめた、何度目かの失恋。


毎度毎度、自分の事ながら涙の一滴さえ流れないことに嫌気がさす。確かに好きだった筈なのに、失恋する度に己の抱く好意の軽薄さが露呈する。



nk   「……はぁぁぁぁ、…よし!」



もう終わったんだ。彼に好きな人ができた時点で俺に入る隙はない。



『俺ら人のもんには手出さないのになー!』



あの言葉は、嘘じゃない。


これまでも、これからも俺ときりやんは友達。


それ以上でも、以下でもない。


俺は大きなため息と共に、1年の恋に終止符を打った。





となれば、問題は一つ。



想像したまんま、想い描いていたまま現れた青年。驚きすぎて大声で叫んだのを誤魔化そうとして、勢いで聞いた連絡先。

寝転んだままの体を起こして、スマホに映し出されたトーク画面と向き合う。


nk   「なーんで連絡するなんて言っちゃうかな〜、俺はほんとに…、」


きんとき君のプロフィール画面を開きながら、自分への文句を垂れ流す。


nk   「…ぁ、この曲。」


彼のアカウントに設定されていたBGMが目に入る。俺の好きなインディーズバンドの曲だった。

インディーズなだけに知っている人も少なければ、刺さる人も限られている。このバンドもぶるーくやきりやんにも勧めたけど、どうにもハマらなかった。


nk   「めずらし、同じバンド好きなやつ初めて見た…。」


そこからは、ただただ興味本位でメッセージを送ってみることにした。








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1,109

コメント

7

ユーザー

nkさーん!!恋ってマジですか?!好きであってもkrの好きな人には手を出さないと決めてるあたりめちゃくちゃすごいですよ!!続き楽しみです!

ユーザー

更新ありがとうございます!! nkさんそうだったんですか……!!😭報われないの悲しい……続きが楽しみです……💞

ユーザー
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